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選ばれた者たちは、私達の道を照らし得るのか(未完)

But now I’m here to make it end
(そして今、僕はそれを終わらせるためにここにいる)
ー『Youtiful』Stray Kids

StrayKidsに出会う

 YouTubeの海を彷徨っていた時に偶然見つけたグループ。韓国の8人組アイドルグループ「StrayKids(ストレイキッズ)」だ。THE FIRST TAKEに出演し『case143』という楽曲を披露した彼等の動画を見て、その曲がいたく気に入った私は、自然な流れでいろいろな動画を見るようになった。容姿端麗で個性的なメンバー、派手で目を奪われるパフォーマンスに私はすっかり魅了されてしまっていた。

 しかしだんだんと見ていくうちに、なんとなく無視できないものをメンバーに対して感じていた。彼等は「完璧」すぎるのだ。

隙がなく「完璧」な彼ら

 そもそも彼等は選ばれた人間だ。オーディション番組で選ばれた人間の中から、リーダーのバンチャンによってメンバーが集められ、一人脱退した後、現在のStrayKidsになった。オーディションで選ばれるということは、スターになる素質を持っている人物ということになる。誰にでもチャンスはあるとはいえ、オーディションに合格する、つまり「選ばれる」者は限られた人間だけ。

 そんなオーディションで選ばれたメンバーには、才能や生まれ育った環境に恵まれた者が多い。
 楽曲制作を担当する『3RACHA』の一人であるチャンビンはかなりのお金持ちの生まれで、実家に帰省した際の映像には立派な家と素敵な家族が映っており、裕福な家庭で育ったことがうかがえる。オーストラリアで生まれ育ったバンチャンやフィリックスも同様で、メンバーはそれぞれ多少の差はあれど、恵まれた環境で育っていることがわかる。ダンスを得意とする『ダンスRACHA』の一人、リノは、音楽専門学校で振り付けを専攻しプロの振付師になるための修練を積んでいた経験があり、韓国の大きな大会に出場して輝かしい成績を残す実力派で、ことダンスにおいてはメンバーを引っ張る存在だ。メインボーカルを担当する『ボーカルRACHA』のスンミンとアイエンは、天使のような歌声を持ち、その歌声でグループを支えている。

 メンバーの人柄を見ても、みんな穏やかで優しく、協調性がある人間ばかりだ。上品で賢さが窺えるスンミンや、優しくいつも笑顔でみんなから愛されるアイエン、お喋りでいつも明るくメンバーに振る舞うハン、そして何と言ってもファンの間では「スキズの“パパ”」の相性で慕われる、メンバーの一人一人に深い愛情を示し、ファン(通称“STAY”)への配慮も欠かさない愛に溢れたバンチャン。そんな彼らはメンバー同士仲が良く、それぞれが得意分野を生かして活動していく中で、お互い切磋琢磨して各々のスキルを磨き続けている。書いているとキリがないが、StrayKidsのメンバーは容姿、人柄、実力それぞれパーフェクトで本当に「完璧」なのだ。

 もちろん、努力で手にしたものがあることは承知の上で、生まれ持った優秀さや恵まれた環境なども、やはり無視できない要素だ。さらに、与えられた環境の中で努力していても、その中で人気を勝ち得るのには運も必要である。そういう点でも、運は彼等に味方しているのだと思う。数多あるK-POPグループの中で、一線で活躍できるようになるのはとてつもなく狭き門に違いない。様々な要素が彼等の味方をして、今大注目を集めるグループに上り詰めている。

選ばれた人間と、その他の人間

 私は彼等を知ってから、完璧すぎて隙がないメンバーに多少ダメージを喰らっていた。パフォーマンスやスキル向上のために彼等は練習や勉強を欠かさない。おそらく休む暇もないのだろう。なんでそんなに頑張るんだ…とぐうたらの私なんかは思ってしまうが、そうでもしないと生き残れない厳しい競争社会に彼等が放り込まれていることもまた事実だ。ステージ上でキラキラ輝く彼等を見ていると、元気をもらう反面、圧倒的な人間としての“差”みたいなものを見せつけられているようで苦しくなってしまう。韓流スターと一般人の自分を比べるのは間違っていると思うが、しかしこの世には彼等のような「選ばれた」人間“ではない”、私のような人間の方が圧倒的に多い。(しかも私なんかは選ばれていない上さらに低い位置にいる存在…) そういう者たちに、彼ら「選ばれた」人間の音楽は、想いは、果たして届くのだろうか…。性格の捻じ曲がっている私は、彼等をスマホの画面上で見ながらそんなことを考えていた。

 私は音楽や文学の世界にかなり救われてきた人間なので、本当に地を這うような状況に居て、それでも光を与えてくれた人物や作品というものがいくつかある。「もう駄目だ、もう生きていけない」というほどどん底にいた時そういう人物や作品に救われた。地位や生まれた境遇、年代など関係なく、もがき苦しむ人々にも届くような言葉。

