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微笑みの国タイと、レディーボーイに払った700バーツ(完全版)

僕は焦っていた。

 


もう3ヶ月くらいまともに働いていない。

  


それまで運営していたアフィリエイトサイトを第3者に売却したのが3~4ヶ月くらい前のこと。



ほとんどモチベーションを失っていたサイトの更新作業から解放され、ある程度まとまったお金に入った。



そのお金で当時好きだった女の子を追いかけてフランスに行くことも出来た。


そして1ヶ月のフランス滞在の後に拠点としている沖縄に戻ってきた僕は、しばらくの間「退屈」と格闘していた。


とにかく毎日やることがないのだ。


サイトを売却する前は、朝起きたらアクセス数をチェックし、新しい記事を書いたり過去記事の更新・修正などをしていた。


モチベーションがピークだった頃は、1日15時間くらい記事を書いていたこともある。


そんな熱を込めて育てていたサイトが自分の元から離れてしまい、

アフィリエイターという肩書きを失った僕は何者でもなかった。


起床後は、特に用事があるわけでもなく街をぶらぶら散歩し、いつもの店でお弁当を買って近くのビーチに持っていき、静かな波の音を聞きながら昼食をとる。





その後は家に帰り、昼寝をするかyoutube・漫画などをみて時間を潰す。


夕方くらいに目が覚め、また外をブラブラしていると暗くなってくるので家に帰り、晩御飯を食べて一段落し、シャワーを浴びてベッドに入る。


たかだか半年運営していたサイトを売却しただけの僕は、すっかり定年退職者のような生活になっていた。


もちろん、サイトを売却した後に一切何もしていなかったわけではない。フランス滞在中、暇になってこのブログを開設し、気が向いたときに記事を書いたりすることもあった。恋愛系のアフィリエイトサイトを新しく立ち上げようと試みたりすることもあったのだ。


