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ベラトール全面対抗戦実現の舞台裏■RIZIN海外事業部・柏木信吾

RIZIN海外事業部・柏木信吾インタビュー! ベラトール全面対抗戦実現の舞台裏を15000字で語っていただきました!(聞き手/ジャン斉藤)

Switchが入った大晦日RIZINを語ろう■笹原圭一15000字

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――今回の大晦日は、那須川天心、朝倉兄弟、RENAなど、これまでRIZINを興行的に支えてきたスター選手たちが出場せず、ハードコアなカード揃いだったので、マッチメイカーの柏木さんとしてもPPVの数字がいつもより気になっていたんじゃないのかなと。

柏木 ああ、そうかもしれないですね。地上波がなくなっても、やっぱり数字は大事ですから。

――実際、PPVの手応えはどうだったんでしょうか?

柏木 いや、数字を見ると、ここまでコアなカードを「観たいと思ってくれた方々がこんなにいたんだ!」という驚きはありました。自分の中では、RIZINが誕生する前にいたコアな格闘技ファンというのは5000人ぐらいだと思っていて。2014年にDEEPが大晦日にさいたまスーパーアリーナで興行をやりましたけど、あのイベントを楽しみに観ていた人が日本に残っている本当のハードコアファンだと思っていたので。あれから8年経ちましたけど、ハードコアなファンがこんなに増えたんだなとは思いましたね。

――以前、朝倉未来vs矢地祐介がメインだっだRIZIN17(2019年7月28日)も「このラインナップで満員になったり、PPVが売れるとうれしい」と言われていましたよね。当時は朝倉選手の人気が爆発する前でしたけど、あのときよりも増えている実感もありますか?

柏木 増えていると思いたいです(笑)。実際に当時と比べると、確実に総合格闘技を求めている人は多くなったと思いますよ。

――じゃあ、結果を見てひとまず一安心という。

柏木 いやいや、安心はしていないです。欲をいえばもっと数字は欲しいので(笑)。このコンセプトを観たいと思っていた人たちが予想より多かったなとは思いますけど、ボクらもビジネスなので。全然これで満足とは思っていないですね。

――ここまでのビッグスケールの対抗戦はそうそうできるとは限らないですしね。

柏木 そうなんです。1回やるとそれ以上のものを求められるじゃないですか。そうなると、ボクの個人的な業務内容としては、けっこうツライなと(苦笑)。

――というと、やっぱりベラトールとの交渉はハードだったんですかね。

柏木 ここまでトップファイターが揃ったマジな対抗戦という意味では今回が初めてだったので、やっぱり産みの苦しみはありました。ただ、今回のものがベースになるので、次は「前例にならって……」という。それこそRIZINとベラトールのルールの違いだったり、選手に関するオペレーションとか、いろんな部分の擦り合わせを1回経験したという意味では、もの凄くよかったのかなと思います。次にやるときは、そこを基準にして「前回こうやったよね」「少しうまくいかなかったことを調整していきましょう」とスムーズになるじゃないですか。今後は楽になるんじゃないかとは思います。

――それにしても、対抗戦ではあるものの、ベラトール側があんなビッグメンバーを出してくると思いました?

柏木 いやー、最初は思っていなかったですねえ。でも、榊原社長も言っていましたけど、スコット・コーカーと「じゃあ、どんな対抗戦にしようか」と話したときに、榊原社長は「ベストメンバーを出してくれ」と。スコットは「いいの?」という感じだったんですよ。でも、プロモーターって自分が「こうやりたい」と思ったら絶対にそれを実現しようとするじゃないですか。榊原社長もそうですし、スコット・コーカーもそういう人なので、そういう人たちの間に入って物事を調整するというのは……、大変だったなあ(しみじみと)。

――ハハハハハ! つまり、上から企画が降ってきて、柏木さん含む現場がそれを実現しないといけないということですよね。

柏木 どっちも実際にできるかどうかは考えずに言ってくるんでねえ(苦笑)。ただ、そういう人たちが何か同じ目標に向かって動くというのは、それ相応の旨味がお互いにあるということですよね。なので、スコットがトップどころを全員出してこられたのも、スコットと選手との向き合いという部分も多分にあると思いますし。

――スコットと選手との向き合いと言いますと?

