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IWGP女子王座の違和感の正体■斎藤文彦INTERVIEWS


80年代からコラムやインタビューなどを通して、アメリカのプロレスの風景を伝えてきてくれたフミ・サイトーことコラムニスト斎藤文彦氏の連載「斎藤文彦INTERVIEWS」。マット界が誇るスーパースターや名勝負、事件の背景を探ることで、プロレスの見方を深めていきます! 今回のテーマはIWGP女子王座の違和感の正体です!


――今回は、新たに設立されるIWGP女子王座について語っていただきたいですのが、そのIWGPを設立した猪木さんがお亡くなりになりました。

フミ 日本中の人たちがアントニオ猪木さんの思い出を語ったり、ビデオで猪木さんの試合をまた観たり、猪木さんに関連する本を読んだりしていますね。誤解を恐れずにいえば、天皇が崩御されたときのような雰囲気ですね。

――猪木さんに関してはあらためて振り返る機会もつくるとして……猪木さんが設立したIWGPに女子王座ができるわけですが、本日スターダムの記者会見があったそうですね。

フミ ついさっき、その記者会見から帰ってきました。今日は「秋の大発表祭り」と銘打って3部構成。2時間ちょっとの記者会見だったんです。

――かなり長い会見ですね。

フミ 3部構成で発表されたことは4アイテム。10月19日に新宿住友ビルで開催されるNEW BLOODという若手中心の興行のカード発表。2つ目が10・22後楽園ホールでトーナメント第1回戦が行われるIWGP女子王座決定トーナメント1回戦に関するお話。それから5★STAR GPというシングルのトーナメントが終わったばっかりですが、今度は10月23日からスタートするタッグリーグ戦。16チーム32名の出場メンバーが発表され、主な顔ぶれがチームごとにコメントを出したんです。

――32名全員ってなかなかすごい。

フミ 4つ目が11月3日の広島サンプラザのビッグマッチのカード発表。赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)と白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム王座)のそれぞれのタイトルマッチがあって両国国技館クラスのカード編成。記者会見自体がどちらかといえばYouTube生配信番組用の構成になっていた。

――いまの発表内容を聞くだけで、スターダムが乗りに乗ってる感じが伝わってきますね。

フミ スターダムに1軍、2軍という分け方はありませんが、番付でいえば横綱、三役クラスから平幕、十両まで30名近くの選手たちが一度に壇上に並ぶわけです。スターダムの勢いを感じましたね。

――肝心のIWGP女子王座はどのような発表があったんですか?

フミ IWGP女子王座決定トーナメントの概要なんですが(https://wwr-stardom.com/news/iwgppressconference/)、そこには選手間にも温度差があるというか……。選手たちからすればスターダムには赤いベルトという最高権威のものがあって、それとは別のもうひとつの価値観として白いベルトがあるわけですよね。

――赤いベルト、白いベルトという呼び方は全女時代から受け継がれていたものですね。

フミ ロッシー小川さんは全日本女子プロレスからずっとプロレスのビジネスを手がけてきた方ですから、チャンピオンベルトの系譜はその流れを汲んでいる。全女にはWWWAの赤いベルトと、オールパシフィックの白いベルトというレイアウトがしっかりありました。スターダムもその歴史にならってるわけです。これらのベルト以外にも、フューチャー・オブ・スターダム、ハイスピードベルト、SWAとシングルのベルトがありますが、スターダムにはその赤いベルト、白いベルトを目指す闘いがある。では、この新設されるIWGP女子王座はいったいどこに位置するものなのかという素朴な疑問があるわけです。IWGPはもちろん新日本プロレスの最高権威のチャンピオンシップです。その女子王座新設とはいっても、やはりそれは新日本プロレス的な価値観の上に立った発想ですよね。あくまでも男性のプロレス、あるいは男性のプロレス観から眺めた景色だと思うんです。

――IWGPには長い歴史があるわけですし。

フミ 女子プロレスのほうの景色、女子プロレスの価値観からはなんとなくその展望が見えてこないタイトルなんです。ひょっとしたら、IWGPのほうから見れば、赤いベルトや白いベルトよりも上にあるサムシングという発想がどこかにあるのかもしれない。今回のスターダムの記者会見を取材して、初代王座決定トーナメントに出場するスターダムの選手本人たちが、IWGPというものにあまりピンときていないように感じたんです。猪木さんの現役時代とIWGPが誕生した大河ドラマを知らないのは世代的に仕方がないとしても、オカダ・カズチカの活躍は知っているはずですよね。

――でも、IWGP女子王座をどういうベルトとして捉えていいのかわからない。

フミ 王座決定トーナメントにエントリーしている選手のひとりである渡辺桃は、そこらへんが妙に正直だったというか、「IWGPとかよくわかんないんですけど……チャンピオンになったら新日本のイッテンヨン・ドームで防衛戦ができるって話なので、それだったらほしいです」とコメントしていた。

――面白いですね、そこまで正直で話をしたうえに団体側が統制しないのは(笑)。

フミ そこで「こういうところではこう言うんだよ」と発言をプロデュースされていたら、本音は覗けなかったかもしれないですけど。たとえばプロレスリング・ノアという世界観で生きている選手たちは、三沢光晴さんが立ち上げたGHCというベルトこそ最高の権威だという感覚でリングに上がっているわけですよね。スターダムの選手たちがIWGPがイマイチわからないというのはウソでもなんでもないと思います。それにこの記者会見でIWGP女子王座の発表に使われた時間は全編2時間のうち、ほんの15分、20分だった。

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