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子どもたちの笑顔が4年ぶりに戻ってきた! 筑波愛児園「納涼祭」レポート

足かけ12年に及ぶ、サヘル・ローズさんと筑波愛児園との関わり

東日本大震災が起きた2011年、老若男女問わず誰もが痛みを抱えて、暗い世相から立ち直れずにいた当時の日本社会。ただでさえ、生きる喜びを感じることが難しい時代に、児童養護施設という環境で生活する子どもたちが、ほんのわずかな時間でも笑顔になってくれたら——。サヘルさんが筑波愛児園の子どもたちへ横浜の遊園地までのエクスカーション(小旅行)をプレゼントしたことから、今に続く支援が始まりました。

それから12年後の今年、新型コロナウイルス感染拡大という、これまた未曾有の困難から人々が立ち上がろうとする中、ようやく学校や職場、地域で“当たり前”だった日常が戻って来つつあります。去る9月30日に、筑波愛児園で開かれた「納涼祭」もその一つ。実に、4年ぶりの開催となりました。

広い園庭には、焼きそば、フランクフルト、かき氷、ヨーヨーといった定番の出店のほか、一隅のステージで披露されるダンス、歌、太鼓、お笑い、じゃんけん・ビンゴ大会、イバライガー(茨城県のローカルヒーロー)との握手会&撮影会、そして最後を飾る花火大会などなど……。

じゃんけん大会やビンゴゲームで楽しむ子どもたち

我らが「さへる畑」チームも屋台を出し、地域ぐるみでの盛大なお祭に、ささやかながら賑わいの花を添えられたのではないでしょうか。今回は、その参加レポートです!

さへる畑と屋台の紹介をするサヘルさん。翌日のお仕事のために、この日も夜間に新幹線で移動するという過密なスケジュールの合間を縫って、駆けつけました


コロナ以来、一時は消えた“楽しみの灯”

約50人の子どもたちが集団生活を送る環境で、“密”によるコロナ感染を避けながら、どのように日々の楽しみを見出していたのでしょうか。小林弘典施設長にお話を伺いました。

「納涼祭は、2014年の施設移転前からずっと続いている伝統行事です。やはり、地域あっての施設ですからね。地域の方々が温かく見守ってくださるから、一緒に接点を持てるイベントとして、皆さんにも喜んでいただけていたようです」

「しかし、なにしろコロナは今までにない経験でしたので、子どもたちはもちろん、職員もかなり寂しい思いをしまして。それでも創意工夫を重ねて、小さいグループに分かれて県内の海や山に出かけるなど、いろいろな企画を立てました」

筑波愛児園の広々とした園庭で繰り広げられた、納涼祭のさまざまな出し物。当日は曇天の予報で、小雨も心配されましたが、なんと午後には秋晴れの青空が広がりました

この日の納涼祭には、卒園生の姿も何人か見られました。「毎回、同窓会の感覚で欠かさず来ています。ステージの組み立ても手伝いましたよ」「なじみの顔がいっぱいあって、昔の職員さんにも会えるし。里帰りっぽくて、懐かしいっすね」「大人になればなるほど、『お世話になったな』と感謝を再認識する機会になっているかも」。小林施設長も懐かしいメンツを前に、始終、顔をほころばせていました。

納涼祭には、懐かしい園庭に集まった卒園生の姿も

「大人の事情で、理不尽な不利益を被ってきた子たちなので、彼らには『自分が大切にされている』という安心感の中で、自分らしく生きていってほしい。今でこそ、偏見や差別という点で、ある程度は変わってきていますが、世間ではまだまだ『施設だから』と否定的にとらえられることが少なくありません。少しでも気にかけてくれる、心に留めてくださっているだけでも、十分だと思うんです」


国際色とバラエティーに富んだ「さへる畑」メニューを一挙公開

のっけから重い話が続きましたが、せっかくなので、屋台の様子も楽しんでいただきましょう。さあ、今回の「さへる畑」名物メニュー、じゃんじゃん紹介していきますよ~!