柏木 要は、スコットにとってもいろんなプラスがあったから、対抗戦が実現できたんだと思います。つまり、今回出場した選手はみんな「日本で試合をしたい」と熱望している選手たちだったので、もしボクがベラトールのマッチメーカーの立場だったら、「日本で試合させてあげるから、来年は言うこと聞いてね」と言いますね。トップどころのあのメンツだと、もうかなりワガママだと思いますから(苦笑)。ボクだったら彼らに貸しをつくってそういう交渉をしますね。

――望んでいる日本大会に出す代わりに、こっちの条件も飲めよと。

柏木 ベラトール側としても、自分たちの選手に「大晦日に出ろ」で終わりなわけがないですから。すでに次の話もしていると思うので、いろんな交渉を行う中での選抜メンバーだったんだと思います。

――単なる金だけの話じゃないということですよね。

柏木 たとえば、パトリシオ・ピットブルなんかは「兄貴のパトリッキーがRIZINに出られて、なんでオレは出られないんだ」と、それこそ2019年ごろからずっと言っていると思いますよ。彼はパトリッキーがRIZINで戦うのをセコンドで見ていますから、何がなんでもRIZINのリングに立ちたい。だからパトリシオなんかは、「誰とでもいいからRIZINルールでやらせろ」ということだったので、交渉はしやすかったんじゃないですかね。

――それにしても、皆さんのギャラはお高いですよね?

柏木 いやあ、お高いんでしょうねえ(笑)。だから、普通はあのメンバーを縦に並べることはベラトールの本大会でもできないですよ。

――KSWが「自分たちもベラトールと対抗戦をやる!」とか言い出してますけど、なかなか簡単にはできないですよねえ。

柏木 そこも調整次第ですよね。やっぱり、こういう企画はどちらかが赤字になったり、どちらかが不利益を被ってしまうと、やる意味がなくなるので。皆さんのニーズに応えるのはプロモーターとしての使命だと思いますが、そのニーズに応えるためにその都度赤字になっていたら、それこそ続かなくなるじゃないですか。だから、お互いが損をしない条件を擦り合わせないといけないというのはありますよね。

――そういう意味では、榊原さんとスコットの信頼関係があったからこそ実現できた。

柏木 それはもちろんありますけど、それに、すべてにおいてタイミングがよかったと思います。普通にやっていたらこの規模の大会は開催できないですよ。

――今回、マッチメークはどういうふうに決められたんですか?

柏木 まあ、マッチメークというよりは、向こうが出してくる選手……って、トップ同士の対決を組むとしたら、だいたいイメージできるじゃないですか。そうなると、こっちが出せる選手は限られてくるので「こういうカードですよね」と。だから、今回は誰もゴネることなく決まりました。クレベル・コイケ選手は発表直前のオファーだったりもしましたけど、マッチメークに関してはスムーズでしたね。

――じゃあ、最初からガジ・ラバダノフを除く4人は決まっていたんですか?

柏木 AJ・マッキー、ピットブル、フアン・アーチュレッタ、堀口恭司は最初から出してきました。とくに、堀口、ピットブル、AJは確定でしたね。残りふたりはどうしようかという感じで。

――最初からそのメンバーが出てくるなんて凄いです! ルールやジャッジ、そのへんの調整も難しかったですか?

柏木 超~難しかったです! 今回は、そこが一番難しかったですよ。というのも、やっぱりスコット・コーカーや、マッチメーカーのマイク・コーガンはもともとK-1で働いていた方々なので。要は、日本格闘技というものに関して良い印象を持っていないんですよねえ(苦笑)。

――それはいわゆる競技という部分においてですよね?

柏木 そうです。だから「オレたちはもうわかっているから。お前らは口ではそう言っているけど、どうせ判定になったらベラトールが負けるんだろ」という。

――ああ、たとえば国立競技場のホイス・グレイシーvs吉田秀彦のジャッジを見て……。

柏木 余談ですけど、あの試合も酷く揉めていますからね。

――揉めますよね、間違いなく(笑)。

柏木 そういう歴史もあるので。だから、RIZINが立ち上がってからいろいろと協力をしてくれてはいますけど、競技に関しての信頼は正直ゼロです。

――ゼロ!

