セコンド大塚隆史が見た朝倉未来戦「蓮くんは五輪アスリート級の取り組み方だった」
――当初は午前11時からの取材だったんですが、昨晩平本選手の祝勝会もあって起きられないかもしれない……いうことで夕方開始になりました!
大塚 予定を変えてもらってすいません。昨日は六本木で別の飲みがあったんですけど、蓮くんからも連絡があって。たまたま場所が同じ六本木だったんで、そっちが終わり次第、蓮くんのほうに駆けつけて。夜11時くらいから6時まで飲んで。蓮くんは帰ったんですけど、そこから渋谷で(篠塚)辰樹くんと朝9時くらいまで飲んでました……まだ酔ってますよ(笑)。
――ハハハハハ! 大塚さん、まだまだ若いですよ!
大塚 たしかにね、そう言われてみれば(笑)。やっぱり勝ったあとのお酒は
気持ちいいですよね。
――大塚さんは平本選手のセコンドとして……。
大塚 (さえぎって)というか、今回はセコンドで何もやってないんですけどね。すぐに試合が終わってしまったんで。
――大塚さんは試合後、喜びにあまり大の字になった平本選手を抱えて起こしてましたけど、あれって何かケガの不安があったりとか?
大塚 あー、あれは蓮くんが大の字になった場所が意識朦朧としていた朝倉未来選手の目の前だったんですよ。蓮くんは興奮状態だったから、たまたまその位置になっただけなんですけど、未来選手の視界に入らないようにすぐに起こしました。
――あの大熱狂の中、ものすごく冷静ですね……。
大塚 未来選手の目の前で大の字になったので、変に誤解されるのもイヤだなって思って。セコンドとしてやったことといえば、それくらいですね(笑)。
――セコンドとしてそういう配慮ができるのは、大塚さんがファイターとしても経験豊富だからですよね。大塚さん本人を前にして言うのはなんですが、朝倉未来陣営のセコンドと比較されて……。
大塚 ああ、なんか見ましたよ、「大塚がコーチ・セコンドじゃ勝てない」って(苦笑)。
――大塚さんのキャリアからすると失礼な話なんですけど。
大塚 向こうはエリーとビリーでしたっけ? 優秀だと思いますし、彼らに何も言うことはないんですけど、「大塚がコーチ・セコンドじゃ勝てない」という声にはナメるなよって思いましたよ(キッパリ)。ボクは自分が教えることに自信を持ってるし、そこは彼らにも引けを取ってないと思ってるんで。
――いまってすぐに「◯◯はセコンドとして無能!」とか安易に決めつけがちで。セコンドの役割が良くも悪くも誤解されているところがあるので、大塚さんの視点からいろいろと伝わればいいなと思ってます!
大塚 今回でいえば、ボクがというよりは、蓮くんの試合への向き合い方がすごかったです。パリでオリンピックをやってますけど、オリンピックアスリートと同等の練習量で、睡眠、食事、生活習慣まで徹底してやってましたね。
――オリンピックアスリート並ですか!
大塚 あとはその蓮くんを支える周りの人たちですよね。蓮くんの奥さん、付き人兼ドリル相手の赤田(功輝)くん。そして岩崎(達也)先生。この人たちの存在も大きいです。
――今回の朝倉未来vs平本蓮の発表はかなり早かったじゃないですか。時間的に余裕があるぶん、戦術や練習メニューが検討しやすかったりしましたか?
大塚 まず蓮くんの場合、スクランブルオファーは絶対にないから、もともと試合日程は立てやすいと思うんですけどね。でも、今回準備期間があってよかったのはアイルランドに行けたことは大きいんじゃないかなって。
――コナー・マクレガーのところに練習に行きましたね。
大塚 あれもね、いろいろ言う人がいたんでしょうけど、アイルランドから戻ってきてからガラリと変わりましたね。行ってなくても集中できたのかもしれないですけどね、何か経験できたり、思うことがあったのかなって。やっぱりアイルランドの連中は蓮くんのことは知らないと思いますし、日本からヨソ者を門前払いしてやろうくらいの感覚でやってくる選手もいたんじゃないですかね。試合前にそういう経験ができたことはいいことだと思います。
――平本選手はルーファスポーツに行ったときも実力でセルジオ・ペティスに認められましたし、そのへん平本選手ってたくましいですよね。
大塚 帰国してからの練習量はちょっと尋常じゃなかったですね。1日2部練はあたりまえで、多いときは3部練。そのために1回目の練習は早めの時間に設定したり。練習後は身体をケアするための治療だったり、ストレッチのケアで1日の生活が終わるスタイル。昔の蓮くんって夜型の生活だったと思うんですよ。アイルランドから帰ってきてからは朝起きたら犬の散歩をして太陽の光を浴びて、練習……という生活スタイルに変えていってますね。
――結婚されたことも生活のリズムを整えるのにはよかったんですかね。
大塚 そうだと思います。何も知らない人からはいろいろと言われてるけど、奥さんはめっちゃしっかりしてますし、蓮くんのことを日常生活から食事のサポートまで支えてると思います。
――日常生活が安定していたから試合に集中できたところもあるんじゃないかと。
大塚 いまだから言えるんですけど、蓮くんはアイルランドでケガしたんですよね。治療もあって予定より早めに日本に戻ることになったんですけど。アイルランドでもいい練習はできるんだけど、結局アイルランドは朝倉未来戦のチームではない。もちろん強い人とたくさんスパーリングができるけど、たとえば朝倉未来戦用のテイクダウンデフェンスの練習をやるとか、サウスポー相手を中心に練習するとか、そこまでやってくれないはずなんですよ。
――強くなる「練習」はできるけど、勝つための「対策」を練られるわけではないってことですね。
大塚 アイルランドではすごくいい練習ができたと思うけど、ケガしたことで早く切り上げることになって、結果そのぶん日本でじっくり朝倉未来戦を想定した練習ができましたね。
――大塚さんとしてはこの試合はどこがポイントになると見ていましたか?
大塚 やっぱりテイクダウンデフェンス、グラウンド。あたりまえですけど、朝倉未来選手はテイクダウン能力が高いと想定してましたし、打撃とレスリングを混ぜてくるんだろうなと。
――大塚さんは平本選手はテイクダウンされると思いました?
大塚 される可能性は全然あると思ってましたし、ボクの担当はそこですよね。されないように対策は練るし、されたあと、もしくは最悪を想定して練習はしました。朝倉未来は初めてコーチに教わるという環境の中で、試合前の発言や自信に満ち溢れている感じから、レスリングを強化してきたんだろうなと。対策としては朝倉未来はサウスポー。オーソドックスではほとんど構えないので、サウスポーから入るテイクダウンの種類を映像で確認して。シングルレッグ、ハイクラッチ、ダブルレッグ、ニータップ……あらゆるタックルのパターンを想定して練習しました。そこでは予想外なことが起きないように。
――考えられるケースを準備しておくわけですね。
大塚 そうですね。「このタックルを初めて食らった」ということが起きないようにする。朝倉未来はルイス・グスタボ戦ですごくいい動きをしてて、テイクダウンを何発も取ってるんですよ。一番動きがいいときの映像を何度も見ました。そこで彼の癖だったり……
・平本蓮のマネジメント力
・6割、7割は朝倉未来が有利という心構え
・5ラウンド制になったことで…
・朝倉未来が入ってこれなかった理由
・最後のフィニッシュは何度もドリルを繰り返していた
・右フックの癖は気にしてなかったのでは?…インタビューはまだまだ続く
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