逆転裁判の新作が出ないのは何故か

はじめに


本記事には、「逆転裁判1~6」「大逆転裁判1~2」「逆転検事1~2」「レイトン教授コラボ」に関するネタバレが含まれています。

作品のストーリーやオチに関わる致命的なネタバレが容赦なく出てきますので、ご注意ください。

なお、私は逆転裁判のファンです。一部に誤解を招きそうな表現がありますが、私は逆転裁判を心から愛しています。


逆転裁判のゲーム史は停滞している


逆転裁判の新作まだですか?
というファンからの思いは、時が経てば経つほどに多くなる気がします。

この記事を書いているのは2023年1月です。

2017.8.3に大逆転裁判2が発売されて以降、今日まで新作に関する情報は全く出ていません。5年以上も間が開いています。
外伝を除けば、2016.6.9に逆転裁判6が発表されてから、6年半以上も新作が出ていません。
これは逆転裁判4が発売された2007.4.12から、逆転裁判5が発売された2013.7.25までの6年3か月を上回る記録です。

4のズッコケを理由に「逆転裁判は終わっている」と酷評する者もおりました。
とはいえ、逆転裁判4と5の間には、逆転検事が2作品発表され、レイトン教授とのコラボもありました。3回の外伝発表で息継ぎをし、逆転裁判の歴史を絶やさなかったカプコンさんの姿勢はありがたかったです。

大逆転裁判2以降は、本当に新作発表がありません。
新作の制作が決定しました!という情報さえ一切ないのです。
本当に「逆転裁判は終わっている」と言うべきなのは、今のこの状況なのです。

舞台、アニメシーズン2、リメイク作等はありましたが、歴史に新たな1ページを刻み付ける新作は一切無いのです。

逆転裁判がいかに停滞している状況なのかは、何となくお判りいただけたと思います。
この記事を書いている今も、私は「新作が出てほしい」と心の底から願っております。

しかしながら、私の完全な邪推ではあるものの新作が出ない理由は何となく想像が付くのです。
本記事は、そんな一人のファンの勝手な妄想を書き連ねているものになっています。


綺麗に完結してしまった主人公達


逆転裁判3、逆転検事2、逆転裁判6、大逆転裁判2
これら4つの作品は、いずれも逆転裁判シリーズの「オチ」とも言える作品です。

2004年に発売された逆転裁判3は、1と2の内容を踏まえた上で、今までのストーリーを綺麗にまとめた名作でした。
成歩堂と千尋さんの出会い。成歩堂・千尋さん・御剣検事の過去の因縁。
DL6号事件に関わっていた霊媒師とは何なのか?狩魔のその後はどうなったのか?ゴドーは過去作品とどう繋がりを持っていたのか。
そういった全ての要素を詰め込んで、成歩堂龍一の物語を「完結」させたゲームだったのです。
多くのプレイヤーから高い評価を得ていたでしょう。

その後、4がいかに大変な事になったのかは皆様ご存じでしょう。
一度完結した作品の続きを描くのは、非常に難しいのです。

だって、成歩堂龍一の物語は完結しています。
過去との因縁も、千尋さんとの物語も、その他交友のあったキャラ達の問題も解決してしまったのですから。
これ以上、何を描けというのでしょうか。

逆転裁判は、ここで一度頓挫しました。



その後、逆転裁判5では王泥喜と心音を加え、成歩堂龍一を「上司」として描いた物語にシフトチェンジしました。
成歩堂はいかにして舞い戻ったのか。新たに加わった部下たちが、過去とどのように決着を付けるのか。
逆転裁判1~3が成歩堂三部作と呼ばれるのなら、4~6は王泥喜三部作と言える内容だったでしょう。

