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復帰前日 その2


翌日の定期点検に備えて
久しぶりにバイクを出した。

ガソリンを入れるついでに
郵便局に荷物を出しに行った。


その帰り道。

近くで桜を見るはずが
スピードを上げて坂道を下っている。


速い!

と思ったら、60km/hだった。


去年、早川のセブンに向かう
西湘バイパスで出した最高速。

確か160km/hだったよなぁ。

100km/hも違うって…笑


60km/hで目を白黒させている自分に笑える。
こんなんで、だんだん慣れるんだろうか。


まっ、いっか。


狭い一車線に戻り、車の後ろにつく。
ここは車について走るしかない。

路地からは車。横断歩道には人。
ゆっくり何かを眺めている暇なんてない。

集中力はMAX。
あらゆる事態に備えている。


事故は怖い。
でもパニックブレーキの方がもっと怖い。

車体が傾いている時に
うっかりブレーキを握ると
けっこう簡単に転ぶ。

昔、サーキットで知ったこと。
あれは忘れられない感覚だ。


フロントブレーキをかける時は
車体を立てる。大事なこと。

そうは言っても
路地から車は出てくるし
目の前の右折車も曲がってきそう。


怖い。


でも、体はだんだん思い出してきた。

ハンドルを握る手。
肘の曲がる角度。
肩の力の抜き具合。

座る位置。
膝の当たる場所。
太ももの力の入れ具合。

足首のホールド感。
足裏の力のかけ具合。

目線。
顎の引き具合。


10年乗ってなくたって、また乗れたんだ。
今回はたったの4ヶ月だろ。


心がスーッと冴えてくる。

怖さに気を取られていたら
判断が鈍る。

今は怖がってる場合じゃないんだ。


右折で止まる車をよけ
左車線から抜く。

左に路駐している車から
少し離れて通り過ぎる。


そうこうしているうちに
事故現場に近づいてきた。


復帰するからには御礼参りに行かないと。


事故現場に近づく。
車の後ろに付いていたかったのに
みんな曲がってしまった。


先頭だ。

高架の直線を過ぎ、下り始める。
あの時、この瞬間に
路肩にいたバイクが動き始めた。


少し道が曲がっている。


右に少しずれた道は
思っていたより細く見えた。


こんなに狭かったのか。


あっという間に通り過ぎた。
1秒違えばぶつかることなんてない。

ぶつかる方が確率は低いだろう
Uターンしたバイクとの接触事故。


あの時、ミシッと音が聞こえたのは
バイクのフロントフォークじゃなくて
わたしの肩甲骨だったのか。


笑っちゃうよね。

そう思いながら通り過ぎる。


よくとっさに娘をかばえたなぁ。

自分の判断を自分でほめる。



事故になんか負けない。
何回だって通ってやる。

だって、この道好きだから。


ぶつかった一回の記憶よりも
楽しかった何回もの思い出の方が
いつかきっと心を癒してくれるだろう。


直線を走る。

前をしっかりと見ながら。




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