20年前の採用活動 この子達の未来

                                   23.04.30 さかい 悠

採用試験に集まった生徒たち!

 企業は人なりとよく言われ、事実そうである。
どんな素晴らしい企業理念、考え方、固有技術が有っても、結局は人の判断、人の優劣で決まる。 企業はその為には最善の努力を惜しまず、重要視しなければならない。

 その人材を採用するにはどの様に人を見極め、獲得していくかは企業により違いがでる。
日本国内の採用はまだしも、他の国と成れば言語の問題を含めて更にハードルは高くなる。

 今回、中国で経験した採用活動の状況とその内容を紹介する 当時の若者のひたむきさの事例も合わせて紹介する。
 私が赴任した会社は技術系の製造会社 新規に工場を建て、稼働させる事が任務であった。

工場の正面に求人の張り紙をすると当時はこの様に大勢の人が押し寄せる。


人材会社が求人のイベントを開くと大勢の求職者がお目当ての企業ブースに詰めかける。


当時 中国での採用方法は大まかに次の5通りが有った。
 ①手っ取り早く工場予定地に必要事項を掲示し(張り紙)募集する。
  ※中途採用など臨時に採用する場合もこの方法がある。
 ②人材会社を通じ、必要な人材の紹介、その中から選抜する。 
  ※人材採用イベントに必要に応じて参加もする。
 ③中国各地の学校に出かけ、新卒採用活動をする。
 ④社員からの紹介(知人、縁故関係)
 ⑤ヘッドハンティングなど特殊ルート(高級人材会社)からの獲得
以上の方法が一般的、この中から優秀な人材を獲得するには②③⑤の方法がある。

 現代と違い、ネット環境が無い時代、人事担当者を含めて、自ら動くことが求められた。
中途採用で補充の方法もあるが将来を考えれば、新卒採用がより効果がある。

 判断基準は、人は持って生まれた基礎能力と人としての資質の2通りがある 両方兼ね備えているが望ましい。
 いくら能力が高くても資質に問題が有れば社会人とてトラブルを起こしやすい 企業として採用出来ない 性格は良いが基礎能力に欠ける、これも生産性に影響する 両方良いのは理想だが、直接会話をして確認することが必要。

 具体的にどの様な方法で確認するかは会社により違ってくる わが社は筆記試験で確認できる方法を採用している 能力(IQ)性格(人間的な資質)を確認、その試験結果を元に最終面談で合否を判定する。
 なぜこんな面倒な事をするかは直接会って能力、人柄の確認は必要不可欠、他人任せは心配、更に不正の可能性もある!

 中国らしいせっかちな情報が会社の人事課に入ったのは9月中旬、急きょ新卒採用活動に出かける事に成った。
 毎年11月若しくは年内の活動が普通であるが学校に連絡を入れると、出来る限り早く来ないと良い人材が決まってしまうとの一言が出かけるきっかけに成った。

 来年は少し新卒を多めに採用したいとの思いもあった 現在95名、来年は日本側のプロジェクトの意向もあり120名くらいに増員したい こんな北の遠いところまで来るには訳がある。
 2年程前 あるきっかけでこの学校の生徒を採用した、この学校の生徒はみな優秀で特に金型の専門コースが当社の職種と学習内容、基礎能力が一致する。
新卒で採用した生徒は離職率も低く、以前採用した生徒は今でも頑張っている。

大専の職業訓練専門学校の全容


 この学校は大専(専門学校 3年~4年)で全て全寮制 山西省内だけでなく、他の省から選抜した生徒が正規の試験をパスして学んでいる。
 特に気にいっているのはお金を払えば誰でも入学できるシステムではない、いわば能力重視のシステムである。
 遠く四川 青海 内モンゴルなど中国全土からこの学校を目指して来る生徒が多い 以前採用した生徒は選抜紹介で広東省に来ていたのが縁で採用した、一度機会が有れば訪問したいと思っていた学校でも有った。 

 広州から飛行機で約3時間 長治市は山西省の南にある、地図上でも目立たない地方都市
広州からの定期便も週に2~3便 一列3人座席の50名ほどの定員 乗客は我々3名を含めても10数人 天候が良かったので揺れもない 天候が悪ければ正直乗りたくない飛行機である。
 広州夕方発で長治に着いたのは19時前 空港ロビーに学校関係者が迎えに来てくれている。  空港前の広場は真っ暗 道路も地道で車が大きく揺れる、程なくこの街の繁華街にでる。

 到着時、少し遅い夕食の時間帯 学校関係者が食事をご馳走してくれる。
総勢7~8名 広東料理と違い、油っこさが無い 山西省は酢の産地として有名 食事の前に出てくる前菜に酢が使われている 何か不思議な味がする いつも油の多い料理に悩ませている者にとって特異な料理 更になんでも酢を使うらしい 健康には良い。

 中国に白酒(パイチュウ)と呼ばれる酒がある 中国の宴会 催し物には必ず進められる しかし独特の匂いとアルコール度の高さで我々日本人は苦労する 度数の高い物で58°以上にもなる酒

 例のごとく食事時 親交を深める為、進められる 失礼に当たるので1杯はご馳走になる しかしそれ以上は丁重に断る事が多い 特に匂いは苦痛である。
 只 今回地元の教師の説明によれば、山西省は白酒の産地で癖が無く飲みやすいと進めてくれる まず1杯ご馳走になる なるほど臭みは無く飲みやすい 度数はキツイが違和感はない 因みに度数は42° 結局小さい杯を何度か交わす事に成った、明日の事も有りほどほどに食事を終える。

