「落ちたポテトはすぐに拾え」のたった一言で日本一を達成したマネジメントの裏話


「私の店舗の床は日本一綺麗だと自信をもって言えます。
ポテトが落ちてないからです。それが日本一の秘訣だと思います。」

前職のマクドナルドで新店オープンから一年で業績日本一を達成し、アジアオセアニア地域の最優秀アワードを受賞した時のこと。
シンガポールで開かれた表彰式で「日本一達成の秘訣はなんですか?」
そのインタビューに対して、僕はこう答えた。

「こんな状況で店舗運営していけるんですか?」

そもそもマクドナルドは365日24時間営業。社員は私を含めて3名体制で約60名ほどのアルバイトスタッフを採用、人材育成しながら運営するピープルビジネス。そこが最大の醍醐味であるが難しさでもある。新店オープンとなれば、まず新規スタッフの採用、人材育成が肝になるのは言うまでもない。さらに今回の新店は海外から新しいドライブスルーのシステムが導入された新モデルの店舗。

「あれもこれも考えること、やるべきことが多すぎます。しかも新人スタッフばかり。こんな状況で店舗運営していけるんですか?」

ある社員が不安を漏らしてきた。全てのスタッフが右も左もわからないまま、地域のお客様に最高のおもてなしを提供するための店舗作りがスタートした。この時の経験が弊社のマネジメント理論の原点になっている。ぜひ最後まで読み進めて欲しい。

成果をつくる一点集中の考え方


新店オープン3ヶ月前から準備は始まった。まずは新規スタッフの採用だけに集中した。スタッフが最低50名は在籍している状況にないと24時間営業どころの話ではない。人の採用。その一点に集中した。徹底的にやれることをやった結果、予想を上回る採用に成功し、65名の精鋭たちが揃った。

準備は万端。とはいえ、ここからがスタート。人数が揃ったとはいえ、もちろん9割がマクドナルド未経験者だ。マクドナルドでのアルバイト経験がある人は恐らく分かる思うが、とにかく最初は覚えることがとにかく多い。

マクドナルドの教育プログラムは優秀ではあるが、新人スタッフが一定のスキルを身につけるまでのハードルは高い。もうここは経験を積み重ねていくしかないのだが、多くの新店オープンでは採用スタッフが「スキルを身につける川」を渡れずに退職していくのだ。

店舗全体にシンプルなメッセージが必要だと感じた僕は、考えに考えた結果、最初の2ヶ月間、スタッフ全員にたった1つのことだけを求めた。


落ちたポテトはすぐに拾え


スタッフ教育の秘訣は、誰にでも出来ることを、誰にでも分かるようにシンプルなメッセージで伝えること。もちろん業績目標との関連性がなくてはならない。あれもこれも求めるのではなく、その時最も重要なこと、なおかつ、これだ!というシンプルで強いメッセージであればあるほど良い。


「店長、これだけですか?もっと他にないんですか?」

「おい!宮城!もっと戦略を具現化しろ!」

「宮城さん、ポテト拾うって簡単すぎて、これが目標でいいんですか?」


まあ、予想通り、こんな風に色々な反応がありました。

凡事徹底に勝るものなし


落ちたポテトはすぐに拾う。
これなら全スタッフが今日から今すぐ実践できる。簡単だからいいのだ。なぜ皆んなそんなに問題を難しく、ややこしくしたがるのか。多くの人が今までやったことがない斬新なアクションプランを立てたら目標達成率が高くなるという大きな勘違いをしているのだ。

最初は皆んなスキルが低いから、何をしてもポテトが落ちる、落ちる。ずっと店舗に立ってそれを見ていて、「これだ!」とインスピレーションが降りてきた。

落ちたポテトはすぐに拾う。とにかく床を綺麗に保つんだ。僕は新店スタッフにその重要性を伝え続けた。特に店舗責任者には高いレベルを求めた。自分が店頭に立てば有言実行で誰よりも実践した。キッチンも客席もいつでもまず床の状態からチェック。OKならばその基準の高さを称賛した。NGなら解決策を一緒に考えた。

最初にこれを話した時、多くの人が「ポテトを拾うなんて簡単だ」って言ったけど、これを徹底的にやり抜いてる店舗はどこにもない。これは間違いなく大きな成果につながっていく。そんな確信があった。シンプルに凡事徹底に勝るものはない。

ドミノ倒し型マネジメント

「ただ落ちたポテトを拾う?」
「本当にそれだけですか?」

冒頭のインタビューでもそう驚かれた。それだけ。本当にそれだけなのだ。それを2ヶ月徹底してやりきった。そこから予想通りの「ドミノ倒し」が起こった。


スタッフ全員に床に物を落とさない意識が根付いた。丁寧に作るから商品のクオリティが上がった。クレームが大幅に減った。袋詰めを丁寧にするからミスをしなくなった。結果サービスのスピードが圧倒的に速くなった。キッチンの床と客席が綺麗だから他の場所も汚れない。店がピカピカで綺麗になった。働く姿勢や在り方が磨かれておもてなし力があがった。