  • アフガニスタン名物 ビビグルさんの手作りドーナツ

  • 広島の京子ママの愛情いっぱい 手作り焼き菓子

  • 今朝、作ってみたよ ワタナベさんちの家庭の味 ジャーマンポテト

  • 浅草から届いた 名物たい焼き(カスタード・つぶ餡・チョコレート)

  • 7色から3色選べる レインボー綿あめ

今やさへる畑には欠かせない「ビビグルさんのドーナツ」、畑メンが腕によりをかけて作ってくださったお菓子やジャーマンポテト、最後まで長蛇の列ができるほど人気を博した綿あめの屋台
畑メンの一人でもある、広島在住の京子ママ。「遠くて行けないけれど」と、今回も得意の料理を生かして、素敵なお菓子を届けてくれました
たい焼き体験®️などでおなじみの「浅草たい焼き工房 求楽(ぐらく)」を営む店主・北条さんをお招きし、さへる畑の出店に加わっていただきました


それぞれのユニークな得意技を生かして、畑メンも大活躍

映画・舞台・テレビ出演や芸能活動で多忙を極めるサヘルさんですが、そんな彼女を支えるのが畑メンの存在です。「サヘル・ローズのコアなファン」という共通項を持ち、みんな一見“普通の人”なのに、ひと筋縄ではいかない(?)こだわりや技能を持った仲間たち。“めんどくさい”ことでも進んでやりたがり、フツーにさらっとやってのけるという、ちょっと不思議で気のいい集団です(自画自賛)。

アクセスしにくい田舎道を、安全運転で何度も送迎してくれた頼もしいドライバー。美味しい料理の腕を振るってくれた調理のプロ。可愛い刺繍入りのバッジや名札を一人一人に用意してくれた手芸の名人。屋台のPOPを描いてくれたイラストレーター。現地で活動した畑メンも、当日参加できなかった畑メンも、持ち前の技をさりげなく生かすのが、さへる畑のスタイルです。

“自分らしさ満開”で、いろいろなアイディアを自由に持ち寄り、店頭に立つ畑メン
自らの体験を描いた絵本『いのちのおうち』(Clover出版)を今年4月に上梓した作者りりぃさん(ニックネーム)も、畑メンの大切な仲間です

こういう集まりを、巷では「ティール組織」と呼ぶのでしょうか。誰かがリーダーシップを執って上から指示・管理するのではなく、個々人が自分らしさを失わず、フラットな関係で協力し合い、仲間同士が同じ目標に向かって成長を続ける——。一つの「生命体」に喩えられるティール組織は、まさに「畑を耕して少しずつ育てていく」、さへる畑のあり方そのものですね。

サヘルさんの「やるからには、責任を持って成功させたい」という想いから、畑メンとの交流や打ち合わせにも余念がありません


サヘル・ローズからの「生きていてくれてありがとう」

夏に終わりを告げる、納涼祭という、人の一生では一瞬の線香花火のようなイベント。人生とは、小さなイベント(出来事)の積み重ねだとしたら、その一つ一つが“単なる余興”では終わらない、かりそめならぬ意味を持っているのかもしれない、と感じさせられた一日でした。

対面で人と会い、笑って楽しむことがどんなに貴重な機会であったかを、私たちはコロナによって思い知らされました。奇しくも、新しい形のファンクラブ「さへる畑」の立ち上げは、昨年の春。それはちょうど、制限された生活を強いるパンデミックから抜け出ようと、人間社会全体がもがいていた時期でもあります。

手芸の得意な畑メンが手作りした、お気に入りの”分身”とともに。この「サヘル人形」シリーズは、別のイベントでも出品される予定です

自身がイランの児童養護施設で育った経験を持ち、そこで生きざるを得ない生い立ちのつらさを知っているからこそ、少しでもその苦しみを和らげてあげたい一心で、人知れず支援を続けてきたサヘルさん。活動に託す想いやメッセージを語ってもらいました。

未来を生きる子どもたちの心の中で、喜びの種子となりますように……

「どんな子にとっても、ここは一つの家(ホーム)なんですよね。傷ついた心を、たぶん誰も『分かるよ』とは言えない。けれど今日みたいに、“可哀そう”という目ではなくて、誰かが真っ直ぐに見てくれている。だから、ちょっとでもみんなが楽しんで笑顔になれるのなら、私は『その思い出をプレゼントしたい』と思うんです」


【関連情報】

社会福祉法人 筑波会 児童養護施設 筑波愛児園

浅草たい焼き工房 求楽(ぐらく)
東京都台東区西浅草2-3-2
TEL:03-6338-1809


【参考図書】

『支える、支えられる、支え合う』サヘル・ローズ 編著(岩波書店)
サヘル・ローズさんが自らの体験をたどりながら、子どもたちの心に寄り添い、生きるヒントを教えてくれる一冊です。

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