基本部首は9種(漢字解読-4)
多くの漢字を生み出す元素となる基本部首は次の9種です。基本部首の一覧を示します(以降「文字の意味」を「字の義」または「字義」とする)。
漢字の基本部首とは漢字表記体系の元素となる文字であり、基本部首が基で他の全ての漢字ができています。基本部首は全部で9種ありますが、それを記号論(三元記号論)に従い分類しますから類像記号、指標記号、象徴記号の3種に分類されます。漢字では基本字の類像記号に対しては類像字、指標記号に対しては指標字、基本字から造られる象徴記号を象徴字と呼ぶことにします。
・類像字⇔意味の形を保った記号
=基本部首の6種 :=「|」「▽」「口」「ノ」「丶」「_」
・指標字⇔意味の実体に関する記号:=「点」「線」「斜線」とその派生字
・象徴字⇔意味を約束した記号=類像字と指標字とから造られる字
:=派生字、指事字、複合字の3種あり
基本部首からの展開
基本部首は類像字が6種と指標字が3種の合計9種です。基本部首から造られた他の全ての漢字は象徴字で、象徴字は更に派生字、指事字、複合字の3種に分類します。ただし指標字のみから生まれた派生字はだけは象徴字ではなく全て指標字に分類します。
「類像字」⇔義の形を保った字:=類像記号[Icon・全6種]
├「口」⇔‹類像›産道口=産道口を記号化:=①子を生んだ女・婦・ひと、
| ②口・口状の物、③口の中・囲う・包む、④口の機能・言葉
├「▽」⇔‹類像›女性器=女の股間を記号化:=女
├「|」⇔‹類像›男性器=男の股間を記号化:=①男、②棒状の物⇒棒
├「ノ」⇔‹類像›毛=体毛を記号化:=毛⇒毛の生えたもの⇒成長したもの
| ⇒特別なもの
├「丶」⇔‹類像›排泄物=排泄物を記号化:=①汗・涙・尿・便、②水・液体
└「_」⇔‹類像›大地=大地を記号化:=大地⇒地面⇒地
「指標字」⇔意味の物理的実態に関する字:=指標記号[Index・全2種]
├「丶[点]」⇔‹指標›場所や位置や物理的特性:=①そこ位置・その部分、
|| ②特別なもの、③準ずるもの
|└「乀I」⇔‹指標›(‹派生›)「丶」の変形:=「丶」と同意
├「|・一[線]」⇔‹指標›:=①上へ・下へ・右へ・左への方向と動き、
| | ②意味の区別・図形的利用
| └「十・✕」⇔‹指標›(‹複合›):=①四方へ伸びる・②四方が縮む
└「/[斜線]」⇔‹指標›排除の手振り:=除く⇒切る⇒殺す
└「〆」⇔‹指標›(‹複合›)/+丶=切る+特別に:=刈る・殺す
「象徴字」⇔意味を約束した字=類像字と指標字とを除く全漢字
| :=象徴記号[symbol]
├「派生字」:=基の字形から変形・回転・分解・合成等の操作で得た字
├「指事字」:=基の字形に指標字を加えた字
└「複合字」:=意味を持つ部首を組合わせた字
類像字の「丶」と指標字の「丶」は同型異議ですが、類像字の「丶」は単独での用例がなく複合字のみ存在するので区別可能です。
改めて各字の解釈と定義(字の成り立ち)には「見出し字」「解釈項」「字義」の三項からなる解釈式を使います(三元記号論に準拠)。
「見出し字」⇔解釈項:=字義 ーーー解釈式
一つの部首に焦点を当てそれを部首を親字とする字の展開には木構造を採用します。この時は親字の解釈式を「主ノード」で表わし、その「葉ノード」としては親字を部首に持つ見出し字の解釈式を列挙します。「葉ノード」の表示は親字の派生字、指事字、複合字の順に展開します。解釈式はできるだけ一行に簡略化しますので、多少理解しづらい所は我慢してください。 文字種別は解釈式の解釈項に〈〉で括って示します。基本部首は‹類像›‹指標›の2種、象徴字に対しては‹派生›‹指事›‹複合›の3種で示します。ただし、‹複合›は省略します。
