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至近距離から見たクレベル・コイケvs金原正徳■八隅孝平

猛者が集う世田谷ロータス主宰・八隅孝平が至近距離から見たクレベル・コイケvs金原正徳!そして日本人が強くなるためにはどうすればいいのか? 12000字でお届けします!(聞き手/松下ミワ)

【クレベルに完勝】金原正徳インタビュー「みんなもっとMMAの練習をしよう!」

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――金原選手がクレベルに勝ったことで、ロータス世田谷の雰囲気に何か変化はありますか?

八隅 うーん、いつもと何も変わらないですね。

――変わらないどころか、さっき金原選手がここでも練習されてる姿を見て驚きました(笑)。

八隅 それはボクもビックリですよ。まさか来ると思ってなかった(笑)。

――ハハハハハ! 明らかに他のファイターの刺激にもなっているのかなって。

八隅 まあ、みんな他人が強くなるのとか面白くないですからねえ(笑)。あんまり好きじゃないですよ、他人が結果を出すの。

――RIZIN CONFESSIONSでは、ロータスで練習している方々から「負けてほしい」みたいな発言もあったりして。

八隅 いやいや、その発言は青木(真也)だけですから。

――そうでした(笑)。今回のクレベル戦も八隅さんは金原選手のセコンドに付かれてましたが、率直な感想としてはいかがでしたか?

八隅 まあ、ハマったなと思いましたね。キレイにハマったと。クレベルはおもいきりがいいんで、警戒していたのは長い距離の打撃と、あとは完全にポジションを押さえ込まれて取られるとか、バックで逃げられなくなって取られるとか、大きく言うとそのへんなんですけど。逆に、三角絞めとかダースチョークはけっこう“飛び道具”じゃないですか。そこは大丈夫だと思ってましたね。

――フタを開けてみたら、金原選手のグラウンドコントロールが93パーセントという。

八隅 それはたまたまですけど、やっぱりハマったからですよね。まあ、「金ちゃんの日」だったということですよ。

――クレベル選手自身も「自分の日じゃなかった」と言われてましたが、「〇〇の日だった」というのは具体的になんなんですかね?

八隅 なんて言ったらいいのかなあ。流れがずっとこっちに向いてくれてたということなんですけどね。まあ、打撃でいって、一回ヒザもらって投げられたんですけど、ギロチンで下になったときにもうクレベルの集中力が削られていることがわかったというか。だからボクも「このままでいいな」と思ったんですよね。このまま続けば金ちゃんが負けることはないなと思ってました。

――まず、1ラウンド始まった瞬間に右ボディ、左フックがヒットして。寝技に自信があるからこそ、打撃もおもいきりなのかなと。

八隅 まあ、あれは先に触ることが大事だったんですよ。フェイスオフしてたときから右手でおもいっきり殴ってやろうと思ってたらしいですからね(笑)。

――セコンドには「右ボディ・左フックで入らなかったら言ってくれ」と指示していたたそうですね。

八隅 いや、正確には「やらなかったら調子が悪いと思ってくれ」って感じでしたね。

――じゃあ、一発目が出たときは「いけるぞ」と?

八隅 まあ、でも、それはおまじないみたいなものなので。だから、なんかね、あるんですよ、空間や距離感が。ピタっとハマるときがあって、それがハマったからよかったという感じなんですよね。だから、相手がビビるわけじゃないですけど、金ちゃんが見えやすいリズムになったという感じですね。

――その後、グラウンドで首を絞められてるときも、金原選手は「わざと絞めさせた」とおっしゃっていて。

八隅 あのカットは金ちゃん上手なので、心配してなかったです。まあ組みに関してはね……でも首投げは「やる?」と思ってビックリしましたけど、他は全然大丈夫でした。

――じゃあ、1ラウンド終わった時点でこのペースでいいぞという。

八隅 完全にそう思いました。このままやればいいと。でも、コーナーに戻ってきたときに「なんかもらいました?」と。「いや、ヒザをおもいっきりもらってたけど」と言ったんですけど、本人は全然覚えてなくて「やば!」って。

――たしかにクレベルのヒザをもらってグラついてるんですよね。

八隅 あの瞬間、所(英男)さんに「バトン!」と言ったんですよ。もう止められると思ってましたから。

――えー!