6のストーリーを経て、成歩堂は頼もしい伝説の弁護士兼上司に。
王泥喜はクライン王国の司法を担う重要人物になりました。

えぇ、綺麗に物語が幕を閉じちゃったんですよ。

心音が戦うべき巨悪はもう居ません。
王泥喜は日本を旅立ちました。
成歩堂に至っては、何度も言いますが3で物語が完結しています。

もう描けるものが何もないのです。
ここから、どうやって逆転裁判7を作れというのでしょうか。
いかに優秀なシナリオライターでも、この先の物語を作るのは困難でしょう。
下手な足掻きでは、逆転裁判7は蛇足にしかならないのです。


逆転検事2は、御剣の苦難と逆転劇、そして「御剣はどのような未来を選ぶのか」という答えが出た作品です。
EDの御剣は、黒幕のような存在を出さないように、弁護士としてではなく、検事として前に進んでいく事を決意しました。
そして、その結果が逆転裁判5の御剣検事局長です。
成長した御剣を見たときは、プレイヤーも感動したと思います。

…でもね、その先は無いんですよ。
検事局長の座を手にした御剣に、これ以上の成長もドラマ性もありません。

大逆転裁判2は、先祖ナルホド君の成長譚を描ききった名作です。
友と助手の思いを背負い、大日本帝国と倫敦の闇に打ち勝ちました。
過去の事件を解決し、めでたしめでたし。ナルホド君は大日本帝国に帰郷し、友は倫敦で「狩魔」と友に検事を極める道を選びました。
倫敦の平和は、名探偵シャーロックが守ってくれるでしょう。

…で、これ以上何を描けって言うんですか?

私は、逆転裁判のストーリーに限界を見てしまった気がします。
成歩堂龍一も、綾里千尋も、王泥喜法介も、希月心音も、御剣検事局長も、そして先祖成歩堂も、皆綺麗に「完結」しちゃいました。

これ以上、この主人公たちが成長する術も、物語を続けるための隙もありません。
無理やり物語を続ける事は本当に難しいことなのです。

逆転裁判のファンとして、私は続編を望んでいます。
ですが、ファンとしてストーリーを遊んだからこそ、この先が無い事も知っています。
もしも続編が出る事があったら、その続編のストーリーが素晴らしいものだったとするならば、それはもう奇跡としか言いようがありません。


過去作品のキャラの扱いは難しい


皆様は「ダルホド君」という言葉をご存じですか?
これは逆転裁判4に登場するナルホド君に対する、あだ名あるいは蔑称です。

1~3の流れを経てファンから神格化された成歩堂龍一という存在は、4でズタズタに陥れられました。

捏造疑惑による弁護士資格剝奪。
対して上手くもないピアニストという悲惨な境遇。
みぬきを利用して王泥喜に捏造をさせるクズっぷり。
作中でのやる気を感じさせない恰好と言動。
陪審員制度を私的利用した復讐劇。

まさかナルホド君が、ここまでのダメ人間になるとは誰が想像したでしょうか。王泥喜という新キャラを立てるためには、成歩堂という人気キャラが存在してはいけなかったのです。
いっその事、成歩堂は登場させずに、王泥喜とみぬきの2人だけで物語を進行させた方がずっとマシだったでしょう。

でもダメだった。
カプコンは成歩堂の転落を選択しました。
それを心から喜んだファンはほとんど居なかったでしょう。
成歩堂はダルホド君に、みぬきは2回にわたって捏造証拠の横流し、王泥喜は対して目立たない。

でも、こうなるのは仕方のない事なのです。
だって逆転裁判は今まで成歩堂が主人公だったのですから。
どこかで成歩堂を出さないと、それは逆転裁判では無かったのだと思います。

下手に過去作のキャラを出すのは、非常に危険なのです。
成長しきったキャラを出しても成長の余地がなくつまらないから、だから成歩堂は転落させられたのではないかと、私は勝手に考えています。

そうじゃないと、3で賞味期限が切れた成歩堂を出すことはできないから。転落したという刺激的なエッセンスをもって、成歩堂は4に出演できたのです。

ファンが成歩堂の復活を待望したため、5では主人公に返り咲く事ができました。5と6で、王泥喜と心音を支える良い上司になりました。
でも、王泥喜はもう居ません。心音の問題も解決しています。
また賞味期限です。