 ここで書こうと思ったのは、StrayKidsの音楽やパフォーマンスも、そういうものの一つになる得るのか?という問いが私の中にあったからだ。つまり、「選ばれた」彼等の音楽は、本当の意味で彷徨っている/彷徨わざるを得ない(StrayKidsの“Stray”とは“彷徨う”という意味だ)私達にも届くのか? 道を示す希望の光となるのか?ということである。

ーーー

『S-Class』と『Youtiful』
ー特別な存在としての/“君”を支える存在としての、星。

 今年発売されたアルバム『★★★★★(5-STAR)』。このアルバムの正確なコンセプトはわからないが、“星(star)”というワードがかなりキーになっている。『S-Class』と『Youtiful』という2曲にも星というワードは重要なものとして使われている。この2曲から私なりに受け取ったメッセージを書いていこうと思う。

光、きらりと輝けー『S-Class』

두리번두리번 어중떠중 띄엄띄엄 보는 애들이
(キョロキョロする烏合の衆 適当な奴らが)
뻔쩍뻔쩍 빛나는 것들만 보면 달려 버릇이 no no
(キラキラ光るものをみると走る癖が nono)
빛나는 걸 쫓기보단 빛나는 쪽이 되는 게 훨씬 폼 잡기 편해
(輝くものを追うよりは輝くものになったほうがずっと格好つけやすい)
Shine like a diamond ‘k?
(ダイヤモンドのように輝け、いいね?)
ー『S-Class』StrayKids

I feel like the brightest star
(僕はまるで一番輝く星のよう)
빛이 쏟아지는 밤

(光が降り注ぐ夜)
하늘을 바라보면 내 모습 수놓아져 있어 yeah yeah
(空を見上げると自分の姿が縫い取られてあるんだ)
ー『S-Class』StrayKids

 アルバムのリード曲『S-Class』は、「輝くものを追うばかりの烏合の衆に成り下がるよりも、自分自身が輝け」と歌う。輝く“光”に人間の“人”で「光人」(韓国語でグァンイン、これは『狂人』という意味の韓国語と発音が同じ。こういう遊びが彼ららしい)。自らが光を放ち続ける。光はさらに広がっていく。だから俺たちは特別なんだ、と歌う。

たくさんの星が側にいるから、君は大丈夫だ。ー『Youtiful』

 この曲は、グループのリーダーであるバンチャンが書いた詞が素晴らしく、とても感銘を受けた曲だ。インタビューの中で彼はこんなことを言っている。

バンチャン「僕たちがいつもSTAY(ファンの総称)に言われてる言葉があるよね?『チャンさんはこのままがいい』『身長が低くてもいい』。聞く立場でいることが多いんだ。もらってばっかりのような気がして。STAYが僕たちに話してくれる言葉を同じように話してあげたいという気持ちで書いたのが『Youtiful』だったんだ。」

〈https://youtu.be/iNPgj-ZJql8〉より

 不安な日々を過ごし、自分に自信を無くしているファン達に“君は僕の目には完璧に映る だって君の目には宇宙が宿っているのが見えるから” “自分自身を疑ったりしないで、たくさんの星々が君のそばにいることを忘れないで”といたわりと励ましの言葉を、バンチャン特有の深く暖かい優しさで包んで送る。

I know that feeling too,I’ve been inside the dark.
(僕もわかる、僕も暗闇の中に居たこともある。)
I’ve never been so empty,hopeless.
(そんな虚しさ、絶望を初めて感じた。)
ー『Youtiful』StrayKids

 バンチャン自身も、長い下積み時代を経てデビューを掴んだ人だ。中学1年生の頃、幼い頃から住んでいたオーストラリアから離れ一人で韓国に来て、練習生として過ごした。慣れない環境で愛する家族もいない中、心細かっただろう。それから7、8年間の練習生期間の中で、周りの練習生たちが辞めてしまったり、次々とデビューしてしまったりして宿舎で一人ぼっちになってしまった時もあったという。しかしそんな時期を乗り越え、メンバーを自ら集め「StrayKids」としてデビューを果たすことができた。
 『Youtiful』の歌詞には、バンチャンのそんな経験が反映されていると読むこともできる。

Let me tell a little story
(少し話をしてもいいかな)
About tha star that couldn’t shine or blink
(輝くことも瞬くこともできない星の話)
Out of a million, billion,
(一億個の星の中から外れて)
Felt like an alien,alien
(まるで宇宙人のようにひとりぼっちだった)
Then that little star was surely
(確かにあの小さな星にはそんな時があった)
Going to become tha biggest thing
(そして、その星は世界で一番大きなものになるんだ)
Making a fantasy,family
(幻想的な物語や家族を生み出して)
Beautiful galaxy,galaxy
(美しい銀河になっていくんだ)
ー『Youtiful』StrayKids