柏木 だから、2019年大晦日に対抗戦をやったときも、ベラトールはトップどころを出してこなかったんです。

――はー、そんな理由が! ちなみに、2019年の対抗戦は、3試合をベラトール日本大会でベラトールのルール、2試合をRIZINの大会でRIZINのルールでやりましたよね。

柏木 RIZINルールで戦ったのが、パトリック・ミックスvs元谷友貴、ジョン・マカパvs朝倉未来、29日ベラトールルールで戦ったのが、ロレンズ・ラーキンvs中村K太郎、ゴイチ・ヤマウチvsダロン・クルックシャンク、イララ・ジョアニvs渡辺華奈ですね。だから、ベラトールルールに関しては全然何もなかったです。でも、31日のほうは「お前らの大会だから」ということで、マカパvs朝倉未来の2ラウンド終了時点で「ここから何が起きても、もう朝倉の勝ちだろ」と言われるぐらいでしたから(苦笑)。

――まったく信用がない(苦笑)。

柏木 まあ、それは日本の負の部分ではありますよねえ。「外国人選手は日本に行ったら勝てない」という悪い噂は残念ながらありましたから。ボクがKOTCでやっているとき、日本ではDREAMが行われていましたが、自分の周りの外国人選手が参戦すると「やっぱり判定だと勝てない」とか、戻ってきてからいろいろ話を聞いていたので。そんな人たちとの対抗戦で、今回はトップどころの対決ですからね。

――疑いますよねぇ。

柏木 だから「そっちのルールでやるんだったら、信用できないから」ということで、レフェリーはもうジェイソン・ハーゾグで即決でした。ジェイソンは、RIZINルールもわかっているし、ベラトールでも裁いていますからね。あとは「ジャッジもひとり連れて行くから入れてくれ」というので、最終的に入ってもらったんですけど、ボクらとしても「トータルマストのジャッジできるの?」という話から始まって。「逆に、ベラトールでやるときに日本のジャッジを使ってくれるの?」とかまで話したりしていましたね。

――バチバチしてますねえ。

柏木 とにかく日本が信用されていないので、そこの信用回復がまずひとつ。なので、JMOCさんとも話して「こういうこと言われています」と。で、JMOCさんとしてもフェアな第三者機関としてここまでやってきているから、ボクもJMOCという存在をさんざんスコットに説明するんですけど、「ジャパニーズがそんなことやるわけねえだろ」と(笑)。

――JMOCは日本の格闘技のジャッジのあり方を塗り替える働きをしてるんですけど、よっぽど過去が……(苦笑)。

柏木 そういうこともありながら、ひとつずつ障害を乗り越えて開催に至った感じです。だから、ベラトールの選手たちに向けたルールミーティングというのも試合の1ヵ月ぐらい前にやったんですよ。そこに、今回ジャッジに加わったブライアン・マイナーさんというABCのコミッションもひとり入れて、向こうのセコンド陣、スタッフも全員入れて。あとは事前にRIZINのグローブも向こうの選手たちに送って慣れさせて。本当に向こうが懸念している部分をひとつひとつ潰してここまできたということです。それこそ模擬ジャッジもやりました。「ユニファイドだったらこういう判定です」「でもトータルマストだとこういう判定です」「こういうのが難しい試合ですよ」と。たとえば、山本美憂vs大島沙緒里、カイル・アグオンvs山本空良。「この試合はジャッジの見方によって勝敗が変わりますよ、なぜならばこうだからです」と。なので、競技陣も万全の状態で対抗戦に臨んだところはありますね。

――そうなると、今回のジャッジを見て、スコットはだいぶ日本に対するイメージが変わったんじゃないですかね?

柏木 変わったと思いますよ。今回、ABCのヘッドのマイク・マズーリさんという方も来日していたんですけど、彼らが来ているからってJMOCがベラトールに忖度したんじゃないかなと思ってるぐらいですから!(ドンッ)……というのはもちろん冗談ですけど(笑)。

――そういう冗談を真に受けるのがネット社会なんですよ!(笑)。

・北米がRIZINのサッカーボールキックに興味?
・ラウンドマストにしない理由
・日本が遅れているのはRIZINのせい!?
・ヌルマゴ「……おい嘘だろ?」
・ベラトール軍団の会場入り時刻問題
・「ラバダノフってあんなに喋らないぞ?」
・対抗戦第2弾のマッチメイクは難しくなった……などなど15000字インタビューはまだまだ続く!

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