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吐くために吸うのか吸うために吐くのか
吐くため吸うのか吸うために吐くのか
そんなのはどっちでも
ただわかるのは僕たちには循環が必要だってこと
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野北拓希に会ったのは夏の雨の日だった
セミを食べる日、
相方の虫博士が連れてきたひとりだった
集まった十人に対して取れたセミは一匹だった
僕は焦っていた。みんなセミを食べることを楽しみに
来てくれたのにこのままでは食べることができない。
皆はセミを諦めたのか各々弁当を食べていた
僕はもう一度セミを取りに行くと告げると
自分も行くと行ってくれたのが彼だった
どしゃ降りの中なんとか人数分のセミを捕まえた
みんながセミを食べれたのは彼のおかげだった
帰り道、
ゴミとか多分ゴミ箱あったら誰も道端に捨てないと思うんすよ。なんかうまく言えないんだけど、誰もわるくないっていうか。
熱い人間だった
二回目の再会も雨の日だった
彼の関わっている"カタリ場"に参加したときだ
彼は命がけでそこにいる。ように見える。
僕は感動した
彼ら大学生が高校生を救おうとしてること
僕が思ってるより高校生は多くのものを抱えてること
大学生の彼ら自身つらい過去を抱えそれでも前を向いていること
すごい場に参加させてもらったと感じた
帰りにたこ焼きに誘うと
良いすねいこうと言ってくれた
今日21時ぐらいまで話したいんすけどいいすか
まだ15時だった
話したいことが沢山あるみたいで
自分ばかり話して申し訳ないと言って
ときどき僕に質問をくれるんだけど
僕が話し始めるととても興味なさそうに
なるのがとても面白かった
最近人の話が聴けないんすよね
僕が見えてることを伝えると
だから嫌なんすよ、見透かされてるようで
と言っていた。
彼は目に見えるよりも悩み多き人間だった
わぁさだちゃんとも話せなくなってきた。。
僕たちはしばらく無言のままタバコをふかした
地面に置いたわかばの近くに羽の一本取れたハチが歩き回っていた。こんなにハチを近くで見たのは始めてだった。
ちょっと吐いてきていいすか
と草むらの方に行く
本当に吐いていた
話している途中でお酒も飲んでないのに吐く人間は初めてで面白かった。リュークの気持ちだった。
ああ、俺ずっと吐きたかったのかもしれないです
ははっだからタバコこんなに吸ったのかもね
吐くために吸うという考えはとても面白かった
あ、めっちゃアウトプットできる
そういって彼はまた話はじめた
それからの彼は僕の話もよく聴いた
吐くために吸って吸うために吐いていた
あたりが薄暗くなり虫の音が聴こえはじめたころ
彼は宙を見つめながら話はじめた
銭湯に行った時なんですけどね銭湯って循環してるんすよ
こう水が流れてくるとこあるじゃないですか
てことは水が流れていくところもあるわけで
見つめててお湯ってとどまってないなぁと思って
とにかくなんか循環してたんすよ
彼はガサツに見えて目に見えるよりも繊細な人間だった
繊細だから多くのものが見えてしまって傷つくし悩むのかもしれない
だから銭湯って気持ちいいのかもね
明るいやつほど色んなものを抱えてたりするから
人間はとてもあやういなぁと思う
帰りに寄った居酒屋では
キャベツがおかわり自由だった
醤油とマヨネーズをあわせてキャベツを食べると
ヤバかった。発明だった。
マヨネーズはスライストマトについてきたものだったので、マヨネーズだけもらえないかと店員さんに訊ねると、
本来だめなのでアンケート書いてくれたらいいですよ
と天才かと思った。
帰り道におじさんと肩がぶつかった
世界が怒っている気がした
少し振り向く
おじさんも振り向く
おじさんはケンカしたいように見えた
すみませんと言うとおじさんは少し寂しそうに
なにも言わず歩いていった
僕はその時肩をぶつけられたように感じたけれど
もしかしたら肩をぶつけたのは僕だったかもしれない
きっと無意識に押し込められたものが
今も行き場を求めてさまよっている
吐けないから吸収できない
ゼロにならなければ
世界はまだまだ怒っている
怒っているのは僕の世界か
知らんけど