「韓国のお姉さん」(番外編13)
私がそのお店で働き始めて1年くらい経った頃でしょうか、1人のニューハーフのお姉さんが入店しました。
彼女は韓国の人で、ホルモン投与も何の手術もしていないのにとてもきれいな人でした。もちろん、実年齢はわかりませんが、たぶん私より4つか5つくらい年上だったのだと思います。彼女は全くの素人同然の私をとても気にかけてくれました。
営業中のお店では、 年下でも「お店の先輩」である私を立てて、さりげなくフォローしてくれました。でも、一歩寮に帰れば、「業界の後輩」である私にいろいろ教えてくれました。
生まれてこの方、ダンスなんて一度もしたことのない私にレッスンもしてくれて、私のショーの衣装までわざわざ作ってくれました。
ちょうどまだM嬢もいた頃だったので、最初、私とM嬢は一緒にショーをやっていましたが、相変わらず彼女は、
「Nさん(お姉さん)は私に、Cちゃん(私)は覚えが悪くて困るわって陰で言うの」
などと、私とお姉さんを仲違いさせようとしてばかりいました。
「Nさんが言うには、私はこの世界で立派にやっていけるけど、Cちゃんは絶対に無理だわ」とか。
もちろん、私にはそんなうっとうしい雑音はあまり聞こえませんでした。Nさんもそのことを否定したし、ほんとによくしてくれましたから。
でも、そんなお姉さんもやがてそのお店を見限り、別のお店に移ることになりました。彼女は誰よりもまず、 私にそのことを打ち明けてくれました。ちょうどそれは以前からいたSRS(性別適合手術)済みのお姉さんの退店とほぼ同時でしたから、彼女は「来る気があるなら、あなたも一緒に移籍させたい」とまで言ってくれました。
それはとてもありがたいお話でしたが、やはり私にはできませんでした。もしあの時、お姉さんと一緒にお店を移っていたら、と時々今でも考えちゃいますが。
そんな私に彼女は、
「もし移る気になったら連絡をちょうだいね」
「そうでなくても後数年したら私は韓国に帰るから、手紙をちょうだいね」と、自宅の住所を書いたメモを私に残して行きました。
ちょうど彼女が最後の日はお店のイベントだったので、彼女は私にとっておきのメイクやヘアメイクをしてくれました。時間がかかり過ぎて二人とも開店時間に少し遅刻してしまいましたが、やはり私だけに怒るママに対して、彼女はかばってくれました。
やがてその日の営業時間も終わり、もう彼女とも一緒に働けなくなると思うと、私は思わず泣いてしまいました。思い出にしようと二人で写真も撮りました。
彼女は口ばかりではなく、その後も数回、寮にこそっと私だけに電話をかけてきてくれたり、直接、寮に訪ねて来てくれました。
今ごろ、夢を叶えて、韓国でお母さんと一緒に料理店を開いていることと思います。いつかまたどこかで会えたら良いですね。
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