市内のスーパーなどで売られている 白酒のケース


 食事の後 少し街に出てみた 中国の中秋節を明晩に控え街には活気がある。
広場に大きなステージが設けられ合唱団が歌声を披露している 正面に大きな文字の看板 民衆を高揚するスローガンが掲げられている メイン通りは車を封鎖、歩行者道になっている。

街の広場で合唱団が歌を披露している。

 ほとんど満月に近い月が街を照らす 今日はにぎやかな宵、普段は静かな通り かなり遅い時間と成ってしまった、明朝の時間を確認しホテルに戻る。

 朝8:30の迎えがななか来ない やっと9時近くになり昨晩の先生が迎えにくる。 
日本なら問題と成るが仕方ない 学校はホテルから15分と近い 思った以上に大きい 周りにも幾つかの建物が並び、全てが大きい。
 正門を入ると学生で溢れている 生徒数を尋ねると現在4200名 早速案内をお願いした。
校長先生にまず表敬訪問 いろいろと学校関連の話を聞き、改めてレベルの高さを実感した。
一通り学校内の設備 事業風景 歴史など説明を受ける。

 さて本題の応募者の選定である すでに準備が出来ているとの事 教室に案内され、まずびっくり こちら側として多くても5~6名 最大でも10名程と考えていた 総勢200名はいるであろうか 教室満杯!

 先ず会社のPRを済ませる 試験用紙を60枚ほどしか持参していない 200名を60名に絞り込む 設計、機械操作関連以外は除外した それでもまだ試験用紙が足りない 学生の中に他の会社と併用している生徒も除外 除外した中には優秀な生徒はいるはず、矢も得ない。
やっとの事で60名近くに絞り込む どうにか試験の開始 IQ 性格試験を実施、採点となる。

筆記試験の風景


 採点に時間が掛かる為 ホテルに一旦持ち帰り採点、評価、検討で最終面談者を16名とした。

 次の朝 大学の正門前は学生が待機、発表を待ち構えている、面談者のリストを先生に渡すとあっという間に人垣が出来る。

試験結果の発表が終わり、最終面談者に説明を行っている。


 結果内容で納得がいかない女子生徒の質問攻めにあう その他採点基準を質問する者もいる 時間がない 部屋を借り最終面談に入る。
 それぞれ個性があり魅力的な生徒が多い 試験結果を元にお互いにやり取りしながら確認する。 
どの子も採用したい生徒ばかり、最終10名を仮採用とした。

 面談の途中で自分の友達は優秀なので面談だけでもと突然部屋に入ってくる この熱意、迫力は圧倒される。
 一応話を聞くが企業である 全ての要求にこたえることは出来ない 残念だが説得させる。
 中にはこんな生徒もいた 女生徒で日系の会社に入りたくて片言の日本語を勉強している。
自分の家は農家で兄弟も多い 一生懸命働き、少しでも家族の為になりたいと訴える 心情的には仮採用としたい しかし 基準に照らすと達してない この子を採用する事で会社の採用基準が崩れてしまう ほかの不合格者にも影響する。

 他にもまだまだいる 試験結果は基準を満たしている 最終面談に自分の学校の成績表を持って入ってくる、合格した誰よりも自分は優秀だとPRする この子は性格的に難点がある。
 成績 性格そして考え方(最終面談での聞き取り)を総合的に判断して決めている この子も納得させ引き取ってもらった 人の採用は難しい しかし基準に沿った形で決めるしかない 全ての子供達に共通して言える事は自分の考え方をしっかり持っている。

 難しい判断が必要であったが、今回採用した子供達はきっと将来 会社の発展の為にがんばってくれる事を確信している その為にも入社後のフォローがより大切な事を改めて感じた。

 今回 移動距離を含めて大変だったが来て良かった 最終面談は9時半頃から始め、終わったのは昼の12時を回っている 試験結果が決定した事で部屋の外は悲喜こもごも、合格者は感謝の握手、攻めに合う そんな中まだ納得がいかない生徒もいる。

 先生方にお礼を言い移動する 時間が迫っている 本来、長治から直行便で広州に帰るルートが有るがあいにく今日も明日も飛ばない 長治から省都の太原市まで車で4時間以上はかかる 今日中に太原市に移動し明日広州に戻る事とした。

山西省 太原駅前風景


 良い人材を見つけ採用するには大変 しかしもっと大切な事は理念を持ちその環境を整えてあげる事、入社後の指導教育が更に大切であると自分に言い聞かせた。

 昨今 AIの発達が目覚ましい 単純、繰り返しの作業、実績豊富な業務については、すでにAIが導入され一部製造業でAI判断も増えている。
 しかし、その最終判断はやはり人である その判断もこの先 AIにとって代わろうとする時代に成るのか?
 人の重要さは変わらない 2000年初頭の採用活動は今から考えると、手間暇がかかった 当時も現代も人が関わる部分の必要性は時代に関係なく重要である。

  あれから20年も時は過ぎた 当時採用した人達はそれぞれに人生を歩んでいる 彼らは今でも志を持ち続けている事だろうか? 会社の中核で活躍している年代 志は変わらないと確信する。

 車が危険な追い越しをかけるたびにドキドキしながら車のノブを握りしめる。
日暮れが迫ってきた 日が高くても、夕暮れが迫っていても景色はあまり変わらない 靄のような、空が広がる 延々とトウモロコシ畑が続く。
 かすむ景色が黒味をおびてきた、対向車のヘッドライトが更に明るさを増している。
まもなく太原市に入る時間帯 気を使う食事が続いたが今夜はゆっくり食事が出来そうだ。

 良い人材が取れた事も、嬉しかった!
                                                                                    
採用活動 この子達の未来

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