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電力自由化記事リンク切れ補完:電力小売り自由化で政府が目指す本当のところは? 省エネとスマートコミュニティ構想

専門的な内容を投稿した経験もあります。

電力小売り自由化で政府が目指す本当のところは? 省エネとスマートコミュニティ構想


はじめに

電力の小売り全面自由化が今年の四月から始まりました。
それ以前からも大規模工場向け等の電力の小売りは自由化されていました。
今年の四月より今まで制限されていた一般家庭向けの電力事業も自由化され、電力業界は全面的な競争の時代への突入しました。
しかし、そもそもなぜ政府は今まで電力会社に独占的に販売を認めていた電力事業の自由化に踏み切ったのでしょうか?
今回は、電力事業の自由化によって政府が目指す社会について解説をしていきたいと思います。

発電所の建設には10年かかる?

今までは電力会社が発電所で電気を作り、電力会社の作った送電線で各家庭へ電力を供給していました。
大きな電気が必要となると新しい発電所の建設する必要があるのですが、建設には10年と言う長い年月が必要です。

10年後の電力需要を予測するのは難しい

10年の間に電力の需要は変化します。例えば景気が悪くなってしまえば、工場の稼働率が落ちてしまい、電力需要が減ってしまいます。
その場合、新しい発電所をせっかく作っても、計画された当時は要望されていたにも関わらず、発電所ができた後は全く稼働しなくてもよいことになってしまいます。

独占事業ならではのごまかし方

この場合、通常の民間企業であれば、発電所を建設しても稼働する必要がないと大問題になるのですが、電力会社はあまり問題にはなりません。
電力会社の電気料金の算出方法に電力の総括原価方式というものがあります。
これは、電気料金は電気を作る費用が多くかかると、その分電気料金に反映するというものです。その代わり、一定の利益しか電気料金から得ることができず、独占事業によるぼろ儲けを防止するというものです。
消費者を保護するための算出方式なのですが、この総括原価方式によって、電気料金の原価に発電所の建設費用を組み込んでしまえば、電力会社は全く損をしないのです。
これによって無駄な工事などが行われていることが見られるようになったのです。

政府が目指すスマートコミュニティ

こうした状況を問題視した政府は、CO2削減などの命題をかかえていることもあり、電気料金の削減と省エネを目指して電力事業の自由化に踏み切りました。
この自由化の目指す先には、今までの大規模な発電所を電力会社が建設し、電気を送電するという形態からの脱却を計ったスマートコミュニティ構想があります。

スマートコミュニティ構想って?

一般家庭でも、太陽光発電や燃料電池などにより、自家発電を行うことがあります。
その場合、太陽光発電で発電をした電気で家庭電力がすべて供給できれば、電力会社から電気を購入する必要はありません。
太陽光発電で賄いきれなかった場合は不足分のみを電力会社から購入する形となり、今までよりは電力需要が減り、結果省エネとなります。
こうした太陽光発電などの「再生可能エネルギー」を地域ごとに送電線網に取り込み、家庭ごとに行っていた省エネを、地域全体で行おうという構想が「スマートコミュニティ構想」です。

スマートコミュニティが目指す未来

スマートコミュニティ構想には電力の部分からだけでなく、新型交通管制システムによる渋滞状況の最適化や、電気自動車による自動運転システムの導入と言った交通による側面からも省エネの実現を目指しています。
もはや未来の都市とっても過言ではないでしょう。

スマートコミュニティと電力自由化

ここで話を電力自由化に戻します。
このスマートコミュニティの実現には電力会社の電力事業独占状態では、どうしてもできない事情がありました。
それは電力会社が「発送電事業の分離」に消極的だったからです。
スマートコミュニティには、様々な小規模な発電所が送電線網に接続されています。
それは工場の余剰排熱などで発電した電力なども送電線網に接続したいと思っても、電力会社が送電線網を使用できないと言ってしまえば、各家庭などへ送電することができません。
電力会社が送電線を独占している状態であれば、誰もが発電をして、電気を供給するといった行為が全て電力会社に了解をもらわなければできないことになってしまいます。

