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てくらがり

漢字で書くと「手暗がり」。
自分の手に光が遮られて、手元が暗くなることを言う。子どもの頃、私が勉強しようとするといつも母が「手暗がりだよ」と注意するので、それだけでやる気を削がれた記憶がある。

いま、私の机は部屋の東南の角にある。東と南に窓があるため、机の位置はここしかないと思って決めた。しかしなぜか昼でも机の上が暗い。書く文字が私の手の影になる。「あぁ手暗がりだ」と気がついた。

何年もこの位置で作業してきた。暗いなあと思う時は、昼でもスタンドライトをつけた。夢中になって文章を書き、粘土をこねていた頃は、暗さなどまったくどうでもよかったのだが、何を書こうか、何を作ろうかと考えあぐねるようになってふと、手元が暗いことに気がついたのだ。

6畳の部屋の中で、机の位置をかえるといっても、それほど候補があるわけじゃない。置けるとしたらあとは、反対側の北東の角くらいだ。理論上は今より日当たりが悪いはずなのだが、動かしてみて驚いた。手元どころか、机全体が陽の光に包まれて明るくなったのである。

もしかしてこれまで南と思っていた方向が北だったのではないかと、方位磁石を窓にかざしてみたが、まちがいなくこれまでは南、今は北に机がある。

明るくなった机の上に、いろんな文具を置いてみた。なんだかしっくりこない。文具は種類別に箱に入れて、すべて反対側、南側のカラーボックスに収めた。使うときだけこちらに持ってくることにしよう。大好きなフィギュアたちも、机の前から消して、振り向くと壁一面にぶらさがっている状態にした。

なんにものっていない机と、なんにもない壁をみてようやく落ち着いた。

暗いと思ったらそれは、自分の手が作る影のせいかもしれない。陽の光は誰にも平等のはずなのに、自分だけが暗いと思ったらそれは、自分が作っている不平等かもしれない。

何もない明るい机のうえで、白いノートと白い粘土を置いてみたけれど...。

私はまだ、ウエットシートで机を磨き続けている。

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