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フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化11 2.1.6-7 集団戦術の最適化

2.1.6 ダイヤモンド・オフェンスは集団戦術である

戦術とは、各選手がその瞬間に何をすべきか、特定の試合でどのポジションでプレーをすべきかを理解させるもの (ペップ・グアルディオラ)

集団戦術の最適化:

フットボールのダイヤモンド・オフェンスは集団戦術である。チームの攻撃力を高めるには、この集団戦術を最適化する必要がある。フランシスコ・セイルーロによって提案された「6つの構造」の、認知構造および社会的感情構造のシステム構造内を最適化することが集団戦術を最適化することであると考える。その他の4つの構造(コーディネーション構造、コンディション構造、感情-意思構造、創造的表現構造)は、認知構造および社会的感情構造と関係しておりシステム構造間で相互作用し最適化する。集団戦術のトレーニングのシステム(主目的)が認知構造および社会的感情構造であり、サブシステム(副目的)がその他4つの構造である。

戦術は認知構造と社会的感情構造と関係しているが、そもそも戦術とは何だろうか?バースは戦術についてこのように述べている:

スポーツ実践におけるよく知られた戦術は、知覚プロセスと知的プロセスに基づいて、いわゆる戦略を実行するための準備行動の適用の結果である。

戦術は知覚プロセスと知的プロセスに基づいているということは、戦術と認知構造が関係していることを示している。

バウマン(1986)は認知・戦術能力に関連することについてこのように述べている:

認知・戦術能力は、スポーツ活動中の感覚、知覚、想像力、記憶および思考に関連する必要条件である。

「相手のプレーを読む」ということは、フランシスコ・セイルーロが提案した認知構造と関係し、感覚、知覚、想像力、記憶および思考がプレーヤーのプレーに影響を与えていることがこのバウマンの発言から理解できる。

集団戦術を社会的感情構造の側面から考えてみる。フランシスコ・セイルーロはプレーヤー間の相互作用についてこのように述べている:

選手間の相互作用とはパスであり、軌道であり、スペースであり、数的優位である。

たとえば、メッシが5人抜きドリブルシュートを決めた。これはメッシ1人だけの力、個人プレーで成し遂げたゴールであろうか。もし、相手チームがメッシ1人だけと戦っているなら、11人全員でメッシのドリブルを止めにいくはずであり、メッシもパスという選択肢がなくなる。メッシのドリブルするスペースを作るために相手ディフェンスを引き付けるフォワード、メッシの背後でサポートをするミッドフィルダー、パスを受ける、もしくはメッシにスペースを与えるために前方に走り出すプレーヤー等、プレーヤー間の相互作用でメッシの5人抜きドリブルシュートが決まるのだ。

シュートを決めたプレーヤーだけに注目が集まる傾向がメディアやフットボール界にはあるが、フットボールは環境とプレーヤー間の相互作用から成り立っているスポーツだ。

そのように考えていくと、プレーヤー間の相互作用を最適化することが社会的感情構造を最適化することであり、すなわち集団戦術を最適化することであると言えるだろう。そして、その集団戦術(集団プレー)の優位性を獲得するためのメソッドがダイヤモンド・オフェンスであると考える。


2.1.7 どのように相手のプレーを読むことを最適化するのか?

塚田 稔(2015)は、人間には過去の経験を生かし未来の状況を予測する能力があることをこのように説明している:

チンパンジーは現在の状況や実際に見える世界に重点を置いて行動するのに対し、人間はその機能を一部犠牲にし、現在の状況のみに依存するのではなく、過去の経験を生かし未来の状況を予測する情報統合の機能(記憶の過去、現在、未来の三位一体)を獲得したと考えられる。一瞬にして、過去の世界から未来の世界まで、時空間を操作できる機能である。

人間は、現在の状況(短期記憶)を探知し、過去の記憶(長期記憶)から未来を予測する能力を有すると言うことは、プレーヤーは現在のプレー状況を認知し、次に起こること、環境と相手とチームメートの相互作用を予測する。これが「相手のプレーを読む」と言うことであろうと考える。

次に、過去のプレー記憶(長期記憶:プレーの選択肢)の中から、瞬時にプレーの選択肢を無意識的に探し出し、直感的にプレーをする状況に最適なプレーを選択する。これが未来のプレーを創造する能力を持つと言うことであり、それが結果として「即興プレー」と言う形として表出するのであろうと考える。

フランシスコ・セイルーロ(1986)も認知構造によって認知される空間(スペース)、時間、記憶を関連づけ、試合中のプレーヤーのプレーは、「事柄の予測(前/中/後)」と言う3つに分けられることを提案している(尚、事柄の予測は認知構造の章でも説明した)。


前:ボールを受ける前
中:プレー中
後:ボールをパスした後

【記憶の現在】:プレーヤーが試合中にスペースと時間を認知(ボールを受ける前:短期記憶)

【記憶の過去と未来】:過去の記憶のプレー選択肢から、現在の状況に最適なプレーを予測し選択する(プレー中:長期記憶、相手のプレーを読む、即興プレー)

【記憶の現在】:(ボールをパスした後:短期記憶)スペースと時間を再認知する

この繰り返しが「事柄の予測」であり、記憶の三位一体(記憶の過去、現在、未来)とプレーヤー間の相互作用を通じて集団戦術を最適化するとことができる考える。プレーヤーが相手のプレーを読み、即興プレーを創造することができることを示している。

引用・参考文献:

véanse Barth, (1980), pp. 138 y ss.; Kern, 1986, 4

Grosser, Bruggemann. Alto rendimiento deportivo. Zintl. (1986). P 164.

ペラルナウ・マルティ. グアルディオラ総論. 訳者:木村浩嗣. ソル・メディア. (2017). 119. 157. 238.

塚田稔. 芸術脳の科学 脳の可塑性と創造性のダイナミズム. ブルーバックス. (2015).


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