第五話 TOKOYO DRIVE

「ゲームエンジン<TOKOYO DRIVE>は、この<刀剣ロボットパラダイス>の地下迷宮最深部の先、『火星ステージ』のどこかにあると言われています」

 <常世岐姫命>はライトの方を向き直って語りだした。

「それを僕が探せばいいのですか?」

 ライトは訊き返した。

「そうです。この転位魔方陣の先に『火星ステージ』があります。だけど、そこには竜頭蛇尾のボトムウォーリアー数千機が護っているという情報があります。おそらく、ライト君のSSSR《トリプルエスレア》クラスのボトムドール<紅《くれない》>以外ではこの任務は無理でしょう」

 桜色の双眸が懇願するようにライトを見つめた。

「なるほど、それならわかります。また、聞いちゃいますが<TOKOYO DRIVE>とはどういうものなのですか?」

 ライトは少し誇らしい気持ちになって安請け合いした。

「ゲームエンジン<TOKOYO DRIVE>とは<刀剣ロボットパラダイス>に組み込まれたプログラムのひとつです。だけど、その役割は『異世界からやってくる侵攻者をこの世に導く門《ゲート》』なのです。あれを破壊しなければ、<異世界侵攻軍>からの侵略を防ぐことができないのです」

 <常世岐姫命>の瞳が一瞬、紅色に燃え上がったように見えた。

「分かりました。僕も微力ながらがんばってみます。安心して下さい」

 ライトは英雄願望を刺激されて宣言した。

 確かに、<刀剣ロボパラ>の中ではライトのSSSRクラスのボトムドール<紅>は無双の力を発揮してほとんど無敵に近かった。
 この機体の力ならば、数千機のボトムウォーリアーにも引けは取らない。

「安心しました。よろしくお願いします。ライト君」

 <常世岐姫命>が彼の最愛のアンドロイド『エリィ』の姿で微笑んだ。

 ライトにこの依頼を断ることなど最初からありえない事だった。

「あ、<常世岐姫命>さま、竜頭のボトムウォーリアーが現れたようです」

 ライトはボトムドール<紅>のメインモニターを見つめた。
 <常世岐姫命>もそちらの方に向き直った。
 そこにはライトの機体の十倍ほどの巨大なボトムウォーリアーが映っていた。
 ライトのボトムドール<紅>は物陰に隠れてると同時に、隠蔽装甲《ステルス》で姿を隠していた。
 万が一にも見つかる心配はなかったが、音波探知なども警戒して息を潜めた。

 竜頭のボトムウォーリアーは転位魔方陣の中央に進んでそこで動かなくなった。
 緑色の光がに包まれてしばらくすると、霞のようにその姿が消失していった。

(では、ライト君もあそこに進んでください。転位魔方陣は三分間は転位が継続します。今ならライト君も『火星ステージ』に転位できます)

 <常世岐姫命>の言葉は思念波《テレパシー》に変わった。
 ライトは静かにうなづいく。

(はい。では、行きます)

 ライトはボトムドール<紅>は反重力エンジンで滑るように転位魔方陣に移動した。
 まもなく、ライトの機体も緑色の光に包まれて転位していった。


    †



 転位先につくとライトはボトムドール<紅>を駆って、竜頭のボトムウォーリアーを追った。
 <刀剣ロボパラ>の『火星ステージ』は本物の火星のように赤い砂と岩石に覆われた地表だった。
 ライトは砂があまり舞い上がらないように、反重力エンジンで少し浮き上がって追跡していった。

 しばらくいくと、大きな岩山が出現して洞窟のようなものが見えた。
 竜頭のボトムウォーリアーはその暗い入口から中に入っていった。

(追うしかないですね?)

 ライトはエリィの姿をした<常世岐姫命>に判断を仰ぐように尋ねた。

(そうして下さい)

 <常世岐姫命>は当然、そう答える。

 ライトのボトムドール<紅>は用心しながら洞窟に侵入していった。
 洞窟の中はかなり高い天井になっていて、巨大なボトムウォーリアーが楽々と通れるようになっていた。
 壁はぬるぬるとした気味悪いスライムのような植物に覆われていて、まるで何か巨大な生物の体内にいるような雰囲気だった。
 床も同様でライトのボトムドール<紅>は反重力エンジンで少し浮きあがって進んでいた。

(どこまでいくんでしょうね?)

 ライトは不安になって訊いてきた。

(分かりません。このまま追跡してください)

 <常世岐姫命>のもつ<時空眼>でも、この洞窟の先は見通せないらしく、ライトにそういいうしかなかった。
 実は時空間がゆがんでいて、さすがの<常世岐姫命>にも見極めが難しかったのだ。
 つまり、この時空偏位こそが、ゲームエンジン<TOKOYO DRIVE>に近づいてる証拠でもあり、時空のゆがみの結節点こそがブラックホールのような『異世界転位門』である可能性が高かった。

(あれは!)

 ライトは思わず心の中で叫んだ。
 声を出すまいと唇は必死で結んだままだ。

(『異世界転位門』! ライト君、戦闘準備をして下さい)

 緑色に瞬く光芒がライトの視界の前に開けた。
 同時に、巨大なジオフロントの空間に千機ほどの巨大なボトムウォーリアーが地下要塞を守護していた。 
 さて、どうやって倒すか。
 ライトはSSSRクラスボトムドール<紅>のもうひとつの光子波動エンジンをゆっくりと起動した。

 



(あとがき)

昨日、締め切りでしたが10万字ぎりぎり間に合って、カクヨムSF小説大賞応募できました。続きもまだ書いていきますが、完結まで頑張って書き切りたいと思います。


 

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