全員がやってるから新しく入店するスタッフもそれを当たり前にやる。ここまで来れば一つの立派な文化だなと感じた。
そんな連鎖が次々と起こり、顧客満足度が上がり売上はグングン伸びた。

そしてここはとても重要視したポイントだが、みんなが取り組んでいることが業績にどう反映しているか?を徹底的に見える化した。数値的な変化やお客様の声にどのように反映しているのか?そこが見えないとただの自己満足になってしまうから。

ドミノ倒し型マネジメントとは、あらゆる問題を一つ、一つ倒していくのではなく、問題を一列に並べて、たった一つの最優先事項に集中することで一気に倒すという概念。私がこれまで試行錯誤してきた中で最も成果に繋がるマネジメントシステムだ。

圧倒的な成果が帰属意識を高める

さらに高いパフォーマンスの店舗で働くスタッフの帰属意識は高まっていった。海外の偉い人達が日本一の業績を達成した店舗を見に来日された。
言い忘れたが、この日本一を達成した店舗は滋賀県の田舎にある店舗。3300店舗ある中でも注目度の低い地域だった。

そんな中、海外から次々とVIPが来店される。俺たちは日本一の店で働いてるんだ!さらにチームの意識が上がっていった。

ある日、ある店舗責任者から「店長!今日はポテトを落とさないでくださいね。最近、店長が一番落としてますから!」そう言ってくるようになった。

僕はニヤッと苦笑いをしながら、よし!もうこれで大丈夫だ!そう確信した。そして自分が店舗にいなくても日本一の店舗運営が可能になったのです。やはり高いパフォーマンスの成果を出すことでスタッフの意識レベルや帰属意識が高まり、さらに高基準の文化を醸成できる。これは間違いない事実だ。

人間関係トラブルは仕事に集中することで改善する


話は変わるが、そういえばこの新店は近隣の店舗から数名のスタッフが移籍した、言わば、寄せ集めチームに新規採用スタッフが合体することでスタートしたものだった。想像できると思うが、最初はこの違う文化で育った人同士、人間関係の構築に苦労した。それどころじゃないって時に、コミュニケーショントラブルの不満が噴出することもしばしば。

「おいおい、勘弁してくれよ」

そう言いたくなる気持ちをグッとこらえ、それぞれの話を聞きつつ、どうすれば仕事に集中できる環境を作れるかにフォーカスした。

これもよくありがちなパターンだけど、人間関係やコミュニケーションの問題に視点を当てすぎて、肝心の業績達成のためのアクションプランが全く進まない。これは組織あるあるだと思う。

仕事に集中することで人間関係とかコミュニケーションの問題が解決する。こういった順番で捉えることはとても大事。組織は仲良し集団を作るためにあるわけではないのだから。

新店オープンから店舗責任者のミーティングを毎週欠かさず実施した。仕事の話をお互いに議論していく中で、お互いの価値観の相互理解が深まったり、違いを理解し合えるようになった。違いはあって当然で、目的(ゴール)があれば、その違いは役割の違いになるのだが、目的(ゴール)がないと、ただの違いになって衝突が起きる。

そもそもぶつかったり、不満があるってことはそれだけエネルギーがあるってこと。そのエネルギーは仕事に集中させるだけで業績達成のための大きな原動力に昇華された。今となっては当初不満をぶつけてきたスタッフに足を向けて寝れないぐらい感謝している。

やるべきことは常に一つ


さて、ここまで「落ちたポテトはすぐに拾え」。
このたった一つのことに集中することで、日本一の業績を達成。そのプロセスにおいて、どんな変化が起こったのか?を書いてきました。


僕がお伝えしているドミノ倒し型マネジメントの考え方はこうです。"刻一刻と変化する経営状況の中、常に変化はしていても、最も重要なことは一つしかない。これはどんな時でも変わらない。そのたった一つに集中して取り組むことで、ドミノ倒しのように全てが次々と上手くいき始める"


だから、上手くいってない時や方向転換が必要な時ほど、焦ってあれもこれも目の前のことに片っ端から取り組むのでなく、冷静に現状把握して、何が最重要課題なのか?そこに集中できてるか?こういった視点を持つことが大事なのです。

どんな状況でも最も重要なことは一つしかない


最後になりますが、今コロナウィルスの感染拡大の影響を受けていて、業績回復に対して早急な手立てが必要だったり、方向転換が必要だったりする企業様も多いと思います。何から手をつければいいか分からなくなることもあるかもしれませんし、ありとあらゆることが重要な物事に見えるかもしれません。

ですが、いつでも最も重要なことは一つしかありません。その一つを見極めることで問題が解決し、良き方向に向かうことがあるということをぜひ知っていただきたいと思い、こちらのnoteを執筆しました。

今回の話が、組織で成果を上げていくことに悩める多くの人に届くと嬉しいです。

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