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ある日の伊豆スカイライン #5


陽が傾いた尾根沿いの道。
伊豆スカイラインを走っている。

不思議と、色に記憶がない。

不安と緊張が高まると
周りの景色だけでなく
色も見えなくなるんだろうか。


亀石峠の料金所から入り
色のない見覚えもない道を走り

文字通り峠道の十国峠を抜け
丘を越える時、初めて色を見た。

草原のような淡い緑色。

丘はてっぺんにその色をまとい
近づくにつれ
傍は灰色の石がゴロゴロとしていた。



丘を過ぎ、下りながらパァっと視界が開けた。
左手に、砂利だが駐車場がある。

駐車場の先はかすんでいるものの
ふもとの方まで広々とした景色が見えた。


かすんでるけど、いい景色だ。
今度こそ!

と思った時に
バイクが2台停まっているのが見えた。

バイクを見た瞬間
「ここは無理だ」と通り過ぎてしまった。



色んな思いが交叉し
ライダーのいるところに
バイクを停めることができない。


女性だとバレるのがイヤ。
乗っているバイクに対して気恥ずかしさがある。
若くはない容姿が気になる。


自分の心を見通すと、そんなところか。


ヘルメットを取ったら
白髪の女性が颯爽と…
というレベルには、まだ至っていない。

そして、歳を取るということに
自分がまだ慣れていない。


身なりを気にしなくてもよかった
若い頃とは違うと感じ始めている。

と言いながら今も
Tシャツにジーンズなのだけど。


ユニセックスが
歳を取っても通用するのかがわからない。

年配の女性で
そういう人をあまり見たことがない。


女性には見えないような
高齢の女性像がわからない。

だから、戸惑う。
だから、わたしを知らない人と会うのは
とても勇気が要る。


ライダーを見て
とっさに停まれないと思ったのは
心の底をのぞくとそんな理由からだが

通り過ぎるのは一瞬で
下りながら、その先に続く道を見ていた。



白い車がいなくなる。
ここからは一人だ。

陽はさらに傾く。
視界がセピア色になってくる。

いくつか分岐点が現れる。
覚えているようで記憶が曖昧だ。

心もとない。


分岐から合流してきた車が
また次の分岐で曲がっていった。


また一人。
あまりにも周りは静かだ。

傾いた陽射しが時折差す路面。
見覚えのない道が続く。


ここで合っているんだろうか。


不安が募り、路肩にバイクを停め
スマホをのぞく。

GPSはこの道が正しいと言っている。
ホッとしてまたバイクを走らせる。


事故の不安は、迷子の不安にかき消され
心持ちは楽になった気もするが
やはり、周りはあまり見えてこない。

少し、路面の悪くなった道
上りも下りもしない平坦路
直線ではなく緩いカーブ

覚えているのは道のことだけ。
セピア色に包まれた不安なわたし。



青い看板が見えた。

『箱根新道』


この道を探していた。


道が交差する。

看板の指示通りに慌てて曲がる。
知っている道に入った。


ここは違う。芦ノ湖スカイラインだ。


道を間違えた。
Uターンが怖くて、できない。
どんどん先に進んでしまう。


でも今、ここで遠回りはできない。

少し走った先の直線で
何度も何度も前後を見てUターンした。


戻ってもう一ヶ所、道を間違える。

路肩に停まって、後ろを見る。
バスが横を通り過ぎる。

バスの後ろに合流した。
ようやく箱根新道に入った。



その後、バスを抜くことはできず
ふもとにおりるまでずっと
バスの後ろでエンジンブレーキを
使い続けることになる。


あぁ。あの時、道を間違っていなければ。



去年の秋、11月の記憶。

事故の再手術前に、最後に…と走った道。


伊豆スカイライン。
事故なく走り切れてよかった。

今日5回目の事故に遭わないで、よかった。







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