自由化に先駆けて始まった発電事業の自由化

家庭への電力自由化が始まる前の2000年に、政府は大規模工場などへの電力の小売り販売の自由化を行いました。
この大規模工場の小売自由化では、製鉄会社等で製鉄を行う際に発電した電力を、本社ビルなどへ小売を行うと言った自社内供給がメインでした。
しかしこの時に、電力会社以外の電力小売り業者(新電力)も設立されました。こうした新電力は電力会社同様、発電所の建設を行いました。
通常の火力発電所なども多く建設されましたが、バイオマス発電所といった環境配慮を特色にした業者も現れるようになりました。
それから段階的に自由化が進んでいき、現在の電力小売り完全自由化となりました。

新規参入業者がどこから電力を仕入れているのか?

電力の新規参入業者は、このような自社保有の発電所から電気を調達して一般家庭へ供給しています。
しかし、送電線は電力会社が保有しているため、電気の購入は、電力会社の保有する送電線を経由しての供給となります。
見かけ上、電力会社からの電気の購入と変わらない状態となりますが、供給元だけが違ってくるのです。
それは契約書上でしか分かりません。

新電力の電力販売に対する不満

電力の新規参入業者(新電力)が一般家庭向けに電気を販売する場合、必ず電力会社の送電線を経由しなければなりません。
その場合の新電力が電力会社へ支払う送電線使用料(託送料金)が今までの場合割高となっていました。
これは電力会社の電力自由化に対する抵抗と言ってもいいでしょう。
一般家庭向けに自由化がされる以前の、事業者向けの電力自由化の場合、この託送料金が新電力の新規参入を阻害する要因とも言われていました。
託送料金は経済産業省が決定するとはいえ、電力会社側の意向も色濃く反映されます。
これによって公正な競争ができないとも言われ、電力自由化は不可能なのではないかとも言われておりました。

電力完全自由化で託送料金が大きく変わった

電力の完全自由化に際して、経済産業省は、託送料金の大幅値下げを決定しました。
これによって、新電力による電力市場の活性化が期待されるところであります。
新電力の中には、太陽光発電所を多く持っている会社もあり、販売する電気は再生可能エネルギーの割合が多いと宣伝するものもあり、百花繚乱の様相を呈しております。

電力販売の代理店もある?!

そんな様々な電気販売会社がある中、さらに電気販売の代理店というものも存在します。
これは電気の供給から販売までを行う電力会社や新電気とは少し異なります。
電気販売の代理店は、電気供給の届け出はなく、販売する電気供給業者と代理店契約をしており、行う事業は、電気供給業者と顧客の契約代行や、電気料金の徴収といった通常電気販売業者が行うようなことを行います。
これは、新電気に多い形態となります。
こうした形態が発展した経緯は、料金の徴収や検針と言った業務に、直接人員を雇用して行う電力会社に対して、人員が少ない新電気では、代理店などの人員を使って料金の徴収に関する業務を委託する狙いがあります。

電気販売代理店のメリット・デメリット

電気販売がメインの代理店は、電力契約に関する知識も豊富であります。
多くの新電気と代理店契約をしている代理店であれば、多種多様なプランから自分に合ったものを選択し、相談することも可能です。
デメリットとしては、代理店のため、販売価格に関して代理店手数料が上乗せになります。
その分割高の電気料金となってしまう可能性もあります。
現在、この新電気の代理店は、電気設備の点検業者などが本業の傍ら代理店営業を行っているというものが実態であり、あまり利用できるほど普及していないというのが現状です。

電力会社の今後の課題

そんな新電力を横目に、電力会社としてはどのような変化が求められているのでしょうか。
それは前項にも記載したように、「発送電分野の分離」が大きな課題となっております。
今までの電力会社の事業体形として、発電分野と送電分野が一体となっていたために、電力会社だけで電力供給網の構築が容易にできていました。
計画的な構築ができるため、信頼性も高く、発電、送電部門間の連携も取りやすくなっていました。
しかし、今後、電力会社が発電会社、送電会社と分離されることになるとどうなるのでしょうか。

北米大停電は発送電分離が原因で起こった?

