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WWE総帥ビンス・マクマホン引退■斎藤文彦INTERVIEWS

80年代からコラムやインタビューなどを通して、アメリカのプロレスの風景を伝えてきてくれたフミ・サイトーことコラムニスト斎藤文彦氏の連載「斎藤文彦INTERVIEWS」。マット界が誇るスーパースターや名勝負、事件の背景を探ることで、プロレスの見方を深めていきます! 今回のテーマはWWE総帥ビンス・マクマホン引退です!

過去記事まるごとセット/2022年7月
佐藤大輔、臼田勝美、松根良太、山本空良、神龍誠、青柳政司館長を語ろう、シュウ・ヒラタ、須田萌里、笹原圭一、斎藤文彦、小佐野景浩 ほか
2022年7月に更新したDropkickチャンネル【note版】の記事まとめセットです!

過去記事まるごとセット/2022年7月

――今回はWWE最高経営責任者ビンス・マクマホンの引退についてお伺いします。フミさん、大変なことが起きてしまいました。

フミ 大変な事件というか、歴史的な出来事ですね。でも、ビンス・マクマホンは77歳という高齢ですから、この日はいつかはやってくるものだったのでしょう。

――ただ、まさか不倫騒動がきっかけになったのは意外でした。

フミ そういったやや意外な衝撃はありました。アメリカ国内では今回のこの不倫騒動は大きなニュースになっていました。いわゆるセックス・スキャンダルですね。不倫騒動そのものよりも、事実関係が判明しているところでは過去16年間に4人の契約タレント、元社員らにそれぞれ100万ドル単位の示談金が支払われていた(そのうちのひとりには750万ドル)。そこに注目が集まっていた。それは法的には示談金、慰謝料といった名目になるし、ビンス的には手切れ金、口止め料ということになるのでしょう。『ウォールストリート・ジャーナル』紙の記事によれば合計12ミリオン超(1200万ドル以上)。いまは円安ですから合計18億円ぐらいですか。今回、問題になっているのはそのお金の出どころです。この示談金の支払いにWWEの資金が使われたかどうかですね。会社のお金を使っていたとすると特別背任罪などに問われる。

――個人のお金であれば問題はなかった。それでもその金額には卒倒します(笑)。

フミ WWEは株式を公開している上場企業ですから、年に4回、四半期ごとに1ドル1セントの単位までその収支が株主に公開されます。そこで会社のお金をそういうことに使ったとなると、共同オーナーでありCEO(経営最高責任者)であり大株主であるビンスが会社の資金を私用に横領したかたちになってしまうんですね。ただ、ビンスを擁護する立場があるとすれば、金額そのものはそれほどではなく、帳簿上の支払いの名目について比較的どうにでもなる……という論法が成立しないこともない。ちなみに公開されているWWEの株式のうち現在のビンスの持ち株の総額は2.4ビリオン(24億ドル)、日本円で約3268億円といわれています。

――すごい金額!

フミ リンダ・マクマホン夫人の持ち株の総額は2.6ビリオン(26億ドル=約3536億円)で、ビンスのそれをやや上回っている。長女ステファニー、その夫のトリプルHはそれぞれ150ミリオン(1億5000万ドル=約204億円)の株式を保有しています。

――その規模からすると10億円ぐらい……ってなっちゃいますね。

フミ 実際に会社のお金を使ったのかどうかはまだわかりませんが、FBIや検察サイドではそういう見立てができあがっていて、新聞メディアの記事もそれなりの裏づけがあるのでしょう。ビンス自身はまだ逮捕されたわけではないけれど、逮捕・起訴されて裁判になる前に経営最高責任者の座から退いたという見方が一般的です。今回の退陣は7月22日の金曜の午後1時にビンス自身のツイッター・アカウントで突如発表されました。そして同日、その7時間後にオンエアされた『フライデーナイト・スマックダウン』の生番組冒頭にステファニー・マクマホンが登場してきて「本日、父がリタイアしました」と正式発表したわけです。

――そのときビンスは出てこなかったんですね。

フミ ビンス本人は番組には出てこなかったのですが、そこがプロレスファンの防衛本能みたいなところなのかもしれないけれど、この正式発表さえもアングルだろう、新しいストーリーラインだろう……と思っちゃった人たちが一定数いました。日本のプロレスファンもそうかもしれないけれど、なんでもかんでも疑っちゃうクセがありますよね。