複号字に関しては二つの部首Aと部首Bの組合せである時「A+B」と表記しますが、これに対し「A∪B」は二つの部首の一画が融合した字形であることを示します。
(表題のイラストは解読のサンプル)
漢字の中で最も同形異義の多い「一」は文字毎に解釈 し分ける必要があります’(詳細は後述)。
「_」⇔‹類像›大地:=地⇒地面
「一」⇔‹指標›:=左右の方向または動き
「一」⇔‹指標›複合字の中間:=意味を分ける記号
「一」⇔‹派生›▽の上辺:=女の体⇒体
「一」⇔‹派生›|[=棒]の回転=一本の棒:=ひとつ⇒一番目
象徴字の成り立ち
1.派生字
派生字とは親字に図形的な操作を加えて生まれた字です。その図形的な操作としては回転、逆転、部分、分割、分離、変形、重複、等いろいろあります。特に同じ部首が重複して造られた字は複合字とはせず、派生字に分類します。
新しく生まれた派生字の意味を派生字義と呼ぶことにします。派生字義は親字義に図形的な関係を加味したものです。具体例を挙げると、親字「上」に対する派生字「下」は親字に対して"上下逆転した字形と字義"を持ちます。ただし、同じ字の重複した場合2つの時は「たくさん・二つ」の意味が、3つの時は「非常にたくさん」の意味が親字義に加わった派生字義が生まれます。
基本部首の特殊な派生字のみを先に紹介します。
「口」⇔‹類像›女性器:=婦
├「𠃌」⇔‹派生›「口」の上右辺=男性的なもの:=男の徳⇒男性⇒男⇒オス
└「乚」⇔‹派生›「口」の左下辺=女性的なもの:=女の徳⇒女性⇒女⇒メス
「▽」⇔‹類像›女の股間:=女性⇒女
├「一」⇔‹派生›「▽」の上辺」:=女の体⇒体⇒器官
└「Ⅴ」⇔‹派生›「▽の下部」:=女の股間⇒股間⇒前
「|」⇔‹類像›男性器:=男性器⇒①男⇒棒・②生える
└「一」⇔‹派生›「|」の回転:=一本の棒⇒一つ⇒一⇒一番目
├「二」⇔‹派生›「一×2」:=たくさん⇒二⇒二番目
└「三」⇔‹派生›「一×3」:=たくさん⇒三⇒三番目
2.指事字
指事字とは親字の義に物理的な意味を修飾する記号ですから、親字形をその親字義の指すものの形に見立てて(象形字的に解釈して)、親字形内のそれなりの場所に指標字が付加されています。
実例を示します。
「刀」⇔丿+𠃌=ぶら下がるもの+男性=男がぶら下げるもの:=刀
├「刃」⇔‹指事›刀+丶=刀+その切れる所:=刀の切る所⇒刃
└「刄」⇔‹指事›刀+乀=刀+そのケース:=刀の鞘⇒鞘
「斤」⇔⺁+丁=携帯品+労働者=労働者の携帯品:=斧
└「斥」⇔‹指事›斤+丶=斧+その柄=斧を手にする:=叩き切る⇒斥ける
「フ」⇔‹派生›Vの回転=生み出す所:=生む⇒母性⇒メス
├「了」⇔‹指事›フ+|=生む+下へ=産み落とす:=生み終わる⇒終わる
├「ク」⇔‹指事›ノ+フ=特別な+母性=胎生の動物:=動物
|└「夕」⇔‹指事›ク+丶=動物+その体=体を横にする動物:=寝る⇒夕刻
| ├「然-灬-犬」⇔‹指事›夕+丶=横になる獣+授乳の時:=授乳の雌
| └「多」⇔‹派生›夕×2=横になる獣+多くの=多くの寝る獣⇒多い「𪜊」⇔‹指事›丶+フ=特別な+母性=選ばれた母性:=同類の女
└「之」⇔‹指事›𪜊+乀=同類のもの+ここにいる:=貴方達
指事字には二つの例外があります。第一の例外は、数値「一:=いち」「二:=に」「三:=さん」が特に数値限定として使われる時は物理量を規定するので指標字的な働きです。これ等も広義には指事字を造ると考えることができますが、指事字から除き単なる複合字とします。
