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茄子の輝きと花束みたいな恋をした

東京に来たときくらいに買った滝口悠生の『茄子の輝き』をやっと読んだ。

旅先の妻の表情。大地震後の不安な日々。職場の千絵ちゃんの愛らしさ――。次第に細部をすり減らしながらも、なお熱を発し続ける一つ一つの記憶の、かけがえのない輝き。覚えていることと忘れてしまったことをめぐる6篇の連作に、ある秋の休日の街と人々を鮮やかに切りとる「文化」を併録。芥川賞作家による会心の小説集。

新潮社

滝口悠生の本は『高架線』も読んだ。滝口悠生の小説はあまり会話文がなく語り手の取り留めのない思考をそのまま書いたような文章で読みやすくはないんだけれど、ストーリーより気持ちを書いているからそういう文体の方がいいのかもしれない。『茄子の輝き』は10年前に妻と離婚した市瀬という34歳の男性が、離婚してから数年勤めた会社のこととか、たまたま飲み屋で会った女の子のこととかをほぼほぼ1人で喋っている小説だった。序盤はなんか、離婚して傷心中のおっさんが会社の千絵ちゃんという可愛い女の子にうつつをぬかしている気持ち悪い話かと思った。でも会社を辞めて千絵ちゃんが過去の人になってしまうと、会社にいた時に感じていた千絵ちゃんの解像度とか鮮明さはやっぱり薄れてしまって、こうやって人は忘れていくんだなと。そういうなんてことない日常のエモさが味わえる小説だった。

『花束みたいな恋をした』のなかで、絹ちゃん(有村架純)が出張に行く麦くん(菅田将暉)にこれ良かったから持っていきなよ、と手渡したのが『茄子の輝き』だった。麦くんは結局読まなかったと思うしこのあと2人は別れて他の人と付き合うから、きっと2人が一緒に過ごした数年間も過去のことになって鮮やかさを失っていくんだなと、映画を見たのはかなり前のことなのに勝手にベッドの上でエモさに浸ってしまった。

地震がなければこれくらい大きな本棚が欲しい


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