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日本の女子プロレス文化のアメリカ的解釈『Sukeban』と『Kitsune』■斎藤文彦INTERVIEWS

80年代からコラムやインタビューなどを通して、アメリカのプロレスの風景を伝えてきてくれたフミ・サイトーことコラムニスト斎藤文彦氏の連載「斎藤文彦INTERVIEWS」。マット界が誇るスーパースターや名勝負、事件の背景を探ることで、プロレスの見方を深めていきます! 今回のテーマは日本の女子プロレス文化のアメリカ的解釈『Sukeban』と『Kitsune』です!

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――斎藤文彦さんのインタビュー連載。今回のテーマは……。

フミ 日本の女子プロレス、というよりはジャパニーズ女子プロレス文化のアメリカ的な解釈といったほうがより正確かもしれない。『Sukeban』と『Kitsune』という2グループがアメリカでほぼ同時に旗揚げしました。いずれも日本人の女子レスラーの試合をフィーチャーしている。団体と定義していいのかどうかは現段階ではまだわからないけれど。

――まず『Sukeban』や『Kitsune』という団体名がすごいですよね。

フミ いかにもアメリカ人が考えるところのカッコいい日本語の単語なのでしょう。

――アメリカで「スケバン」や「キツネ」の意味は通じているんですか?

フミ まだ、英語化はされていない単語、というかコンセプトなのでしょう。「Sushi」や「Tempura」、「Sukiyaki」など食べ物は日本語がそのまま英語化しているし、古典的な単語では「Fujiyama」「Geisha」「Kamikaze」など最初は意味が伝わりにくかったものも、そのまま英語化されて定着していった。最近でいちばん広まった日本語の単語は「カラオケ」ですよね。アメリカ人の発音は「カラオーキ」ですが。『スケバン刑事』というTVドラマがヒットしたのは40年ほど前ですが、日本語的には死後に近いですよね。だれがそのスケバンという単語を発掘したのかはわかりませんが、「カッコいい!」と思っちゃったアメリカ人がいたということでしょう。

――『Sukeban』からスケバン刑事のヨーヨーまでたどり着いてほしいですね(笑)。日本ではもはや死語になってるところがまたいいというか。

フミ ただ、ロスト・イン・トランスレーションと言って、翻訳したつもりなんだけれど、どこか微妙にニュアンスが異なるものがある程度の誤解・曲解を含んだまま外来語として定着することもあるんですね。『Sukeban』のプレスリリースには、スケバンという概念は60年代から70年代の日本におけるフェミニズムの発展に貢献した……とデタラメなことが書いてあった。

――トンデモすぎますよ!(笑)。

フミ また、日本のJoshi女子プロレスは「マーシャルアーツだ」とも書いてある。

――たしかに全女はマーシャルアーツとはいえますけどね……。

フミ このあたりもまたアメリカのマニア層が日本の女子プロレスをどうとらえているか、というヒントにはなりますね。日本語、日本人名がすでに英語化して定着している例では「エンズイギリ」「フジワラ・アームバー(脇固め)」「アサイ・ムーンサルト(ラ・ケブラーダ)」「サイトー・スープレックス(ひねりの利いたバックドロップ)」などがあり、WWEの実況アナウンサーもこの表現を用いています。

――「キツネ」はどういうニュアンスなんですか?

フミ 「キツネ」は英語でフォックスですが、すごくかわいい女の子をフォックスと形容するスラングがある。ジミー・ヘンドリックスの代表曲のひとつに「フォクシー・レディ」というタイトルの曲がある。そのフォックスを日本語でなんというのかといったら『Kitsune』だったのでしょう。いったん整理すると『Sukeban』と『Kitsune』はアメリカが日本スタイルの女子プロレスをアメリカに輸入、導入したもの、アメリカ人がイメージするところのジャパニーズJoshiプロレスをアメリカ市場、英語圏で展開しようという試みといえます。

――しかし、同時期に似たような団体がスタートするって面白いですよね。

フミ 『Sukeban』がニューヨーク、『Kitsune』がロサンゼルスだから、東海岸と西海岸の大都会でよく似たコンセプトの日本式の女子プロレスが同時にスタートを切ったわけです。WWEではウィメンズ・ディビジョンという名称になっていますが、現在のWWE首脳部は男子部門と女子部門の選手数が半々くらいになってもいいと考えているらしいんです。90年代のWWEではアランドラ・ブレイズvsブル中野の1試合だけが男子の試合にサンドウィッチされてポツンと入っていたわけですが、あの時代と比べればウィメンズ・デビジョンの選手数は確実に増えているし、第3ブランドNXTは女子部門の選手のほうが多いようなイメージもあります。実際、フロリダ州オーランドのパフォーマンスセンターの練習生の数は男女半々ぐらいになっている。ウィメンズ・デビジョンは、そのステータスもニーズも商品価値も飛躍的に上がっていることはたしかなんです。女子プロレスだけの団体というと、いままでアメリカでは何団体か旗揚げしたことがあったけれど、いずれもそんなに長くは続かなかったんですね。

――『Sukeban』と『Kitsune』はどこが運営してるんですかね?

フミ それがいわゆるプロレス畑の人たちではないんです。『Sukeban』のほうは、日本の「Kawaii(かわいい)」カルチャー、秋葉原カルチャー、中野ブロードウェイ・カルチャー、地下アイドルのコンセプト、それからアメリカ人が大好きなジャパニーズアニメの要素を基本コンセプトにしている。オープニングや試合カード紹介のグラフィックも日本っぽいアニメだったりする。番組の進行・構成そのものは連続ドラマっぽくしてあって、画面全体がやや暗めで、ちょっと前の『ルチャアンダーグラウンド』に近い感じですね。

――ルチャをコンセプトにした連続ドラマ的プロレス。それの日本女子プロバージョンということですね。

フミ 所属選手をそろえて、ツアーを組んでハウスショーをまわっていく形態の団体になるとはちょっと考えにくい。日本からまとまった数の選手たちをアメリカに呼んで、映像(番組)をタメ撮りして、シーズンいくつのエピソードいくつという具合に番組を制作して、ネット上で配信していく。これがこれからのプロレス団体の新しいかたちになるのかもしれない。『Sukeban』は9月21日にニューヨークで第1回のTVテーピングを開催して旗揚げしました。いっぽう『Kitsune』は10月22日にLAで旗揚げ。どちらもキーパーソンはウナギ・サヤカなんです。

――ウナギ・サヤカはどっちでも主役級の扱いですね。

【過去記事まるごとセット/2023年11月】
鈴木千裕、斎藤裕、長井満也、北岡悟、笹原圭一、太田真一郎、シュウ・ヒラタ、斎藤文彦ほか。コラムもたっぷり!

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