第二の例外は、類像字「ノ:=毛」です。
「ノ」⇔‹類像›毛:=毛⇒毛の生えたもの⇒成長したもの
⇒特徴的なもの⇒特別なもの
「ノ」は最終的に物理的形状等を具体的に限定した意味に用いられ指標字「丶⇔点」と等価な働きとなる時があります。そこで「ノ:=毛」の複合字は字形、字義、等から考えて指事字に分類する場合があります。
3.複合字
複合字は二つ以上の異なる義を持つ部首が合成されてできる文字です。 初期の複合字は偏・旁・冠・脚の構成ではなく、部首同士が字画中の各所で互いに結合する例が多く、特に画数の少ない部首では部首の配置の字形から字義を直観的に看取る工夫がされています。言い換えると、派生字義や複合字義が意味する実態の形を連想させるように派生字形や複合字形を合成しています。逆の表現では、派生字義や複合字義の輪郭に合わせて親部首達を回転や逆転させて嵌め込み、あたかも親部首達による隠し絵のように構成する手法で、実はこれが今日象形字と呼ばれる文字達です。
以下に同じ「一:=体」とその複合字「䒑:=前」が他の部首と種々に結合する用例を示します。この中でも特に「羊」「豆」「子」は辞書で象形字と解釈されています。
「一」⇔‹派生›▽の上辺:=女の体⇒体⇒器官
├「䒑」⇔V+一=女の股間+器官=正面の器官:=正面⇒前
|├「羊」⇔䒑+扌=正面+沢山生える=顔が多毛なもの:=羊
|├「益」⇔䒑+八+皿=䒑+分ける+皿=分け皿の前:=益する
|├「並」⇔䒑+业=正面+最高の男達:=並べた男達の前⇒並べる
|├「平」⇔丁+䒑=労働者+前=労働者の体の前面:=平ら
|├「従-彳」⇔䒑+龰=正面+足=先導者の足:=従う
||└「従」⇔彳+(従-彳)=部族間の事+従う:=先導者に従う遠出⇒従う
|├「喜」⇔吉+䒑+口=良い男+前+婦=良い男の前の婦:=喜ぶ
|├「南」⇔(十+冂)+䒑+十=男の体+正面+男:=北面男の正面⇒南
|├「立」⇔亠+䒑=隠す+前=前を隠す:=立ち上がる⇒立つ
|├「豆」⇔𠮛+䒑=女領主+正面=女領主の頭:=丸いもの⇒豆
|└「金」⇔A+十+䒑=合せる+男性器+正面=男性器の正面に合す
| =性交の正常位:=最高のもの⇒金属⇒金
├「子」⇔了+一=産み落とす+体=産み落とした体:=子の体⇒子
├「歹」⇔一+夕=体+横になる動物=横になった体:=死体
├「𠫔」⇔一+ム=体+男児:=男児の体⇒男児
└「武」⇔一+止+弋=体+止める+杭:=杙を止める体⇒鍛錬した体⇒武
複合字では構成する部首の縦画同士や横画同士が融合して一画少ない複合字ができる場合があります。例を示します。
「田」⇔口+十=婦+男=男女の和合:=生む⇒生まれる所
| ⇒①成長の原点、②田圃(「甾:=輪作田圃」の略)
├「由」⇔|∪田=上へ+成長の原点=上への成長:=下から上へ
├「甲」⇔|∪田=下へ+成長の原点=下への成長:=上から下へ⇒甲羅
├「申」⇔|∪田=上下へ+成長の原点=上下に伸びる:=サル
└「母」⇔一∪毋=左右へ+成長の原点=左右に伸びる腹:=妊婦⇒母
次回以降は基本字から生まれる派生字や指事字や複合字を含む基本部首を順に紹介して行きます。
***本「NOTE」の投稿は漢字の解読を社会に開示すると共に、筆者の最新版として保存しようと考えており、新たな解字や解釈の変更により修正や追加を随時継続して行いますのでご了承ください[2024.02.12]。***
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