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卒業不可?だった話

昨日は、友達に作ってもらったメールで教授に直談判をしたところまで書いた。

メールを作ってくれた本人は、今朝LINEで
『ついに俺回が来たね』
って言ってました。
待ってたんだね〜俺回。よかったなあ俺回。初めて聞いたよ俺回。俺回。


でね、そのメールね、何と数時間後にあっさり返信があったんです。
内容としてはこう。
『教務から申し入れがあり、中西さんがリモート受講であったことが再度確認されました。
私もあなたに、リモート受講を認め、小テストの受験を出席に代えるというメールを出しておりました。
ただ中西さんの素点はD評価なので、このままN評価だとしても不可には変わりありません。
しかし卒業できるチャンスがあるということで、NからDに評価変更をしました。
教授会に通れば再試の可能性がありますが、決して簡単ではないので覚悟して臨むように』
素でガッツポーズが出た。
あんなに勢いよくガッツポーズをするのは、あの時の私かWBCの球審くらいだと思う。

要するに、
『お前がリモート受講だったの忘れてました。別に謝んねえけど再試がんばれな』
ということ。
謝んねえんか!と、母は騒いでいた。
まあいいわ。成績覆してくれたし、謝るとかもういいわ。ありがとうございます。

そのメールには自分の言葉で返した。
怒りは滲まなかった。

これでやっと、第一関門突破。


さて翌日3/10。またバイト。
前日に職場の先輩から業務関係のLINEが来ており、その画面を確認しながら働く必要があったので、普段持ち込まないスマホをたまたま仕事場に持ち込んでいた。
仕事中、ふとスマホを入れた棚に目をやると、画面が光って教務課からの着信を知らせていた。
なんだなんだ。まだ3/10だぞ。成績不服申し立ての返事は3/14のはずだろ。

電話に出ると教務課の人が開口一番、
「今お送りしたメール、ご覧になりましたか!?」
と言う。もちろん見ていない。
急いで確認すると、再試の許可と、今後の日程に関する連絡だった。
そのメールには、
・再試を許可します
・問題文はこれ、答案は3000字以上のレポートで出すように
・締切は3/13の12:00です
・追加卒業者の発表は3/14の13:00までに行います
と書いてある。わあ。

前例がないにも関わらず、教務課の人が相当がんばってくれたことがわかった。
何しろ、成績不服申し立ての返答を4日も巻いた上で、教授に掛け合って再試の問題を出題してもらい、私に送ってくれているのである。
更には今後、問題を解く時間を3日間も確保した上で、答案の採点と結果発表までを25時間で行うという。
だからもし私が再試に受かれば、3/31に間に合うどころか3/17の卒業式にも間に合う。
しかも再試の形態は、私がリモート受講であることを考慮して、大学現地での試験ではなくレポート。

すごい。すごいよ。仕事ができるにも程がある。教務課の人の独断じゃ絶対できないことを、色んな人を巻き込んでやってくれている。超めんどくさいのに、私が卒業したいって言ってるからって、ここまでやって頂いている。ありがとうございます。ありがとうございます……!

これは何としても再試に受からねば。

それは、がんばってくれた教務課の人に報いるため。
再試を認めるメールを受け取ってなお、
『中西が再試に受かって卒業できるまで、十字架は下ろさない』
と言い張る友達のため。
卒業式に来てくれるフォトグラファーの友達のため。
母のため。
あとそうだ忘れてた、自分のため。

いきなり卒業の可能性が見えてきて、しばらくぶりに元気が出た。
ああ、よく考えたら今日は、このバイトの最終出勤日だったな。
今日までの4日間は、半死半生のような最低限の働き方をしてしまった。
今日はそれを取り返すくらい、最後までしっかり働かなければ。
柔らかい気持ちでバイトに戻った。

ここで少し、バイトの話をしようと思う。

私のバイト先は、私が育った町のとある老舗栗菓子屋である。配属先は本店。
うちの商品は日本中の大きい百貨店に置いてあるし、東京だとデパ地下とか成城石井にもある。
長野に帰ってきてから働き始めて2年が過ぎたのだが、入社タイミングやら同期のメンツやらいろんな事情が重なって、社員とほとんど同じような仕事をしている。
新入社員研修にも行ったし、最近は2月の大規模人事発令のおかげで、私よりだいぶ年上の先輩たちに自部署の業務を教える羽目になっている。なんだそれは。
ただ、仕事内容が嫌いでないのと、学生だから!と言い張ってシフトに融通を利かせてもらっているのと、バイトの分際で責任問題に首を突っ込まないようにしているのと、何より部署の人々が私を相当かわいがってくれているおかげで、全く苦ではない。