これも全部私の勝手な妄想なので「ふーん」ぐらいに流してもらって大丈夫です。

とにかく、逆転裁判7を出すのであれば、また誰かしらを主人公にしなければいけません。
さて、誰を出しましょうか。

成歩堂と王泥喜の話はもう終わっています。
心音はまだ開拓の余地がありそうですが、そもそも6の出演自体が蛇足というか、彼女の話は箸休め感がありました。心音は主人公でしたが、本編に深く絡んでいません。

そもそも、推理物というジャンルにおいて新作を作り出すというのは、「主人公が"また"何かしらの騒動に巻き込まれる」ことを意味しています。
成歩堂や王泥喜や心音に、これ以上苦難を経験させるというのも、難しい話なのかもしれません。


じゃあ新規の主人公を作ればいいじゃんという話にはなりません。
これまでの逆転裁判で、「成歩堂」というブランドは大きく染みついています。
4で新主人公王泥喜がズッコケた過去は消えません。
どうやって新キャラを作り、成歩堂を超えれば良いというのでしょうか。

逆転裁判7を発表するのであれば、この過去作品との問題は決着を付けなければいけません。
下手に続編を作れば、また逆転裁判4のようになるのは、誰もが容易に想像できているでしょう。

これ以上壮大で斬新なストーリーが作れない


逆転裁判は、元を辿れば法廷アドベンチャーだったハズです。
殺人事件を解決するために奮闘し、真犯人の嘘を暴きながら尋問を行う。
それがメインの作品だったハズです。

ですが、毎回同じようなストーリーでは、飽きるのがプレイヤーというもの。
逆転裁判は、過去作品のストーリーを超えるために、プレイヤーを飽きさせないために、どんどんと物語が壮大かつ斬新になっていきました。

逆転検事2では、来日した大統領が銃撃されるという、非常にショッキングな事件から始まります。
国際問題級の事件を解決するために、検事局が送ったのが、天才検事御剣です。もうこの時点で、「壮大なセッティングが無いと、優秀な経歴を持つ主人公は出せない」という壁にぶつかっています。
そしてストーリーを進めると、検事局の闇に暗殺事件、そして歴代史上最強の頭脳を持つ黒幕との対戦と、盛り上がりどころが満載です。

レイトン教授とコラボしたときは、魔法が存在するという不思議な世界に誘われました。
そして魔法を不思議な存在にするために、真宵の霊媒師設定が消えてただの人間になるという原作否定な状況には笑いました。

魔法という何でもありな世界で、「杖と石が無ければ魔法が使えない」という条件を設けて推理を成立させ、ファンタジー推理物に挑戦。
また、群衆尋問という「複数人を同時に尋問する」新感覚や、証人同士が争いを始め検察が不利になる滑稽な姿に、ニヤニヤしたプレイヤーも多かったでしょう。
「魔法の正体とは何か?大魔女とは何か?」という疑問の答えは、逆転裁判勢には受け入れにくいものだった気はしますが、それはそれとして「魔法」という壮大なテーマを扱っていたのは事実です。

逆転裁判5では、王泥喜に感情移入をさせるため、彼の活躍の場が多くなりました。
大切な人に死んでもらい、スパイを絡めた法廷爆破大事件に巻き込み、後輩の疑惑に揺れながらも、「被告人を最後まで信じる」「しかし疑わなければ真実は見えない」というスタンスを貫きながら成長しました。
心音は、真面目に心理学を勉強したという言い訳を用意させた上で(じゃないとみぬくのようにインチキ扱いされるので)証人の感情を喜怒哀驚で分析させるという、これまた新しい事に挑戦しています。

6では、もう堂々と霊媒をストーリー進行とトリックに使ったり、裁判の証拠として扱うぐらいです。
「犯罪者を弁護する奴も犯罪者だ」みたいな過激思想を持つ人は現実にもいるわけですが、それを超肥大化させたのがクライン王国の司法です。
王泥喜達は、そんな国家の陰謀に巻き込まれながらも、女王をぶっ飛ばして革命を成し遂げる英雄になりました。とうとう国を覆しちゃったよこの人たち。

