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液体のスクリプト

私はもしかしたら、漬け込んで少し時間の経った果物たちが、瓶の中でぷくぷくと息をしているのを見るのが好きなのかもしれません。
ああ、この子たちも生きているんだなって感じるでしょう?

ああ、もっと自然に還りたいのになあ。
こんなせせこましいところから抜け出して、もっと広大な草原を駆け抜けたい。
青い空の下、裸足で大地に立った時の、あの土の冷たさや、田んぼに素足を入れたときの、あのにゅるっとした気持ちのいい感覚。
足の裏から、樹木のように、かつてのあの子たちのように、吸い上げて、足を通って、腰を通って、背中、首の後ろ、腕や頭を通り抜けて、天に放出されていく、あの感覚。
放出されたものがまた返ってきて、ああ、もう大丈夫なんだって、誰かに言われるわけでもなく、自分で言うわけでもなく、ただ、知っている、あの感覚。

そう。どこかで聞いたことのある懐かしい声がしたような気がして、振り返ると、黄色い帽子に赤いランドセルを背負った女の子がいました。
森と田んぼしかない中で、ぽつんと立っているバス停でバスを待っているその子は、じっと私の方を見ています。
なんだか、小学校の頃に書いたポスターみたいです。
水色の絵の具を水で溶かして、バス停の前に立つ女の子の絵の上から塗りつぶすように、水色を塗っていく。
濃く塗りすぎたので、あとから水を塗って、また水を足して、を繰り返していくうちに、だんだん、水色を描きたいのか、水を描きたいのか、わけが分からなくなっていって、気が付いた時には、透明人間が出来上がっていました。

雨が降っていた日のことだったように思います。
下駄箱から、外の曇り空を眺めていました。
雨はもうやみかけているのですが、また一雨来るかも、と思って、もう少し待っていると、やっぱり、雨が降ってきました。
男の子の集団が、サッカーボールをけりながら、雨の中走って帰っていきます。
後ろから女の子が2人やってきて「帰らないの?」と聞かれました。
「傘がないから」と答えると、「入れてあげようか?」と、一人が紫色の傘を広げて言いました。
「ありがとう」とその子は言って、入れてもらうことにしたんです。
なんだか心があったかくなった気がして、傘に入れてもらって、外に出たら、急に雨が上がって、青空が出てきて、すぐ頭上に、まあるい虹が輪っかになっていました。


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