絶世のモデルとその正体

同年代が集まると、決ったように健康の話に花が咲く。
こんな格言はご存知だろうか。
『神様が病気を治し、医者が請求書を持ってくる』
確かに、最終的には自然治癒力がモノをいうが、
病院の方もしっかりと支払いを求めてくる。
同じように、
キャバクラで、いくら笑わせてもガッチリと、請求書を突き付けてくる。
キャバ嬢のその美貌は、神様からの贈り物だというのに‥。
その容姿にはお金が掛かっているというなら、
高額請求も仕方がないところか。
マ、医者もキャバ嬢もそのどちらも、
部屋にコッソリ私を呼び入れると、
メスの部分をチラつかせ、私の心臓をドキリとさせる。
これが彼らのやり口であり、まんまとその目論見に嵌ってしまう。
いくつになっても、私はどちらのメスにも弱い。

美貌といえば、
近所のショッピングモールで、私は彼女と出会ってしまった。
ショールームのモデルで、
溢れる気品と輝く美しさに息を飲み、思わず手を伸ばしかけた。
今、行動を起こさなければ、もう出逢えないと、
衝動的に無謀なチャレンジをした。
ダメモトだったが、熱意と誠意が通じたのか、
あっさりと交渉成立し、店のスタッフの了解も得て、
アユミと一緒に歩くことができた。
天にも昇る気持ちでスキップし、彼女は優しく私を包み、
ずっと一緒にいても疲れない。アユミとの一体感が心地よい。
彼女の生まれは日本ではなく、
箱入りで大切にされてきたというが、耐久能力も申し分がない。
彼女に触れると、実に柔らかく雲の上を歩いているようだ。
彼女は饒舌で、
「私は朝から晩までしっかりと縛られたいタイプなの」と語りかけてくる。
「だけど、雨が嫌い!」という。
ある雨の日、アユミと一緒に建物の中に入った途端、
彼女は大きな声で泣き出した。
周りの人たちもチラチラ、アユミを見下ろす。
キュッ、キュッ、キュッと悲鳴の様に鳴き叫ぶのを止めようとはしない‥‥‥

私はお気に入りのスニーカーに、
アユミと名付けてずっと一緒に出歩いていたのだ。
先日、ショッピングモールのスタッフと交渉し、
やっと手に入れたモノだ。
彼女はこれまで見たこともないような、
美しさと気品を兼ね備えたモデルだ。
と言っても、ファッションモデルのような類いではなく、
特別限定モデルのスニーカーだ。
中々手に入る代物ではない。

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