――しかもWWEはこの手のストーリーがあたりまえでしたし。

フミ もしくは引退とはいっても、どっちみちバックステージではWWEのテレビ番組をプロデュースし続けるでしょ……という見方もあるのですけが、ボクは今回は本当にビンスは引退したと考えています。ビンス自身がつねづね苦手だと公言していたツイッターを使って、わざわざ全世界に向けて同時発信したことも重要なポイントです。

――なるほど。ツイッターからの発信がポイントなんですね。

フミ いまから20年ちょっと前でしたか、いよいよネットの社会になった時点でも「インターネットって何?」っていう程度の理解というかスタンスだったんですね。ソーシャルメディア、日本でいうところのSNSに関しても同じで、ビンスはわりとメディアの進化・発展に無頓着なところがあった。そのビンスが今回はツイッターを公式アナウンスの場所に選んだ。

――不倫騒動が初めて流れた6月17日翌日の『スマックダウン』には、ビンスがオープニングに出てきて。不倫には触れずに挨拶しましたが、あれがWWEにおける最後の登場になりましたね。

フミ あのときはまだ「俺は全然元気だよ」みたいな感じで、ビンスがライブに出てくれば、会場のお客さんからはやんやの大喝采を浴びますよね。世間を敵に回しても、会場に集まってくれる2万人超の観客はやっぱり自分の味方なんだということを確認したわけです。

――猪木さんの政界スキャンダルのときもそんな感じでしたね。世間からは叩かれていたけど、新日本の会場に来れば歓声を浴びると。

フミ そこはプロレスファンのいいところだし、プロレスファンは一般世間的にはちょっと虐げられている場合があるので、試合会場、つまりライブ空間ではそういう仲間意識がおたがいを支え合うというか、共有する思いを持った人たちが同じ場所に集っている。だからビンスにブーイングを浴びせる観客はほとんどいないというのもまぎれもない現実でしょう。

――フミさんは完全に引退だとおっしゃっていましたけども、ビンスはWWEの筆頭株主のままではありますね。

フミ 会社の役職を降りたとしても持ち株は保有しつづけるだろうし、大株主であることに変わりはない。もう無理に働かなくても暮らしていけるわけですから、本人がそのつもりなら本当はもうちょっと早く引退はできたのでしょう。ビンスは1945年8月生まれの77歳です。第二次世界大戦の終戦のときに生まれました。

――そんな翁が現代プロレスをプロデュースを指揮していたのは奇跡ですね。

フミ ずいぶん長くやりましたよね。お父さんのビンス・マクマホン・シニア(ビンセント・ジェームス・マクマホン)が大プロモーターだったことから、日本の活字メディアではかなり長いあいだ、ビンス・マクマホン・ジュニア(本名ビンセント・ケネディ・マクマホン)と表記されていましたが、70年代にビンスがWWFの実況アナウンサーだった時代から、アメリカのテレビ番組の画面上のテロップには「ジュニア」が付けられていたことはないんです。

――経営者としてはビンス・マクマホンであり、WWEの登場人物としてはミスター・マクマホン。

フミ 1982年6月、ビンスが36歳のときにお父さんのシニアからWWE(社名はキャピタル・レスリング・コーポレーション)を買いました。譲渡されたわけではない。当時のお金で35万ドル(約4000万円)といわれていますが、シニアから正式に会社を買い取った。そして、“1984体制”から興行テリトリーを従来の東海岸エリアからいっきに全米マーケットへと拡大して、アメリカというよりも世界のプロレス界に革命を起こした。それでもライバル団体WCWを買収して全米完全制圧に成功したのは2001年ですから、ビンスの力をもってしても世界征服には20年近くの時間がかかったということですね。

――それから20年近く経った2022年にビンスが引退すると。あとを引き継ぐのは娘のステファニーですが、トリプルHの健康状態がよくないこともあって、ちょっと前に休養を発表したばかりでしたね。

フミ 今回の新人事とその新体制発足を受けてステファニー&トリプルH夫妻が現場に復帰することになりました。すでに発表されている新人事は、ステファニー・マクマホンとニック・カーンの2名の共同CEO(経営最高責任者)就任です。

――AEWオーナーがトニー・カーンだから紛らわしいですけど、WWEのほうはニック・カーンですね。

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