旅先での病院受診

                                   23.07.31 さかい 悠

2002年 四川省成都の街の様子 自転車の数が多い!

 日本で緊急を要する病気とか交通事故で重体など命に係わる事態を除けば病院での受診はそれほど深刻に受け止めることは無い。
 いろんな専門医が街のあちこちで開業し、特別な場合を除けばどこでも受診できる。
更に精密検査が必要であれば公的な病院で検査する事で病名が解り、治療、薬の処方も可能である。
診断結果も要求すれば丁重に病名、症状を知らせてくれ、今後の治療方法も詳細に説明がある、その意味で安心してお任せできる。 

 ところが海外で急病と成るとそうは行かない。
医師のレベル、病院の信頼性、言葉の問題など正確な症状、状況が把握できなくトラブルとなる。  日本では何でもない病気も海外では不安に成る。
 今回はそんな体験を赴任時代、しかも旅行中、地方都市で体験した しかし、人情味あふれる人達のおかげで、事なきを得た体験を紹介したい。
 
2002年10月国慶節休暇を利用し、四川省成都とその周辺の観光に出かけた折の出来事である。

2002年 四川省成都 街の様子


2002年 四川省成都市内 車も少なくのんびりした感じ!

  これはどうにも痛くて我慢出来ない おまけに痛さだけではなく、湿疹が胸全体に広がり、昼夜関係なく痒い、痛いでどうにもならない 更に所々で水脹れしている。
 ホテルの鏡で湿疹を見ると異常な状態、このまま放置すれば体全体に広がる勢い。 

 赴任当初から中国の病院だけは避けたいと常々思っていた、日頃から体調管理は十分注意していたつもり しかし今回ばかりはそうもいかない。
 旅行に出掛けるとき、小さな湿疹らしき物が2箇所 胸のあたりに出来、その時は寝苦しい夜に蚊に刺された程度にしか思っていなかった。 
 9月29日〜10月3日まで観光旅行、旅の途中でこんな事に成ってしまうとは思いもよらない!
旅の4日目に、どうにもならないと観念し、フライトの時間まで少し余裕があるので案内人に何処かの病院を手配する様、依頼、 しかし公営の病院は折からの国慶節休暇で殆ど休んでいる。
 
 運よくホテルのフロントが救急病院の場所を教えてくれる、中国でも緊急を要するなど、救急用に窓口を開けている。

 人民病院は日本で言う国立病院若しくは公立にあたる病院 古い病院であるが設備は整っている。  ホテルから車でそれほど遠くない 今回宿泊したホテルは街外れ、病院は街の中心街にある。
さすがに休日の為 混雑はない 中国の病院は常に混雑している。
 指定された受付窓口は建物の脇に有る 正規の場所でない、救急用の窓口の為である。
50近い白衣の看護婦が何事か言いながら指定の受付用紙に記入するよう催促してきた。
書き終え、書類を渡す。

 名前を見て『おや?』と反応が有る 案内人が日本人だと告げると途端に興味と物珍しさに笑顔で『どうしたの?』と尋ねてくれる。事情を説明すると『どれどれ!』と衣服を上げるよう催促される 流石に成れたもの、受付で人が出入りする状況などお構いなし。
 皮膚の状況がすぐに分かったみたいで『ちょっと待ってなさい!』と言うと受話器を取り、何事かしゃべりながらさっきの受付の書類に追記している ほんの10分と待たずに、皮膚科に通された。

 まだ若そうな医者である ひょっとしたらインターンかも知れない やはり同じく日本人と聞くと少し緊張した顔つきになる。
 『中国語は大丈夫か?』と聞かれるが当然出来ない 案内人に今までの状況を説明させるが病状がうまく伝わらない 仕方がないと思ったのか突然英語でしゃべりだす。

 殆ど解らないが所々の単語で判断する 湿疹の原因はなにで感染したか解らない。
ここまでひどく成ると湿疹が引くのは10日から2週間くらい掛かるかもしれない 薬は用意するが帰って地元(中山市)の人民病院で再度見てもらった方がよいとアドバイスがある。

 通常の診察ではこんなに時間を掛けない、更に丁重に観てくれない。
説明を含めて診察に30分は掛った でも大したことも無く、薬と注射で治るとの事、安心した。
何度もお礼を言い、握手した 若い医者であったが丁重に診察してくれた事に感謝。 

 診察室を出ると受付の看護婦が『どうだった?』と心配そうに気使ってくれる。
診断内容を説明すると『良かったね!』と笑顔で答えてくれる。

 丁度その時 受付のすぐ前の別の診察室の医師が部屋に入ろうとしている 看護婦が大きな声で彼(私の事を)日本人だよと紹介している 病状も言ったのだろう。
すぐさま手招きをした、見てあげるとの事 これまた看護婦にも増して大きな声で催促をする。
 今見てもらったばかりの若い医師の診察で、ある程度理解できたが親切心からであろう、断る事も出来ず診察室に通される。