電力会社が発送電分野の分離に反対する理由も一理あります。
発電、送電それぞれが自社の利益を第一に考えて行動すると、とんでもないことが起こるということが実証されてしまっているからです。
それが、アメリカで起きた大停電です。
アメリカでは発送電は分離されています。それぞれの分野で会社が乱立しており、送電線網は送電会社の利益優先で構築されていました。
送電線の一か所で送電停止が発生したことがきっかけで、ドミノ倒しのように送電停止箇所が広がってしまいました。
これはそれぞれの送電線のバックアップ系統など信頼性に関わる部分の構築が、利益優先によりないがしろにされていたことが原因とも言われております。
もし、日本の電力会社に発送電分離が適用されたら、将来的にこのような状況になる可能性もあります。

電力自由化が有益なものになるために

こうした電力自由化を推進したがために、電力の信頼性が落ちてしまうということがなんとしても避けなくてはなりません。
信頼性が高いだけで、電力のロスが多いことや電気料金の高騰と言う状態も好ましくありません。
このバランスを取りながら、電気利用者の利益を最大限にもたらすため、政府の難しい舵取りが行われております。

ITを駆使したスマートコミュニティの実現

電力自由化により、様々な業種の業者が電力の販売に参入してくることも政府の狙いです。
その中で、通信を行う事業者が参入してくることで、ITを駆使した省エネを売りにすることも期待されております。
例えば、エアコンや空調設備と言ったどういった運転をするのか、それを町全体でどういった制御をすれば最適な温度となるのかと言った制御をかけ、町全体で電力を削減しようとするものも想定できます。
その際、町全体で電力を融通しあう必要が出てきます。その場合、電力の販売を一括で行う電力販売代理店や、空調設備同士をIT機器で接続する通信事業者などの協力も必要となります。
電力自由化の先には壮大なスマートコミュニティ構想があることを忘れてはいけません。

電力自由化は政府が電力会社へ突きつけた挑戦状??

電力自由化を進めるに当たり、政府は電力会社から抵抗されたことは容易に想像がつきます。
しかし、ここまで半ば強硬的に電力自由化を推し進めたのには、年々発言力が増す電力会社へのけん制とも取れます。
東日本大震災が発生して、原発事故を起こす前の東京電力は、発電量としては世界最大の電力会社であったのです。海外への進出も積極的に行い、向かうところ敵なしの状態だったのです。
一民間企業である電力会社が日本の電力行政を主導する立場となってしまうと、自社の利益のために制度を変更する等の都合の悪いことがたくさん出てきてしまいます。
政府はこうした状況を変えたかったということも電力自由化の本音なのではと思われます。

終わりに

電力の自由化は一消費者としてみれば、電気料金がいくらか安くなる程度の話で終わってしまいます。
しかし、政府としては、電力自由化は今までは実現不可能だった構想の第一歩に過ぎないものです。
その多くの労力は地道な活動に費やされ、気の遠くなるような年月をかけて、電力自由化が実現したことも忘れてはいけません。
多くのエネルギーを輸入に頼っている日本では、省エネや発変電システムの効率化は待ったなしの課題であります。
また近年、CO2の削減目標を世界に示さなければならない情勢であることから、政府は削減施策を必死になって探っているのです。
「スマートコミュニティ」構想はその施策の一つです。
こうしたことを知ることによって、電力自由化も違った目で見ることができ、もっと自分の住む地域が住みやすくなるにはどうしたらよいか考えるきっかけにもなりえるのではないでしょうか。


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