2022年の新宿のデパートの状況

現在、新宿を代表するデパートといえば、伊勢丹新宿店とタカシマヤタイムズスクエア(高島屋)です。両店は何かと対照的で面白いので、比較してみました。

ちなみに、この2店以外の新宿のデパートは小田急百貨店と京王百貨店。これら両店は電鉄系のデパートです。

世界一のターミナルである新宿にデパートが4つしかないのは、意外と少ない印象です。

なお、小田急百貨店と京王百貨店は、電鉄系であり、またそれゆえに毛色が結構違うので、今回の比較の対象から外しています。

また、小田急百貨店は、新宿駅西口地区の再開発により、新宿店本館が10月2日の最終営業日をもって閉館することが決定しました(ハルクは継続営業するようです)。

京王百貨店も、老朽化が進んでおり、閉館や建て替えが決まるのは時間の問題だと思われます。

1.立地

(伊勢丹新宿店)

新宿東口の商圏のど真ん中に鎮座するのが伊勢丹新宿店。新宿三丁目の交差点から見える外観は、伊勢丹の伊の字のマークとともにアールデコ様式の建物の威容が新宿のランドマークとして有名。

JR新宿駅からは、地下道で直結しているが、徒歩5分以上を要します。最寄りの駅は丸ノ内線でいうと新宿駅ではなく、新宿三丁目駅になります。

また、都営新宿線、副都心線の新宿三丁目駅も最寄り駅です。

これら3線の駅からは地下直結でアクセス可能。まさに、新宿を代表するデパートといえます。


(タカシマヤタイムズスクエア)

こちらもJR新宿駅の東側に位置するものの、新宿を東西に横断する甲州街道の南側に立地し、新宿東口の商圏からは外れた印象です。

なんといっても住所は渋谷区です。ちなみに、甲州街道が新宿区と渋谷区の境界線です。JR新宿駅も、南口は住所区分は渋谷区となります。

タカシマヤタイムズスクエアは、JR新宿駅の南口とは歩行者デッキと直結しています。このため、JR駅からのアクセスは意外と便利な感じです。

また、伊勢丹新宿店と同様に地下道で地下鉄3線の新宿三丁目駅とは直結しています。

つまり、伊勢丹新宿店とタカシマヤタイムズスクエアは、地下道で相互につながっていて、雨に濡れずに両店のはしご訪問ができます(ただし、両店の間の距離は数百メートルあり、徒歩5分以上は見積もっておいた方が良いです)。


2.歴史

(伊勢丹新宿店)

伊勢丹の開店は1933年と第二次世界大戦前と古いです。あと10年もすれば、100周年で盛大にイベントをやるんでしょうね。

新宿に来るまでは、なんと神田に立地していたらしい。また当時の称号は伊勢谷丹治呉服店。呉服店が発祥であるところが、アパレルに強い伊勢丹を物語っています。

1930年に新宿に移転することを英断。

当時は、新宿から中央線や京王線が西に伸び始め、新宿がターミナル駅として頭角を現してきた頃。また、1923年に関東大震災が発生し、都心西側の地盤の良さが見直されたことが理由らしい。

先見の明があるとはこういうことですね。先行者利益により新宿の中でも抜群の立地を手に入れています。

というか、伊勢丹新宿店を中心として、新宿東口の商圏が発展したということでしょう。


(タカシマヤタイムズスクエア)

カタカナを前面に押し出した名称からもわかる通り、タカシマヤタイムズスクエアの歴史は浅いです。開店はバブル崩壊後の1996年。伊勢丹新宿店の歴史の半分もないです。

JR新宿駅の改札が、当時は甲州街道の北側で完結していた中、新宿貨物駅の跡地を転用する形で甲州街道の南側の土地に開業。土地のオーナーは国鉄の資産を管理していた清算事業団で、賃借する形でした。

そして、JR新宿駅の改札が、甲州街道の南側に初めて開業したのは遅れること2006年。

このため、当初、JR新宿駅からの利用者がタカシマヤタイムズスクエアに来るには、甲州街道を超える必要がありました。

また、住所は渋谷区、さらにJR代々木駅も近い。開店当初の集客の苦労がしのばれます。実際、開店から赤字続きだったらしいです。


3.建物

(伊勢丹新宿店)

伊勢丹の建物は古い!

