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隣人さんの正体をあなたは知っていますか/トナリノ
驚きのサムネ、そしてタイトル
めっきり寒くなってきて、秋というものはいったいどこに行ったのか。そんな気分にならざるを得ない今日この頃。皆様はいかがお過ごしだろうか。
久々にキーボードを新調し、試し打ち……というわけではないのだが、こうして感想を書いている。正直、試し打ちで感想というのもかなり作者に失礼であろうが、どうか許してほしい。感想はまじめに書くので。
さて、今回の感想はこちら。「トナリノ」という短編ノベルゲームだ。
これもティラノフェス2024にて発見したゲームで、このサムネを見てしまえば、やらないわけにはいかない。これほど印象的な、そして不穏な感じを漂わせているゲームはそうお目にかかれないだろう。またタイトルだって「トナリノ」だ。隣のなんなのだ。某ジブリ作品のようなホッコリとしたものなのか?このサムネで実はホッコリなんて、いい意味でサムネ詐欺ではないか。
だが、安心してほしい。このサムネ、そしてタイトル通りのストーリーになっていた。
想像すればするほどゾッとする
ネタバレがいやな人はここまでの方がいいだろう。がっつり、とまではいかないが軽いネタバレがあることを了承してほしい。
主人公はうら若き女子大生。初めての一人暮らしのウキウキを爆発させている、そんな主人公だ。ストーリーは一本で、分岐があるもののそれによってエンディングが変わることはなく、ただ淡々と話は進んでいく。時間にして15分程度であろうか、短い話である。だが、そこに隠されている何とも言えぬ不穏さがじわりじわりと迫ってくるのだ。女子大生という若く怖いもの知らず、言い方を変えれば世間知らずな感じ、安アパートに住まう人間の薄暗さ、そしていろいろ抱えていそうな隣人。大きくこの三つが見事に交じり合い、恐ろしいほどの不安を呼び寄せてくる。想像力のある方なら、これだけでおおよそのストーリーを頭の中でなぞっているのではないだろうか。だがこれはそんな簡単な話ではない。だからこそ、プレイしてほしいと思っている。
活気のある女子大生の一人称視点で進んでいくのに、間に差し込まれた隣人であろう人の背景を現わしているイラスト。これがまた想像力を掻き立ててきて、恐ろしいのだ。
ただの隣人トラブル程度で終わらないのがこのゲーム。このゲームの中に渦巻く未来への希望と絶望。裏と表が見事に描かれていた。女子大生によって受けた迷惑だけが、すべての原因ということができないように思う。隣人の置かれた状況、絶望に打ちひしがれる姿。語られることはなくても表現されている絵をみれば、容易に想像がつくだろう。そんななか、自分と正反対の若く活気のある女の子が、まさに人生を謳歌しているその姿に嫉妬して、ともとれる。
ただ、それらを語られることはないのだ。そう、隣人についての情報は一切語られない。どうぞ、皆々様でご想像くださいませ、と言わんばかりに無い。語られないが、想像できてしまう。ゲームの中にある無言の道標に、わたしは見事導かれてしまった。
そして結末。隣人の行動すべてが計画的に、主人公の行動パターンを見越してのことならば、わたしはこの隣人に拍手と敬意を送りたい。読みやすそうな主人公ではあるものの、まさかアレを開けていると誰が予想できるだろうか。それすら予想して、隣人が一連の行動を起こしていたのであれば、隣人は、実はとても賢い人なのではないかと思ってしまった。溜まりに溜まったものが爆発するのではなく、じわりじわりと侵食していく感じ。これは「怒り」というよりも「憎しみ」に近いものがあるように思えてならない。女子大生に対する感情だけではなく、もっと大きなものに対する感情。その矛先がたまたま女子大生に向いただけ、そんな気がしてならないのだ。
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15分に込められた人間の性
あっという間に終わった「トナリノ」
どんなに頑張っても結末は変わらない。それに対してわたしは何も思わない。逆に変わってほしくないとさえ思う。このゲームはこの結末があって初めて「なんていいゲームなんだ」と思うだろう。
このゲームの中に登場する人物たちは、必ず自分自身の中にいるのではないかとふと考えてしまった。女子大生のような希望に満ち溢れ、将来への不安など微塵もない。周りが見えなくなっている自分。また隣人のようにすべてに絶望し、もうどうにもできず追い詰められ、どんな行動を起こすかわからない自分。そして、アパートの住人のように他人の不幸をペラペラとしゃべり倒す自分。そう、どれもこれも自分の中に存在しているのだ。少なくとも私はそう感じた。だからこそ怖いと感じたのかもしれない。自分のことを見ているようで。それは、きっとどの人も持ち合わせているものなのではないかと感じている。
だからこそ皆々様にはぜひともプレイしていただきたい。これをプレイしてどう感じるかは人それぞれだと思う。それだけふり幅の大きいゲームだと思った。
こんなのが感想でいいのかはわからないが、素直に思ったことを書いていったらこうなったのだ。
許してほしい。
そしてプレイしてほしい。
感じてほしい。
己の目に彼女らがどう映っているのかを。
以上 豅 さえでした