そこからカラスが覗いている

街中を、想像の翼を広げながら散策するのが、好きだ。
ぶらぶらほっつき歩いていると、思わぬことに出くわす。
先日のこと、電車では空いていても座らないようにしているのだが、
その時、地下鉄が大きく揺れた。
脚を大きく後ろに踏み出すと座席の人の足を踏みそうなので、
小幅で堪えようとしたのがまずかった。
トットットっと不覚にもよろけて、
若い女性の膝の上にチョコンと座ってしまった。
(このスケベオヤジが!)
その女性と他の乗客の突き刺さる視線を覚悟し、
直ぐに立ち上がり、
「すみません、すみません」
赤っ恥!とショックを受けたが、それよりもダメージを受けたのは、
意外にも無関心で、何事もなかったかのように素知らぬふりなのだ。
「おじいちゃんだから仕方ない」って空気だ。

その日も街中を歩いていると、
突然、後頭部をポンと叩かれた。
一瞬、友人に挨拶代わりに小突かれたと思った。
カラスが目の前を飛び過ぎ、看板に留まってこちらを見下ろしている。
えっ?俺、今、カラスに後頭部を蹴られたと、知るのに少し時間が必要だった。
だが、カラスの目は敵対的ではなく、むしろ友好的に見えた。
その証拠に鋭い爪や口ばしではなく、足の甲で軽く蹴っているし、
眼差しが穏やかだ。人違いでもしたというのか、ただ見下ろしているだけだ。
そう云えば、奴はバツの悪そうな感じの佇まいだ。
私は右手でピストルの形を作り、頭上のカラスを撃つマネをしたが、
もちろん、リアクションはない。
「関西ならズッコケたりするぞ‼」と叫んだが、
不思議そうに見つめるだけだ。
更に彷徨を続け、歩道橋を上り始めると、
上からミニスカートの30代ぐらいの女性が降りてきた。
いやらしいと思われたくないので、上目遣いで階段を上がる勇気もなく、
先程カラスに蹴られた後頭部を見せる様に俯きながら上がって行く。
突然ガタッと音がし、音の方を見るとそのミニの女性が尻餅をついていた。
左手で手すりを掴んでいたので、転げ落ちるのは防げた。
だが、両足を広げて踏ん張っていたので、スカートの中は丸見え状態で、
白日の下に身を晒した。女性と目が合ったが、
先程のカラスと違って威嚇的で悲しげだ。必死さの現れかもしれない。
そして、ミニスカートは本来の役目を果せず、
ずり上がり、黒のちっぽけな下着が、私の目の前に披露された。
それは小さなカラスを連想させ、私の右手は無意識に身体の陰で、
ピストルの形になっているのを彼女は知らない。

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