なんといっても1933年開業です。アールデコ様式の概観は美しいものの、それは建物の南側と東側のみ。北側及び西側にまわると、建物の老朽化は外見からも否応ない。さすがに補強やら改修は重ねてきているとは思うが、耐震がいつの建築基準に依っているのか心配になるレベル。

また、伊勢丹新宿店といえばメンズ館が有名です。本館とメンズ館は別々の建物なのですが、メンズ館の本館側の入り口は、若干バックヤード的な裏道を渡ったところにあり、往来する際にテンションが下がります。

この両館のアプローチにおける高揚感の確保には工夫が必要でしょう。駐車場も近いので、スタッフが常に誘導しているところ、大変そうだ。

ちなみに本館とメンズ館は地下でも直結しているので、地下道からアクセスすればバックヤード感を味わわなくて済む。

本館とメンズ館とも建物が古い、内装はアップデートされているので古さは感じないが、天井高や通路の幅に窮屈さがある。また、建物自体も7階建てとあまり高くなく、商品の陳列も密度が高い印象。休日などは人込みをかき分ける感じ。

本館の屋上に出ると、アイガーデンという庭園がある。植栽はきれいに整えられているが、周囲の建物のほうが高く、屋上にいても見下ろされている感があり。新宿の眺望を楽しむなどには程遠く、また、空調の音がうるさい。


(タカシマヤタイムズスクエア)

JRの電車が南側から新宿駅に入線する際に、右手に華やかな外観が目に入る、14階建ての近代的なビルがタカシマヤタイムズスクエアです。さすがは貨物駅の用地を転用しただけありスペース的には制約感がなく設計されている。

入店しても、1階の天井高は2フロア分確保され、開放感があり気持ち良い(なお1階はデパートの例にもれなく化粧品売り場が中心)。

そして、タカシマヤタイムズスクエアの構造的な特徴として大きいのはなんといってもエスカレーター。各フロアに2カ所あるが、これらのエスカレーターが複々線なのである。

どういうことかというと、通常、エスカレーターの上方向と下方向の乗り口はそれぞれ反対側にある(例:上方向の乗り口がある箇所から下に行こうと思ったら、反対側に回らないといけない)複線構造だが、タカシマヤタイムズスクエアのエスカレーターは複々線であるため、どちらの側からも上方向にも下方向にもいけるのである。

あるフロアから、上の階に行きたいときも、下の階に行きたいときも、エスカレーターの反対側にぐるっと回る必要がない。大した時間の差ではないかもしれないが、これがとても便利。

また、伊勢丹新宿店ではメンズ館が別の建物にあったが、タカシマヤタイムズスクエアでは、各フロアの北側がメンズ、南側がレディースで分かれており、例えばレディースは2~5階、メンズは6~7階という従来のデパートの配置より、同フロアでメンズとレディースの両方を見て回れる構造になる。

男女カップルや夫婦の買い物にも向いているといえる。

さらに、レストランなどが入っている12~14階のフロアも、中央エスカレーター部分が吹き抜けとなっており、開放感があり気持ち良い。また、12~14階の高層レベルになると、新宿でも高いほうになり(新宿は西口に高層ビルが林立するが、東口はそれほどない)、窓からの眺望における遮り感もぐっと減り、見通しが良い。


4.品揃え(入っている店舗)

(伊勢丹新宿店)

