ねんどの人 3071
大晦日です。
以前にもnoteに書きましたが、私は「ほぼ日手帳」の愛用者です。小さな日記帳。ここに日々の思いの丈をしたためて・・・いるわけでもなく、文字通り「ほぼ日」です。良いことがあった日や気持ちの安定している日は、日記の存在すら忘れています。しかし急に襲ってくる寂寥感やら敗北感やら焦燥感やらといったネガティブな発想に陥りがちな時は、ページが小さな文字でびっしり埋まるのです。他の愛用者の方は逆かもしれませんね。
で、ひと月経つと、ひと月書いた分を破る。これを繰り返しています。
なんで破るのかってそれは、私が急に死んでしまった時に親族に読まれないようにするためです。そのほかにも、そもそもネガティブな内容など自分で二度と読み返したくないからです。だから破る。
来年用の「ほぼ日」と比べると、厚さの違いがお分かりになるでしょうか。
ペンも新調しました。今年のものはクリップが折れてしまったので。
でも12月はもう破りません。一冊まるごと捨てるだけです。念のため何か挟まったりはしてはいないか、ページをペラペラとめくってみました。そしたらなんと、今年の初めに私は目標を立てていたことがわかりました。かなり図々しい目標です。
・温浴施設での粘土展示
・温浴施設での粘土販売
・サ活記事の連載
・インスタフォロワー3000人
実際のページを写真に撮ってお見せしたいところですが、私生活に関することも書いておりましたので控えました。
本当の私に関する(私生活に関しての)目標は何一つ叶いませんでしたが、サウナのサチコの目標は全部叶っている・・・。そのことに驚きました。ただしインスタフォロワー3000人のうち、エロ垢と、1%の人が起業して成功しています垢と、よくわからない外国人の自撮り垢が1000人くらいいますが。
そして今年5回目となった出稼ぎサチコ。最後は埼玉県にある草加健康センターです。昨日(12月30日)から始まりました。
朝10時。
粘土12体、ロッカーキーリング20個、ロウリュウ3姉妹カレンダー10部を抱えていざSKC(草加健康センター)へ。でもまずサウナに入りたいので、大きな荷物はカウンターで預かってもらいました。「担当の者を呼びましょうか」と言ってくださるスタッフの方を制して、「いえ、先にサウナに入ってからご挨拶します」という失礼な私。
朝のSKCの女性サウナ室は相当熱いんです。これは入っておかないといけません。それでもさすがに「常識」や「礼儀」という名の声がどこからか聞こえてくるので、1セットにとどめて身支度をし、カウンターに戻りました。火照った顔で木村副支配人にご挨拶して、ようやく粘土のセッテイングへ。保管してくださっていた荷物には、私のものだと分かるように紙が貼り付けてありました。
面白すぎる。
3071はもちろん、この日の私のロッカーナンバーです。これは大事に取っておこう。
私の粘土ブースはカウンター横。ライトのついた棚まで用意してくださっています。恐縮です。
「ロウリュウ姉妹が、粘土は売れるって推してましたから」という木村副支配人。さらに恐縮する私。モタモタと袋から粘土を取り出し、早速並べてみました。こんな感じ。
貧相
という言葉がぴったりだと思いました。
りんごの入っていた梱包材の中に粘土を入れ、卵のパックの中にロッカーキーリングを転がし、ダンボールに値段を書いたりして。廃材しか使ってない。こうしている間にもお客様が私の後ろに立ち始めました。お目当はもちろん私の貧相な粘土・・・じゃなくて、すぐ隣にあるアクリル湯乃泉看板やペットボトルキャップ、キーホルダーなのです。
「あ、すみません・・・すみません」と自分の荷物を右に左に避けながら、お客様の邪魔にならないようにコソコソ粘土を、ああでもないこうでもないと並べ続けました。もうこれでいいや。最後は雑に終わります。朝から来ていたサフレ二人が、早速粘土を買ってくれました。うぅありがとう。
このまま友達しか買ってくれなかったらどうしよう。始まったばかりだというのに、売れない図しか見えてきません。大した粘土でもないのに「壊れやすいので手を触れないで」だの、偉そうな付箋までつけたことを後悔し始めました。
粘土が入っていた袋を畳み、お借りしていたハサミとマジックをカウンターに返しに行きました。すると女性スタッフの方が私を見て「あ、以前にも粘土を持っていらっしゃいましたよね?」と。
覚えていてくださった・・・。
私は以前、五塔熱子さん粘土を持ってSKCにやって来たことがありました。しかし道中で粘土が破損してしまい、このカウンターでマジックをお借りしたのです。コンビニで買ったアロンアルファ(木工用ボンドは売ってなかった)と、お借りした何色ものマジックでなんとか粘土を補修しましたが、最初の状態にはどうしても戻りません。マジックをお返しするとき、一応こんな風になりましたと粘土をスタッフの方に見せてお礼を申し上げました。「上手ねえ」「器用ねえ」と言われても、それがお世辞だということが誰の目にもわかる出来栄え。でもこの流れで「やっぱり熱子さんに粘土をプレゼントするのやめました」とは言えない。そこで私は、
