文豪ストレイドッグス『太宰を拾った日』感想

黒の時代やBEASTを読んでなんとなく引っ掛かっていた、太宰さんの織田作への思いの強さ。
黒の時代では織田作が死にに行くのを強く引き止め、首領の命令を無視してでも応援部隊を出動させ自分も戦地に赴いていた。
そして、織田作の死に涙した。

BEASTでは、この世界は織田作が唯一小説を書いている世界だからと死にたいための自殺ではなく、織田作の夢が叶う世界を守るためにビルから飛び下りた。

探偵社の太宰さんだったらまだしも、マフィアの太宰治がなぜそこまで織田作に強い感情を持っているのか。
ただのそういう設定だと納得させていたが、『太宰を拾った日』を読んでただの設定ではないと感じた。

ポーカーで初めて負けを経験させてくれた、打算なしで自分の想定を越えてくれた織田作之助。
つまらない日々の中で一番楽しい思いをさせてくれたのが彼だったのかと思う。
そんなところに惹かれ大切な友達だとなるのが、まだ十代半ばという少年らしさを感じさせる。

友達を『喪う』世界より、『失う』世界を選んだ太宰さん。
たとえ織田作が太宰さんのことを友達と思っていなかったとしても、太宰さんにとってはかけがえのない友達だったから。
生きることに価値を感じない死にたがりの太宰さんが
友達には生きていて欲しいと望んだ。

そう思うと黒の時代もBEASTも物語に深みが出る。
黒の時代⇒BEAST⇒太宰を拾った日⇒黒の時代⇒BEAST…と読み返せば読み返すほど太宰さんの抱える苦しさが伝わってくる。

「この酸化する世界の夢から醒めさせてくれ」
黒の時代でミミックの部隊とのファーストコンタクトで銃口を向けられ歓喜する太宰さんの台詞の重みが変わってくると思った。

P.S
あとがきの「人は、自分の感情を動かせるチャンスを見つけたら、喜んでお金を払います。」がたしかにぃと思った。
本当に物語の構成も台詞の言い回しも大好きです、朝霧カフカ先生。

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