伊勢丹新宿店は売上高日本一です。2020年の売上高は2740億円。

第2位のうめだ阪急は2412億円とダントツの一位。

そして、伊勢谷丹治呉服店という呉服店の発祥だけあり、ファッション・アパレルに強い。

もちろん大概のブランドは伊勢丹、タカシマヤタイムズスクエアとも変わりはないが、エッジの利いたプレミアムブランドとなると、新宿では伊勢丹だけで扱っているという例が多い。メンズで言えば、例えばダウンジャケットのムーレー。

一方で、ファッション・アパレル以外には、いわゆるデパ地下の食品、化粧品と家具くらい。伊勢丹がファッション・アパレルに特化している戦略が明らかです。

これは、立地が新宿の中心にあり、建物がそれほど大きくないという環境条件に影響されていることも大きい。

なんといっても、店舗から一歩外に出れば、ユニクロも家電も(新宿ビックロ)も、アップルストアも紀伊国屋もすぐにある。また、靖国通りを挟み横はすぐ歌舞伎町、東に行けば新宿二丁目の繁華街、癒しを求めれば新宿御苑もすぐという環境。

つまり、伊勢丹新宿は新宿東口という街を自らの城下に配し、アパレル・ファッションの王として君臨しつつ、新宿の商圏を大きなエコシステムとして街全体を回遊させて購買意欲を掻き立てる戦略なのだ。


(タカシマヤタイムズスクエア)

一方のタカシマヤタイムズスクエアは、新宿東口の中心からは外れ、また、建物自体はスペースに余裕があるように作られていることを逆手に取り、店舗内に量販店を呼び込み、店舗内で多様多彩なショッピングできるデザインとなっている。

びっくりするのは百貨店としての売上高の小ささ。伊勢丹新宿が日本第1位であったのに対し、こちらは第24位の717億円。

さらに新宿地区でも、第15位の小田急と第19位京王の2つの電鉄系百貨店の後塵を拝している。

伊勢丹はおろか、売上高を競う気は全くなさそう。

ではタカシマヤタイムズスクエアの特徴は何かというと、アパレル、ファッションだけでなく店舗内の縦・横移動により、ユニクロでフリース、ノジマで家電、東急ハンズでキッチングッズを購入するなど、同じ建物内で回遊をさせることだろう。

つまり店舗内のでハイエンドからデフレブランドまで取り揃え、ひとつの商圏エコシステムを構築し、客を飽きさせない仕掛けだ。

買い物の後は、台湾飲茶を楽しむもよし、スーモカウンターでマンション物件相談をするもよし。さらには、建物は別になるが家具のニトリもデッキでつながっている。

なお、12-13階のレストランフロアに東側に突き出た緑豊かなバルコニー部分。都心方向を眺望でき、眼下には新宿御苑の広大な緑が広がる。


というわけで、新宿を代表する2つのデパートである、伊勢丹新宿店とタカシマヤタイムズスクエアの出店の仕方、戦略は実に対照的で面白い。

新宿東口商圏を借景として、ファッション・アパレルを前面に打ち出し特化戦略を図る伊勢丹新宿は、ファッショニスタの聖地だ。伊勢丹新宿店で買ったこと自体が、ステータスであり、経験になるようブランドが確立されている。

一方の店舗内で新宿の多様性と同じくらいのショッピングの多様性を可能にするタカシマヤタイムズスクエアは、家族連れで週末に来て、ファッションだけでなく、家具から家電まで一通りみたい向きにはもってこい。店内が広々しているので、小さな子供連れやお年寄りにも向いていると思う。

このような対照的な2店が、新宿の多様性に一層の花を添えてくれている。


ちなみに、税所のお気に入りは、既にお分かりかと思うがタカシマヤタイムズスクエアです。ファッションに疎いことと人込みが苦手なことからも、伊勢丹新宿は欲しいものをピンポイントに探すときに赴くスタイル。

一方のタカシマヤタイムズスクエアは広々し、また、エスカレーターが充実していることからも店舗内回遊が楽しい。ユニクロもノジマも覗いて、13階のガーデンから新宿御苑を見下ろしてリフレッシュという、(売り上げには貢献していない)使い方がお気に入りなのだ。


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