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「自主研のススメ」45.自主研史

2023年3月、東松山市の小関さんが執筆された『自治体職員の「自治体政策研究」史』が発刊されました。この本は、自治体職員による自主研の歴史を深く掘り下げている希有な本で、特に第1次自主研ブームから第2次自主研ブームにいたる過程を研究されたものは他に類をみないでしょう。
そこで、僕なりにこの本を読んで特に気になった点について紹介します。

1.2回のブームとそれぞれの要因

小関さんは、自主研ブームを第1次と第2次に分類されており、それぞれブームとなった要因として以下のように紹介しています。

①1980~1990年代 第1次自主研ブーム

・1950年以降、地方公務員法に位置づけられた職員研修に関する研修理念、研修目標、研修体系が25年の間に整備充実され、自主研究にも目が向けられるようになった。
・1969年の自治法改正による基本構想設置義務化による計画行政の展開。
・1975年以降の革新自治体の影響。このような自治体職員の自主的な活動について、行政組織においてもその活動を支援奨励する動きがあった。
・国の全国一律な政策に対応できない高度経済成長の歪による公害や環境、福祉などの地域の問題に取り組む革新自治体の活動と自治体職員の高学歴化。

『自治体職員の「自治体政策研究」史』

僕なりに最も腹落ちしたのは、自治体職員の高学歴化。「新しく入ってきた優秀な職員」と「昔ながらのそれほど優秀でもない管理職」が混在した状況となり、そこで優秀な若手が何か新しいことをやりたいと訴えても、新しいことに否定的な上司に潰されやすい構造が生まれ、その結果若手のモチベーションが自主研等の活動に向かっていったという状況があったようです。いかにもお役所らしい要因ですね。

②2000年代 第2次自主研究ブーム

・所属する自治体の境界を越えて他団体職員と広く交流する傾向。
・メーリングリストやホームページを主たる活動の場としてオフ会を定期的に開催する活動や、SNSを活用したイベントの開催と参加者の募集、SNSを活動の中心とする自主研究グループの設立など、参加メンバーの流動性が高まった
・スマートフォンとFacebookの組み合わせは、交流型自主研究グループ活動のツールとして重宝された。

『自治体職員の「自治体政策研究」史』

第2次自主研ブームの発生要因について、僕個人の主観も加えると、
・SNSや月刊ガバナンスや地方自治職員研修等の専門誌により活動情報を得られやすくなった
・全国的な活動が生まれたことで(どこかに)参加しやすくなった
これらの要因も加わって活動が広がりをみせたのではないかと捉えてます。
ただし、これらの多くはあくまで環境要因。
“自主研を立ち上げよう“という動機を持った者が増えたのは、右肩上がりの社会の終焉が現実的に起こり始め、新しい時代に向けてこのままじゃいけないという危機感が募ってきたことも影響していると捉えています。

2.世代間の断絶

『自治体職員の「自治体政策研究」史』では第1次と第2次の自主研ブームの世代間で断絶が起きていると指摘しています。

・2013年11月23日に開催された関東自主研サミットには、関東地方で活動する自主研究グループ運営者を中心に120名以上が参加し、(略)その中には1980年代から続くような老舗自主研グループの姿はなく、参加者は2010年前後に活動を開始した自主研究グループの集まりであった。
・相互の中心メンバーの世代が異なることも一因だが、お互いに関心の対象とならないのは、活動目的が異なるからにほかならない。
・両者の活動には様々な相違が存在することからも、両世代間では断絶と言えるほどの溝が存在しているのである。

『自治体職員の「自治体政策研究」史』

第2次世代の僕は、第1次世代の方々に対してリスペクトする気持ちはあるも、確かにその先輩方との接点はほぼ皆無。それは「活動目的が異なる」とありますが、その前に社会が大きく変化してきていることに要因があるように感じます。

以前、とある研究会に見学参加した時のこと。そこで得られる学びは非常に質が高いものでしたが、その後の懇親会において相手を打ち負かそうとロジックでやり合う姿勢に辟易し、以降その場には参加しませんでした。
僕個人の考えとしては、今の時代相手を打ち負かすロジックの強さも大事ですが、「声を聞き出す力」や「声を引き出す場作りの力」が特に自治体職員にとっては必須な能力だろうと捉えていることから、僕はこっち側で頑張りますと割り切っています。ということで、確かに目指すところが違うのかもしれません。

3.立ち上がりやすい土壌

断絶の課題はさておき、ブームが起きた背景にはそれぞれの要因がありそうです。特に、環境要因が。
それについて僕なりに整理すると、環境要因は次のように分類ができます。

①自主研活動にプラス要因
・組織に対する不満足感(非達成感?)
・社会構造の変化に対する危機感
・広域(全国/地域/都道府県)活動の増
・自主研情報収集機会の増(SNS、専門誌)

②自主研活動にマイナス要因
・仕事に対するコミット度の低下
・スマホの普及

まずマイナス要因から見ると、最近仕事はそこそこで良いという風潮が広がったように感じるのは僕だけですか?仕事と仕事以外で生きがいを見つけるバランスが社会全体で変化してきているし、さらにそこに追い打ちをかけたのがスマホの普及だと捉えていて、youtubeなどいくらでも見続けられるよう上手く作り込まれています。
こうしたマイナス要因がある中、組織や地域などに課題を感じて「どげんかせんとあかん」的な想いが生まれ、まずは学びの場を立ち上げようとした時にそれを促進するようなプラス要因は整ってきています。しかし、その「どげんかせんと」の危機感のようなものは、自主研推進したい我々がどうこうできる次元の問題ではないような・・
単に危機感を煽るのも違う気がするだけに、次回はもう少しこのあたりを深掘りしたいと思います。

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