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パパの一番長い日

ホーリーナイトなんてもんじゃない、そんなクリスマスの次の日。
人生で初めての手術着を着て、車いすに乗ったムスメ。

「少しでも早く切っちゃいましょう」
そう言われた25日の診察からの手術開始までの24時間の速さに、
僕の心は全くついていくことができないままいた気がする。

ただ時はいつも通りに過ぎていく。

朝から入院用のコップなどを買いに朝から100均ショップへ。
「なんでもいいけど、かわいいネコとかウサギの子供用のやつ」
それはなんでもよくないってやつね。
ふと普通にちゃんと女の子してくれていることをうれしく思ったりする。
でもね、売ってないし探す時間ないし。
しょうがないから幼児用の蓋付きコップとネコとウサギのシールを用意。
我ながら父子家庭力を発揮してるな、と独りごち。

手術の時間が13時に決まる。
「思ったよりも早く手術室が空いたので、先に始めていきます」
うれしいやら不安になるやらのまま、
ムスメの人生初めての手術へと時がリアルに刻まれ始める。
お互いに極力不安にならないように、くだらない話ばっかりして過ごす。

12時55分、手術室に向かう。
初めての車いす姿を写真におさめると、撮り直しを要求される。(笑)
努めていつも通りにしようとするムスメに、ただただ泣きそうになる。
お腹も痛いだろうに、恐怖に気持ちがもっていかれそうだろうに・・・。

13時05分、手術室に入る。
執刀医の先生から事後の説明を受け、待機を開始する。
ふと降ってきた言葉
「パパの一番長い日が、こんな感じなのはいまいちヤだから、よろしく頼むね。」
誰に対してのよろしく頼むなのかもわからない言葉。

16時過ぎ、手術が終わりましたの連絡を受け、説明ルームへ。
目の前には、見たことのない物体がガーゼをかけられて置かれていた。
ガーゼを取り、大きな洗面器(洗面器ではないけど)の中から、
幅30センチ超、高さ20センチ超のスライムのようなそれを見せられる。
「無事、終わりました。片側の卵巣には異常はありませんでした。腫瘍部分もひび割れなどもなくキレイに取れました。」
もろもろの説明を受けながら、生研の後、具体的な話をすること、ひとまずはともあれ無事に終わったことなどを主治医から聞いて完了。

16時30分、全身麻酔から少し覚めたムスメが手術室から出てくる。
「無事で本当によかった」
これ以上に何を思えばいいかもわからない。
「よく頑張ったね」
これ以上に何を伝えればいいかもわからない。

我慢ばかりして僕の前で泣くことさえできないでいたムスメが、
「痛いよ、すごく痛いよ」
ちゃんと伝えてくれて、ちゃんと弱さを表現してくれていること、
きっと僕たちのこれからの未来は、こんな小さな一歩から始まるんだ。
パパの一番長い日は、ひとまず未来に上書きできるチャンスをもらえた。

今はそれだけで十分だ。

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