なお、大逆転裁判ではシャーロックホームズが登場し、国を味方につけて倫敦の闇を滅した模様。



いや、これ以上はもう無理でしょ!!!
国家まで敵に回してしかも勝っちゃうとかさ、壮大すぎるんですよね!!!ゲームをプレイした身としては非常に面白かったし興奮しましたが、じゃあこの先何をやれば良いのかと。

逆転裁判7で、「スパイや国に勝っちゃう」以上のストーリーが作れるのでしょうか?「魔法やら死者が出てくる不思議な裁判」以上の世界観が作れるのでしょうか?
やれることはやり尽くした感が凄いですね。

余生を謳歌できる状況


逆転裁判は、これまで20年以上もの歴史を紡いできた作品です。
そんな逆転裁判に、「この先」はあるのでしょうか?

例えば、逆転裁判4や逆転検事1・2を今の技術でリメイクするだとか、4~6のアニメ化を行うだとか、そういう延命行為は不可能ではないでしょう。きっとファンも喜ぶと思います。

ですが、今の逆転裁判は、停滞しています。もう何年も前に進むことが無く、ひたすら止まり続けています。
このまま逆転裁判は、新しい歴史を刻まずに時を止めてしまうのでしょうか。

この状態は、果たして悪いと言えるのでしょうか?

この記事で何度も言っていますが、逆転裁判は綺麗に完結した作品です。
今の逆転裁判は、いわば有終の美を達成して、過去作のリメイクといった「余生」を存分に味わっている状態になります。
そこで満足したとしても、特に大きな問題にはなりません。
だって、新作を出さない事は罪ではないのですから。
むしろ、新作を出してそれがズッコケる方が、ずっと罪です。

だから、製作陣は超慎重に新作を作っているのか、あるいは作るのを諦めたのではないでしょうか?
(これこそ私の勝手な妄想であることはご了承ください。)

そして、余生を謳歌しているのは製作陣だけではありません。
逆転裁判の世界に生きるキャラクター達もなのです。

今ここで逆転裁判の歴史を終わらせれば、逆転裁判は綺麗なまま終わります。希望ある未来をつかみ取った主人公たちはハッピーエンドを迎えました。
その先を描かなければ、そこで終わり。
これ以上騒動に巻き込まれる事はなく、何かを得ることはありませんが、変わりに失う事はありません。
これ以上、成歩堂や王泥喜や心音が何かを失う様を見せられて、プレイヤーが喜びますか?という話です。

それでも私は新作を望む


最後に断っておきますが、私はそれでも逆転裁判の新作を望んでいます。
これがいかに滅茶苦茶難しい事なのかは、自分がよく理解しています。

この記事を書いている時点では、おそらく新作は出ないだろうと思っていますし、この先何年も逆転裁判の歴史は止まったままなのかなと予想しています。

それでも、私は新作を見てみたいのです。
理由は実に自分勝手で、「新しい物語を見てみたいから」に尽きます。

ファンは、毎回物語が綺麗に完結することを望んでおきながら、より素晴らしいクオリティに仕上がった次回作を求め続けてしまうものなのです。
どう考えても無理難題です。
これに応えるためには、そりゃあ6年以上の月日は必要になるよなとしか言いようがありません。

もしもこの記事が投稿された次の日にでも、新作発表がされようものなら、この記事の存在意義は無くなり、私は大恥をかくことになるでしょう。

でもそれで構いません。
それでも新作を望む。
新作が出ない理由を勝手に考察しておきながら、それでも新作を望む、超自分勝手なファンなのです。

後何日後、あるいは何か月後、あるいは何年後に新作が出るのか、自分勝手な期待と自分勝手な不安を抱きながら、待ち続けるとします。

2023.01.08

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