最高の暇つぶしを100年かけて

人生100年時代なんて言うけど、
100年もいらないよ。
なんなら80年だってわたしには多すぎるよ。

長生きしたいと思ったことがなかった。
死にたいわけじゃない、人生に疲れたわけじゃない。
小さい頃からそうだった。
漠然と、ただはっきりと、そう思っていた。

父がいる。
あんまり会わない父がいる。
ただメッセージのやり取りはわりとする。
父はよく映画や本の話をしてくれる。
最近観たものも、昔読んだものも、
彼を構成している文化の話をしてくれる。
いつものように父からメッセージが届いた。
「はじまりのうたっていう映画があるんだけど、
 とても素敵な映画でさ。今度テレビでやるらしいんだよ。
 録画して観てみなよ」
なんてことないメッセージだった。
ただそのメッセージを見て思った。
長生きしてもいいかもと。

わたしは本も映画も好きだけど、
この世の中の、どれほどの量を知っているだろう。
まだ見ぬ良き作品たちを知らぬまま死ぬにはもったいない。
そしてその作品たちを全部見るには
きっと100年だって足りないだろう。

そのとき初めて長生きしてみたいと思ったのだ。
明日死んでもいいように、悔いのない生き方を!
なんて、わたしにはできない。
そんなの肩が凝って仕方がない。
100年かけて最高の暇つぶしをしてやる!
わたしにはこっちの方が合っている。
人生なんてわからない。
明日急に死ぬかもしれない。それならそれで別にいい。
それまで最高の暇つぶしをしていよう。

2024.06.09.sai

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?