怖いおばけ
『言うことを聞かない悪い子は、怖いおばけにさらわれて食べられちゃうよ』
世界中のお母さんが、子供たちに言いました。
そりゃあもうたくさんのお母さんたちが、何遍も何遍も繰り返し言うものだから、本当に作ってみたんです。
「悪い子供をさらって食べるおばけ」を。
ええ、だって私神様ですから。
出来ないこと、無いですからね。
おばけは産まれてすぐに自分の役割を知りました。そして毎日よく働きました。
悪さをしてお母さんの言うこと聞かない悪い子供を、世界中からさらってきて、1日1人ずつ、頭からぼりぼりと食べていきます。
1度美味しいか?と本人に聞いてみたら、よく分からないけど多分美味しい。と曖昧な返事が帰ってきました。
おばけを作ってからしばらくしたある日、おばけからお願いをされました。
「人の言葉が分かるようになりたい。」と。
私は聞きました
「絶対に後悔をしないと誓えるかい?」
おばけは答えました
「分からない、だけど分からないままでいて、それを後悔したくはないんです。」
と。
私は何でもできる神様ですから、おばけに人の言葉が理解できる能力を与えることなど、造作もありません。
優しくデコピンしておばけに能力を与えました。
おばけは、それはそれは嬉しそうに帰って行きました。
数日後。
悪い子供を食べるはずのおばけが、悪い子供を食べるのをやめて死んでしまいました。
あらあら。
おばけは子供を食べることでしか生きていけないように作りました。だって、そのために作ったのだから。だから子供を食べるのを辞めたら死んでまうのです。
私は、なんだかとても悲しい気持ちになりました。
せっかく作ったのに、自ら死んでしまうなんて。
私は、おばけの家に行きました。
おばけの家のテーブルに
かみさまへ
とかかれた手紙が置いてありました。
「かみさまへ。
せっかく つくって くれたのに
さいごまで おしごと できなくて、ごめんなさい。
ひとの ことばを わかるように してくれて ありがとう。
あのこといっしょに、ぼくはいきます。」
かみさまに作られてから、悪い子供をさらっては、頭からぼりぼりと食べる毎日、ぼくはそれなりに満足してた。
悪い子供は2つのまんまるから、(目って言うんだってかみさまに教えてもらった)たくさんたくさん水を出して、これでもかってくらいに口を大きくあけて叫んでいる。
ぼくはその叫びごと丸呑みにする。
美味しいかと聞かれたらよく分からないのだけれど、これだけ食べても飽きないのだから多分美味しいのだと思う。
ある日いつものように子供をさらっていつものように食べようとしたら、いつもの子供とちょっとだけ様子が違った。
その子はふたつのまんまるから水を出していなかったし、口をこれでもかと大きくあけて叫んでもいなかった。
かわりに、変な顔をしてた。
ぼくの知らない顔をしてた。
それがどうしても気になって、食べれなくて、理由を知れば食べれると思って神様に人の言葉がわかるようにしてもらった。
そうしてようやっと、ぼくは変な顔の理由を聞いたのだ
「ねえきみ、なんでへんなかおをしてるんだい?」
「あれ、あんた喋れるんだ」
「かみさまにたのんだのさ
かみさまはなんだってできるからね」
「へえ、僕の知ってる神様は何にも出来ないけどね」
「どういうこと?」
「僕、もうすぐ死んじゃうんだ」
「そうだね、もうすぐぼくがきみをたべるから。」
「違うよ、病気になったのさ。流行病で、僕はこれで母さんも父さんも弟さえも亡くしてる。
僕はね、家族が死にそうになる度に、その度に何度も何度も神様に、助けてって頼んだのに神様、結局助けてはくれなかった。」
「だからへんなかおをしてたの?」
「違うよ、変な顔ってこれだろ?」
「うん」
「あんたこんなのも知らないのかよ。これはね笑顔だよ」
「えがお、それが?」
「ああそうさ。僕は1人で死ぬと思ってたから、ずっとずっと怖かったんだ。だけどあんたが食べてくれるならもう怖くない。それが嬉しくって、笑っちゃうんだ。」
「たべられるのって、しぬのって、こわいの?」
「さあ?まあでも普通はそうなんじゃない?」
「きみはちがうの?」
「僕はね、死んじゃうことよりも、独りのままの方がこわかったのさ。」
「そっか」
「ありがとう」
「え?」
「ありがとう、独りにしないでくれて、ありがとう。あんたと話せて良かったよ。…これでやっとみんなの所にいける」
「…」
「どうしたんだよ?早く僕を食べておくれ」
「……いやだ」
「は?」
「ぼく、きみをたべたくない」
「それは僕と喋ってしまったから?」
「そうかもしれない、でも、ぼくはきみをたべてしまいたくはないんだ」
「……それは、あんたの神様に怒られるんじゃないのかい?」
「かみさまはやさしいから、おこらないとおもう。でも、きっと、とてもかなしむとおもう。でもね、それでも、ぼくはきみとおなじところにいきたいとおもったんだ。
だけどきみはすぐにしんでしまうんだろう?」
「人間だもの、みんな遅かれ早かれ死んでしまうよ。まあ、僕の場合は、ちょっと早いけど」
「ねえ、きみがおきなくなるまで、ここではなしをしていようよ」
「あんたはそれでいいの?」
「それがぼくのいちばんのしあわせのようにおもえるんだ。」
「そう、そっか。ばかだなあ、あんた。」
月の綺麗な夜でした。瞼を閉じたまま冷たくなった子供をそっと寝かせ、おばけもとなりで長い眠りについたのでした。
と、
ここで終わらせてしまっても構わないのだけど、私はやっぱりあのちょっとおばかで真面目なおばけが大好きだったので、神様権限を行使することにしまさた。
だってね、私は神様ですから、出来ないことはないんですよ?
本当は、えこひいきだー!って言われちゃうからダメなんですけど、でもね、神様にだって心はあります。
てか心、最初に持ってたの私だし。
つーか、誰が文句言うんだって話ですよ!神様相手に!ねえ?
…さあて、なんて声をかけようか。
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