ただ、そのどれもがしっくり来ない。


以前のように熱を入れて打ち込める気がしないのだ。


サイトを売却して得たお金も有限ではない。 


パソコンを買い、スマホを機種変し、フランスの往復航空券を購入するなどの大きな出費を繰り返していくうちに、段々と貯金も底が見え始めていた。





そうだ、タイに行こう。




ふとそう思った。


どうしてお金がないのに海外に行こうと思ったのか、なぜタイなのか、ハッキリとした理由は分からない。


「タイは良いところだよー」と以前知り合いから聞いていた話が頭の片隅にあったからかもしれない。


発展してきているとはいえ、日本より格段に物価が安いから手軽に海外に行けるという理由もあったのだろう。


とにかく僕は、タイにいきたいと思った。


微笑みの国タイに、日常の閉塞感を打ち破ってもらいたかったのだ。


そうと決めた僕は、さっそく航空券を予約し、1週間後にタイに旅立った。







バンコクのカオサン通りには安宿が多く、長い間「バックパッカーの聖地」と呼ばれてきた歴史がある。


僕が泊まったゲストハウスもかなり格安で、料金は1泊500円ほど。


安かろう悪かろうなのかと思っていたが、シャワールームの床が少しぬめついていた事以外は、何ら問題ない宿だった。


ゲストハウスでチェックインを済まし、カオサン通りを散策した。


カオサン通りには革製品やタイの民芸品を取り扱っているお店、シルバーアクセサリーの装飾品店などが所狭しと並んでいた。


名物の屋台も多くあり、タイ料理の香辛料の香りが辺りに立ち込めていた。



なるほど、「タイに来た」って感じだ。



食べ物は安くて美味しいし、1日では見きれないほどお店があるので、ショッピングが好きな人にはたまらないだろう。


露天が道にひしめく様子は日本のお祭りのようでもあり、異国間溢れるなかにどこか懐かしさもあった。


すごく楽しいところだ。タイが人気の観光地なのも頷ける。




ただ、何かが足りない。




ここ最近感じていた虚無感のようなものを拭い去るには、不十分な気がした。


やはり、全うに働くことでしかこの虚無感を埋めることはできないのだろうか。


その後カオサン通りを一通り見て回った僕は、辺りも暗くなってきたのでゲストハウスに戻ることにした。


他の宿泊客はほとんど全員団体で来ているようで、皆リビングで談笑し、盛り上がっていた。


普段なら勇気を出して輪の中に入って行くのだが、そういう気分でもなかった。


ドミトリールームに入り、自分のベッドに横になる。





何となしにスマホをいじっていると、ダウンロード済の1つのアプリが目に入ってきた。




Tinderだ。




そのアプリは以前のフランス滞在中にダウンロードしていたものだった。


日本では利用するのに少し気が引けてしまうマッチングアプリだが、海外では抵抗なく利用することができる。


Tinderを起動させると、目に飛び込んでくるのは当然だがタイ人の女性だった。


気のおもむくままに画面をスワイプし、likeを押していった。


すると、一件のマッチングが表示された。


細身で胸が強調された人物のプロフィール写真。


プロフィールの詳細を見てみると、「ladyboy」と書かれていた。


ladyboyの細かな定義は分からないが、恐らく肉体は男性として生まれてきた女性ということだろう。



なるほど。



会ってみようか。



ふとそう思った。



僕は女の子が大好きだが、今回はladyboyに会ってみよう。いや、会ってみるべきだ。そんな気がした。


早速ladyboyの子にメッセージを送り、何と2時間後に会う約束を取り付けた。


少し離れた場所に住んでいるらしいladyboyの彼女は、カオサン通りまでタクシーで来るらしい。


僕たちはゲストハウスのすぐ近くのバーガーキングの前で待ち合わせることにした。


約束の時間になり、バーガーキングの前についたという連絡が。


ゲストハウスを出てバーガーキングの前までいくと、それらしい人が辺りをキョロキョロと見回していた。


Tinderのプロフィール写真通り、ざっくりと胸元の空いた服を着ている細身の人物だ。


僕が声をかけようとする前にこちらに気づいたみたいで、近づいてくる彼女。



「こんにちは。どうしよっか?今日タイに来たばっかりだからこの辺のお店とかよく分かんないんだよね。」


Tinderでのやり取りから、僕は通じると分かっていた英語で話しかけた。


「うーん、私もこの辺はあんまり来ないからなあ。。。」


「とりあえず歩こうか。」


「うん。」


しばらく彼女にあわせてカオサン通り付近を歩く僕。




すると、ladyboyの彼女が突然腕を組んできた。




おお、そういう感じか。



そういった気は一切なかったので突然のことに驚きながらも「やめてくれ」とは言えない僕。




「これ、どこに向かってるの?」



「分かんない。でも、疲れちゃったからちょっと休憩したいな。」




うっ!そういう流れか。まずいぞ。これはまずい。




「今から泊まれるところとかないかな?」




まずい。めちゃくちゃ積極的なタイプだ。どうしよう。




「ちょっとあそこのホテル、この時間から予約なしでチェックインできないか聞いてくるね。」


そういってフロントのところまで行き、何やら話している彼女。



う!マジか!一泊!?一泊しちゃうかんじなの!?



戸惑う僕の元へ戻ってくる彼女。


どうやら予約なしでこの時間からチェックインするのはダメだったようだ。


それでもまだ諦めていない様子の彼女。


ホテルの付近を通る度にフロントの所まで行き、チェックインできるかを聞いてくる。


しかし、時刻は夜中の1時。


予約なしで今から泊まれるところはなかなか無いみたいであった。


その後もカオサン通り付近のホテルに泊まろうと試みる彼女。そしてそれを複雑な心境で見守る僕。


かれこれ5件くらいのホテルをたらい回しにされたところで、さすがに彼女は諦めたようだ。


「やっぱこの時間から泊まるのはちょっと厳しいみたいだね。残念だけど、今日はもう解散にしようか。」



僕がそう言うと、彼女は一言「タクシー代」と口にした。



「ん?タクシー代?」



「私の家から、カオサン通りに来るまでかかったタクシー代と、帰りのタクシー代、あと今度会うときにカオサン通りまで来るときのタクシー代。」



今度会うときのタクシー代??今度???



「んと、いくら?」


「700バーツ」



結構高いな。俺の今日の晩飯100バーツだったぞ。


まあ、仕方ないな。興味本意で彼女を呼んでしまったのは僕なのだから。


言われるがままに700バーツを支払い、その場で彼女と別れた僕は宿泊しているゲストハウスへと戻った。


ゲストハウスに着き、自分のベッドに潜り込んだ僕は、えもいわれぬ虚無感に包まれていた。


タイまで来て、レディーボーイにそこそこ高いタクシー代払って、何してんだろ、俺。



→【タイ雑貨メルカリ転売とビジネスをなめ腐った男(悪戦苦闘編)へ続く】






おまけ写真






タイの地下鉄で切符として使用するコイン


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