八隅 あれは、むちゃくちゃ効いてたと思います。

――……それ聞くと、よく復活できましたね。

八隅 たぶん、身体が「勝ってる」と思ってたから生き残ったんじゃないですか? 身体が疲れてたりしたら倒れてたと思いますよ。

――それこそ練習での刷り込みじゃないですけど無意識の次元で。

八隅 それはでも会場の雰囲気とかもいろいろと要素があるんですよ。応援されると力が出るとか、そういうこともあるし。最初のタッチもそうですけど、べつにダメージがあったとしてもブッ倒れるまでの打撃ではないじゃないですか。でも、クレベルはあれをもらって「今日はもっと頑張らなきゃいけないのか……」とかいろいろ考えたと思うんですよね。

――先制攻撃をくらったことで「今日はしんどい試合になりそうだな」と。

八隅 その気持ちはよくわかるんですよ。実際しんどい試合になっちゃってるんで、クレベルとしては「もう、今日は格闘技好きじゃない!」みたいな。大きく言うとそんなふうになっていたと思いますね。

――ただ、RIZINでいうとクレベル選手は寝技が得意な佐々木憂流迦選手とも戦っていて。佐々木選手の場合はなかなかうまくいかなかったのに、なぜ金原選手の寝技はクレベル選手に対抗できたんですかね?

八隅 そこは寝技もスタイルがあるので。佐々木憂流迦のタイプだと動きで切るじゃないですか。でも金ちゃんはベースでカットするんで。

――ベースでカット……って、どういうことなんでしょう?

八隅 ええっと……なんて言ったらいいのかなあ。柔術でいうと、ディフェンスをしながらパスするんですよ。要は組手です。くるくる回って防ぐんじゃなくて、ピタッと止まってパスガードしたりとか。たとえば、摩嶋(一整)選手もそうですよね。

――ああ、じっくり固めながら攻めるという感じなんですかね。

八隅 そうです、そうです。それだと下から技をかけようとしても取りづらいんですよ。でも、キャッチボールみたいにポイポイとボールを投げていたら、いつかはクレベルにもチャンスがくる。そういう寝技が佐々木憂流迦タイプなんですよね。

――もう一つ疑問なのは、いくら金原選手が押さえ込んだとはいえ、クレベル選手のレベルだと対処法は知っているはずじゃないかな、と。

八隅 いや、知っててもMMAだからできないんです。さっきも言ったんですけど、集中力を削られたりするから。柔術やノーギだったら相手の人がちょっと待ってくれるんですけど。

――待ってくれるんですか?

八隅 だって、殴られることもないから。MMAみたいに「早くしろよ」みたいにヒジで攻撃されたりしないじゃないですか。つまり、MMAのグレーゾーンですよね。だから、いくら寝技が強くても、そういうところで吸い取られてしまう。体力も気力も削られちゃうから、いくら対処法を知っていてもできないんです。だからね、MMAは人間力が大事なんですよ。

――人間力ですか。

八隅 クレベルが自分の力を出せるようなかたちになっていたら金ちゃんも飲まれていたと思うし、それをさせなかったから金ちゃんが勝ったと思うし。そういうことですよね。

――八隅さんはいままでいろんな選手のセコンドにつかれますが、逆に流れを持っていかれている試合というのもあったわけですよね。

八隅 それはありますね。

――でも、それはセコンドの指示やファイターの技術だけでは簡単にはひっくり返せない部分なんですね。

八隅 いや、たまーにひっくり返せる人がいるんですよ。それはね、所さんとか鈴木千裕もそうですよ。

――ああ、なるほど!

八隅 だって、根本的に見て彼らは格闘技全体が強いわけじゃないんですよ。あとは五味(隆典)くんもそうですよね。右振っておもいっきりひっくり返す。だから、アホになれるかなれないかなんです。

――セオリーをブッ壊すぐらいの(笑)。

八隅 いくらセコンドが何かを言ったって現場で仕事しているのはリング上のふたりじゃないですか。だから、流れを急に変えられる人というのは……。

――アホになれる人!

八隅 そう、急にアホになれる人ですね。

――でも、だからって闇雲に突進しちゃってもダメだから、それは特別な才能なんですかね。

八隅 まあ、普段から練習しているのか、たまたま引き出しが開いて「俺、こんなの持ってたんだ」みたいなこともあると思うし。ただ、今回のクレベルは流れを変える状況にはならなかったということです。

――あと、RIZIN.44ではクレベルと同じく、横山武司選手も下から狙うタイプだと思うんですが、やっぱり下からは不利に見えちゃうというか。

八隅 まあ、不利かどうかは相手のリアクションによるんですよね。ガードなので、身を守って取るということだから。相手がどんどん攻めてくれたら取りやすいだろうし、さっきも言ったとおりガードを割ってパスガードしてくれたほうがいいとかもあるし。わざとガードの中入ってずっと殴り続けられたら、それはそれで上のポジションの人の時間じゃないですか。だから、そういうのもあって横山くんもうまくハマらなかったということですよね。相手のほうが人間力があったということですよ。

――そこも人間力。

八隅 ガードにハメても技をかけるところまでに至らないということは、本当は立ち上がる動作とか、もっとレスリングでアタックしなきゃいけなかったとか、そういうことなんですよ。

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