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狐面の女の子


この街は昔ながらの街並みが残っており情緒があると人気だ。メイン通りはもちろん、少し入った路地までも多くの人が訪れて賑やかだ。でもそれは昼間の話。夜ともなれば空気は一変。古い街並みはどこか時代に残されたような雰囲気を醸し出し、路地は異世界と現代を通路のようにさえ思えてくる。
ある夏の夜、そんな雰囲気を楽しみながら家路を急いで街を歩いていた。遠目に眺めたメイン通りには数台の車と人影が見えた。古い街並みと愛車の組み合わせを狙う若者で深夜だが少し賑わっているようだ。お楽しみのところを邪魔しては申し訳ないと思った私は裏路地を歩くことにした。
裏路地へ入ると街灯はまばらで静けさが辺りを支配していた。昼には賑わいを見せるお店もこの時間は閉まっている。住人が聞いているのだろうか、網戸越しに2階からテレビの音が微かに聞こえている。
路地を抜けようと少し足を速めるとじめっとした汗ばむ夏特有の空気が纏わりついてきた。
ふと立ち止まると目の前にはお店のショーケースに飾られた狐面が目に入る。暗いお店に飾られた狐面はそのまま自分を異世界へと誘うようなそんな雰囲気で怖くなり思わず顔を背けた。
「シャシャン…」
突然鳴った鈴のような音に耳が刺激され、驚いて顔を上げた。
ショーケースの奥に1人の青と白の浴衣を着た狐面の少女が立っている。
「えっ…」と思わず声が漏れそうになって息を呑んだ。これは夢か幻か。
刹那、首元を生ぬるい風が通り抜けていった。
「シャシャン…」と再び鈴のような音が鳴り、少女はゆっくりこちらへと振り向いた。

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