部署の人々にどれだけ私がかわいがられているかと言うと、それはそれはもう、である。
仕事なのに全然ピリついたこと言われないし、私がプライベートのことを話せばみんな大体覚えててくれるし、何かにつけて美味しいものをくれるし、バイト帰りに家まで送り届けてくれるし、職場に水筒を忘れた日には、洗って乾かして置いてある。それはやりすぎ。いやそんなもの忘れてきてすいません。
部署全員の言動が全部温かくて、人間って怖くないんだなあ、と初めて思った。

もう部署の全員がそういう勢いでかわいがってくれるのだが、特にお世話になっているのがMさんである。
Mさんは私の母より少し年上なだけであるが、あれ私この人の孫だっけ?と勘違いしそうになるくらいには波長が合う。

Mさんに関して印象的なエピソードがある。

去年の夏、大学に復学するにあたって、当初はバイトを辞めて上京する予定だった。
となればバイトのシフトを気にしなくとも良いので、1週間ほど旅行することにした。
しかし結果的にはリモート受講が認められ、バイトを辞める必要がなくなった。
なので旅行をしていた1週間、シフトに穴を開けることになった。
旅行中にお土産を買って、
『(会社名)を辞めて旅行するつもりが、辞めずに1週間もお休み頂いちゃった!ごめんね!これ食べてね!』
みたいなメモ書きを添えて部署の休憩室に置いておいたら、Mさんが『(会社名)を辞めて』というところを読んで、寂しくて泣いてしまったらしい。え?
ガチのトーンで話していたので、たぶん本当の話。
Mさんってそういう人です。私はかわいがられているどころか、心から愛されすぎている。そして私もMさんのことが大好き。

Mさんもいるしみんなもいるし、仕事内容も気に入っているので、私はバイト先が結構好きだ。
会社自体には色々あるけど、私の部署は最高なのだ。
卒業不可がわかって真っ先に相談したのは職場の子だし、その子に限らず部署のほぼ全員に愚痴ったり、励ましてもらったりした。

ただ、Mさんにだけは言えなかった。
Mさんに最後に会ったのは、卒業不可がわかる前日に一緒に映画を観に行ったとき。
閑散期ということもあってMさんは連休で、この3/10に4日ぶりに会った。
会わなかった間も連絡は取っていたのだが、卒業不可だったことは到底言えなかった。
私が落ち込んだ気持ちのまま文面でこんな話をしたら、心配すぎてまた泣いてしまうかもしれない。ていうか倒れるかもしれない。
本当に優しい人だから、大袈裟でなくあり得ると思った。

なので3/10に、面と向かってわざと超ニコニコしながら話した。
卒業不可を食らったこと、それでも卒業の可能性があったこと、さっき再試を認める連絡が来たこと、再試レポートの〆切が週明けの月曜だということ。
話すうちに、Mさんの顔色はみるみる険しくなった。あーダメか。こんなに笑ってるじゃないの私。
話を聞き終わったMさんは、おもむろに別の部署へ内線をかけ始めた。
『あー、〇〇さん?ごめんね、そっちにヘルプ行ってもらってるのに申し訳ないんだけどさ、今日はもうこっちに戻ってきてもらってもいい?ちょっと忙しくなっちゃって。いい?ごめんね。はーいありがとうー』

うん?

電話を切ったMさんは私にこう言う。
「さきはもう、帰ってレポートやんなさい。今から〇〇さんこっちに戻ってくるから」

うん?????

いやあのMさん、だって私今日17:30定時だし、まだ14時にもなってないし、しかも最終出勤日だし、誰が締め作業やるのって、申し訳な「いいから、こっちのことは」

……ええ。

……わかった。わかりました。帰ります!

有無を言わさぬ剣幕の理由が愛情であることは、火を見るよりも明らかで。

『確かに仕事には責任感を持ってあたるべきだが、私の代わりはいくらでもいる。だから、私が全て抱える必要はない』
これは、私がこのバイト先で学んだこと。

Mさんと〇〇さんに大感謝をして、帰ることにした。
「今日が最終出勤だったんですけど!ご挨拶にはまた改めて来るので!今日ちょっと早めに上がります!長い間お世話になりました!失礼します!」
とか部署中の人に向かって叫びながら退勤し、家まで走って帰った。

ちなみにMさん、実は私と同じ立場の大先輩なので、普段は他部署にヘルプに行った人を呼び戻したりとかはしないです。立場的にもそうだし、キャラ的にもしないです。なのにね。愛だね。

息を切らして家に帰って、必死にレポートを書いた。


そして3日後の月曜日、レポートが書き上がった。
個人的にはかなり良い出来だと思った。
今考えても、あれ以上のものは書けない。

何度も何度も確認して、レポートを提出した。
受領したというメールが届いた。

そうしたらもう、翌日の追加合格者発表を待つのみである。

卒業できててくれ。お願い。


続く。


(photo by tsuchiya mugiho)

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