 しかも何人かの患者が診察室の前で腰掛待っている そんな事お構いなしに診察室に座らされる。
若い医師の診断内容を見て納得したようである 症状と薬は違っていない 追記でこの薬は必要ないのではとコメントしてくれる やはり湿疹が引くには少し時間がかかるが心配は要らないとの事 人懐っこい、そして話し好きである。
 成都の何とかの会社の日本人に知り合いがいると一方的に話し出す。
今晩時間が有ったら是非食事でもしないかと誘ってくれる しかし 今日フライトの予約が入っている どうしても帰らなければいけない 事情を説明すると非常に残念そうな仕草 記念に写真でも撮ろうと言うと喜んでくれた。

 丁重にここでも礼と握手を何回も交わして診察室を出る。 
診察室の待合場所に患者が先ほどより増えている 話の内容をつぶさに聞いていたのであろう、誰一人、私に文句を言う人はいない。
 受付の看護婦にもう一度礼を言うと何度も気遣いながら手を振って送ってくれた。

 診断の内容、薬の処方はどうであるかは今後の回復を確認しなければ分からないが少なくても人の良さ、若い医師の実直さは安心出来た 少し、中国の病院の一端が理解できた。 
 若い医師、ベテラン医師、更に看護婦の親切さに改めて、偏見と理解不足に私自身、反省するべきである。 

広東省中山市人民病院 左側の白い建物


 旅行から帰り早速 中山の人民病院に成都の診断書を添えて受診 旅行から帰った次の日である。
中山の人民病院も同様 中国の官庁関係は折からの国慶節休暇の為、まだ休みのところが多い 同じように救急専用の窓口から入り診察してもらった。 

 以前はこんなに休みは無かったが官庁を中心として、旧正月、メーデー、国慶節の休暇は1週間ほど取るようになってきた (旧正月はもっと長い) しかしこれは官庁関係が中心で、民間では旧正月を除くとそんなに長く取るところはない。
当時でも外資系に限ってはそれに順ずるところは増えている。

 さて診察室に入ると成都のベテラン医師と同じくらいの年齢の医師、しかし対応は全く正反対  今回は会社の通訳を同行させたので詳細な病状も説明できた。
 担当した医者はおとなしく淡々と患者を診察している 日本人といってもさほど驚く様子もない 言葉は出来るかと言った程度の事、それ以外は会話も少ない 診断書に病状と薬を記入するとそれで終わりである ものの5分も掛かっていない 成都の診断書に付け加える事もなく病状は同じ、薬を改めて処方してもらう。

 さて注射の場所はお尻である 狭い診察室は低い衝立(ついたて)で仕切られているだけ。
椅子に座ったまま看護婦が無造作に注射する たくさんの患者が回りに並んでいる 中国人はそれほど気にする事もないのであろうが日本人はさすがに抵抗感がある 今日はまだ休日診療の為、人は少ない 混雑する中で大の大人がお尻を丸出しで注射する光景は日本ではさすがにない。
 たまたま女性の患者がいなかったので確認出来ないが女性でも同じようにこんな状態でするのかと思うと少し心配してしまう。

 診察を終え薬を待つ間 日本と同じようように電光掲示板が受付の上部に表示される。
薬が用意できると名前が表示 窓口で薬を受け取る 何気なく眺めていると結構同姓同名が多い。
 単純な疑問で同姓同名の場合、間違いなく本人に薬が渡されるのだろうかとちょっと心配する。 
そんな事を思いながら電光板を見ていると4文字の私の名前が表示される 通常中国人は2文字ないし3文字が一般的 このように4文字で表示されるとなんとなく違和感が有る、隣の席で順番を待っていた女性が私と同じように『おや?』とゆう顔をした やはり4文字は彼女にとっても珍しい事であろう。

 中国北方のモンゴル民族は4文字の名前は珍しくないと知人に聞いたことが有る。
実際に仕事の関係で4文字の人と名詞交換した事がある 同じような話をしていた事を思い出した、 こちら南の地域では殆どない。 

 その後、湿疹は痛みも、痒みも収まった しかし薬の副作用の為か別の湿疹が腕、足に出来てしまい再度病院に行く羽目に成った。
 再度の注射の結果、副作用も収まり何とか全快出来た しかし副作用も含めると完治に1か月ほど掛かった。

 当時(2002年)の中国病院事情はいろんな意味で貴重な体験と成る。
今では医療設備、医師のレベル、いろんな面で中国でも格段に向上している事であろう。
古き時代は今と違い医師も人情味が有り、看護婦も親身に成って心配してくれた この様な体験は得がたいものである。
 人は体に変調をきたすと精神的に不安に成る 異国の地で有れば尚更である。
しかし その人に寄りそい、献身的に対応してくれることは何より不安の解消に成る。 
それは日本でも同様で同じことが言える。

 今回の体験は病気にかかる事は矢も得ない しかし健康有っての万事の行動である、身体は大切にしたい。
 異国は生活習慣、食生活を含めて危険がいっぱい 今回の様に地方で急病の場合は地元の病院を受診する事も有る。

今回対応してくれた親切な2人の医師、献身的に関わってくれた看護婦に巡り合えた事に感謝したい!


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