「この粘土、熱子さんに渡していただけないでしょうか」
と、お願いしてみました。いえ押し付けてみました。「熱子さんはきっと私のこと知らないので」などという言い訳まで付け加えて。本当にずるい人間です。するとスタッフの方は、
「こういうのは自分で渡さなきゃ。私たちからもらうよりずっと熱子さんは喜ぶと思う!」
と、二人がかりで説得してくださいました。そしてその通り、私は熱子さんに直接粘土をお渡しすることができたのです。ボロボロの粘土を熱子さんは、鳥取まで持っていくと言ってくださいました。涙。
思い出話が長くなりましたが、この一連のことを今日まで覚えていてくださったことに私はただただ感激していました。しかも「あの時の粘土の人よねー、そうよねー」と喜んでくださってる。嬉しい。温浴施設で顔を覚えてもらうのって、どうしてこんなに嬉しいんでしょう。
半ば興奮気味のまま私は食事をし、2階のリクライニングに行こうと階段を途中まで上りかけました。すると階段の踊り場から、私のブースや受付カウンターがよく見えることがわかりました。そこでしばらく私は、人の流れを見ていました。スタッフの方が足を止めて粘土を見てくださっている様子や、ちらっと粘土を見て通り過ぎていくお客様。粘土の写真を撮ってくださっている方も。どうせ私の粘土なんかといういつもの頑なな自分が、溶けていくようでした。
もうなんだか売れなくてもいいや。そこにあるだけでいい。
そう思いました。
夕方。傾いた粘土を並べ直していたら、小さな男の子二人が私の粘土を見ていることに気がつきました。さらに「あ。サウナのサチコだよ」と、奥にいるお父さんに言っているじゃありませんか。私は嬉しくなって「サウナのサチコだねえ。私がその、サウナのサチコなの」と言ってみました。一瞬驚いたような顔をしたその子は、そのあと照れたようにモジモジ・・・。かわいいなぁ。なんでこんな小さな子が私のことを知っているのだろうと思ったら、お父さんはツイッターで相互フォローしている方でした。しかもSKCの常連さんです。高倉健の粘土を買いにきてくださったと聞いて、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。健さんの背中には刺青があってハートに矢が刺さってますけど、教育上よろしいんでしょうか。
粘土はたった1日で、10体も売れました。カレンダーも4部。リングも4個。
買ってくださった方の中には、お会いしたことのある方もいたし、お会いしたことのない方もいました。遠方からわざわざ来てくださった方も。初めての草加健康センターに驚かれて、「いつもこんなに混んでいるの?」と聞かれました。そうです。大人気店です。関東のサウナーじゃなくても誰でもその名前を知っているくらいの有名店です。私なんかがふざけた粘土を売れるような所ではありません。でも売っています。
粘土作家でもないし、これを本業にしているわけでもない。私はただの「ねんどの人 3071」です。これが一番しっくりくる。
粘土の前にいるときには分からなかったけれど、踊り場から見下ろして初めて分かりました。私の粘土にはたくさんの人が関わってくださっていることを。快く舞台を用意してくださった木村副支配人、お買い上げくださった方にプチプチで丁寧に粘土を包んでくださるスタッフの皆様。私の粘土を推してくれるロウリュウ3姉妹。SNSに買った粘土をあげてくださる方、SNSをやっていないけれどそっと買って帰ってくださる方、そして私の粘土に足を止めてくださるSKCのお客様。皆様に心より感謝申し上げます。
この記事を読んでくださっているあなたにも、本当に感謝申し上げます。どんな状況で、どんな気持ちでこの記事を読んでくださっているのでしょうか。おそらく私の記事を読んでくださる方に、明るくて前向きなサウナーはいないと思います(失礼)。苦しい一年だった方も、寂しい一年だった方も、階段の踊り場でちょっと立ち止まってみると、違う景色が見えるかもしれないんじゃないかと偉そうに言わせてください。きっと見えないところで支えて、気づかないところであなたを応援し続けてくれている人がいたはず。絶対いるんです。大晦日にひとりぼっちでいても、本当の意味で一人だなんて思わないでください。私も思わない。
今日、12月31日のページには何も書きません。今年の「ほぼ日」はこのまま捨てます。私の気持ちはもう、2022年1月のページを開いていますから。
サウナのサチコ
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