 “まるで宇宙人のようにひとりぼっちだった” は、実家から遠く離れた土地で先の見えない練習生時代を過ごしたバンチャンと重なる。バンチャンはその後「StrayKids」と「STAY」という家族を形成し、着実に大きな存在になっていった。『S-Class』で歌われている“僕はまるで一番輝く星のよう”は、実は『Youtiful』の歌詞と地続きで、元々は他の星々からはぐれてしまった小さなひとりぼっちの星で、様々な経験や人との出会いを経て、『S-Class』で歌われている「特別な存在」になれたのではないだろうか、というのが私の解釈だ。
 そして、これはバンチャンだけが経験した物語ではない。この神話のような物語は、私達にも開かれている。おそらくバンチャンはそう伝えたいのではないだろうか。“美しい銀河”の中には、私という小さな星も含まれている。その周りにはたくさんの星々がそばにいて、見えない力で私をサポートしてくれている、だから大丈夫だと、優しく歌う。

(You are) just know I’m always by your side
(僕がいつもそばにいること、知っているでしょう?)
ー『Youtiful』StrayKids

 「君は奇跡だ、君は君のままで美しい」と歌う。奇跡のようなのは、彼らだけではない。“貴方も奇跡なんだよ”と、バンチャンは確信を込めて歌う。


彼らが示す道すじ

 アルバム『★★★★★(5-STAR)』が発売され、メンバー同士がアルバム制作秘話を語る動画(↑)が公開された。動画を見て、メンバーの作品に対しての想いや、作品を/チームをより良いものにするために彼らがしてきた努力を知り、畏敬の念に打たれた。

チャンビン「3RACHA(楽曲制作を担当する3人のメンバー)がstraykidsの一つの武器になってるかもしれないけど、そうなるまで僕たちは悪評を聞いたこともすごく多いし、僕たち自身も常に限界だと感じたんだ。曲を作業する瞬間になるといつも限界を感じてた。『ここで僕たちは終わった気がする』『もう何も出ない』『もう何をすればいいのか分からない』って考え続けていたけど、(中略) その都度それを克服して続けたんだ。悩み続けて限界を越えようとしてみたら今では少し自信もついて」
リノ「3RACHAもたくさん努力してるけど、他のメンバーもその場で甘んじずにもっと成長しようとしてるんだ。」
チャンビン「お互いが刺激をもらって、そこで僕たちが挫折しないんだと思う。」
*
アイエン「僕たちの特別さは努力だと思います。」

 決して挫折せず、前を向いて努力を続けるメンバーを真近で見ながら刺激を受け、お互いを高め合ってチーム全体をより良くしていこうと一人一人が動いている。

ハン「人は彷徨うとどこへいけばいいか道を探すのが本能でしょ?僕たちの心の中に彷徨う気持ちが一つずつあって、前に進み続けるたびに『どうすればいいんだろう?』っていう質問を自らに投げかけながら、答えを見つけようとする過程で、僕たちが段々と上達すると思うんだ。straykidsというチーム自体もそうだし。だから僕は永遠に彷徨い続けてほしい。」

 彼らが努力し、良い作品を生み出していく姿を見せることで、アイドルとしての枠組みを超えた一種のロールモデル(具体的な行動や考えを学習・模倣する対象となる人物のこと)となり、私たちに道を示してくれる。彼らはインタビュー動画で「満足してはいけない」「永遠に彷徨い続けてほしい」という。完璧を求めるのではなく、常に学び、考え、悩みながら答えを見つけようとする。その過程が、何かが上達することにおいて大切なんだと、彼らはその活動で示しているのだ。ただ綺麗で美しいものを見せられているだけでなく、その行動や考え方、物事に対する姿勢など私たちの人生に活かせる多くのことを彼らは活動で示している。彼らがただ「一位になる」「名前を世界に知らしめる」ことを目標にして活動するのではなく、ファンに対して一段階成長した姿を見せる(インタビュー動画内のバンチャンの発言)ことを目指していることも、彼らがロールモデルとして人々に示す姿を表している。現状に満足せず、常にメンバー同士高め合い、より良い作品を作り続ける。そんな彼らの姿を見て、自ずとフォロワーは世界中で増え続けていく。

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終わりに

 以上が、StrayKidsについて私が見て考えたものの総体である。最初に提示した問いの要である「彷徨える人々への道を示せるのか?」という問いに関しては、40%くらいしか結論としては示すことができなかった。彼らを語る上で、まだまだ考えられることは多く課題として残っていると、こんな長くダラダラ書いておいてそれが正直なところだ。そのため、タイトルに(未完)とつけた。彼らはこれからどんどん活動の幅を広げ、私たちに新しい、きらきらと輝くものを見せてくれるだろう。その時になったら、またこの記事の続きを書きたいと思っている。


初めて韓国のアーティストのアルバムを買った! 推しは出なかったけど、たくさん特典がついててこれは楽しいわ…ハマるの分かるわ…と思いました。チャンビン好きです。



参考にしたサイト

▶︎「StrayKids(スキズ)バンチャンのプロフィール! 国籍、筋肉、スキズの最強リーダーを紹介!」(2022.9.28)
〈https://irohanihohoho.com/en/straykids-bangchan-profile/〉

▶︎LEEKNOW 技術と筋肉ーダンサーによる分析ー(YouTube)
〈https://youtu.be/asMhQs2o-pw〉

▶︎【日本語字幕】Youtiful/StrayKids【和訳/歌詞/カナルビ】(YouTube)
〈https://youtu.be/TnigQyXoFxA〉

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