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バイクツーリング 群馬 榛名 その13


秋、10月。

榛名山へ向かうつづら折れの道を
バイクで走っている。

ここは、昔
子どもが産まれるまで
毎年通った懐かしい道。


秋の榛名山へ向かう道は
色づいた木々に包まれる。

ふもとから上るにつれて
木々の色は様々な色を帯び
道の両側を彩る。


夏の濃い緑から
赤や黄色や茶色のグラデーションへ。

それは
自然が見せてくれる
美しい絵画のようだ。


特に忘れられないのは
10月25日に行った年のこと。

紅葉は盛りを過ぎていて
様々な色の葉が舞っていた。

それはまるで
色づいた結晶のようで

桜吹雪とは違うおもむきで
はらりはらりと
途切れることなく降ってきた。


わたしは
車から身を乗り出すようにして
上空から舞い落ちるものを
じっと見つめていた。


その景色がもう一度見たくて
ここに来た。

忘れられない情景。



あの秋にもう一度、あの道を通りたい。
できれば、バイクで。


それが
わたしの願いだった。



落ち葉舞い散る中
バイクで走り抜ける。


その願いは
今回は叶わないかもしれない。

その思いは
上れば上るほど強くなった。


一週間早かった。
もしかしたらニ週間早いかもしれない。


車の列は
のんびりと夏の色の中
進んでいく。

わたしも
ふもとから変わらない
木々の濃い緑に包まれながら
標高を上げていく。


また来よう。


気持ちを切り替えるのは早かった。


また、来ればいい。


また来る場所ができるのは
生きる張り合いができるってことだから。


車よりも高い目線で
辺りを見渡しながら
木々の緑で疲れた目を潤した。



だいぶ上ってきた頃
突然、前方の車の列が乱れた。

見ると、左に展望台がある。


これだけたくさんの車は抜けないし
ずらせば車の列が切れたところに
入れるかもしれない。

そう思い
わたしも展望台に停まることにした。


端にバイクを停めて
ヘルメットを取る。

眼下をのぞく。

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こんなに上ってきたんだ。


隣の人が「山が白いね。」と話している。
そちらに視線を向けた。

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遠くに、白く雪化粧した山々が見える。


(あれ?
 前回間違えて
 ここの写真を載せてしまったみたい)


ここはかなり上ったところ。
ここまで展望台はない。

そのせいか
車がひっきりなしに出入りしている。

この展望台は急カーブの外側にあり
反対車線の車が無理して入ってくるのが
見ていても怖い。


ゆっくり見ていられなくて
景色の雄大さに浸る余裕もなく

写真だけ撮って
すぐにバイクにまたがった。



進行方向に走り出す。
車の列は途切れなかった。

また、車の後ろを走る。

ゆっくり景色を見られるので
イライラもしない。


あと少し。あと少しで着く。


カーブが緩やかになる。

山の尾根伝いを走るような
道の形状に変わる。

このカーブを曲がって
目の前の景色が開けたら…


来た!ついに!!
ここだ。


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大好きな景色。
大好きな直線の道。


真っ直ぐにずっと下っている。


この爽快な直線が
心躍らせるんだ。

北海道にもあるかもしれない。
いつもそんな想像をする。

でも、この下り具合がいい!



停まる場所がないので
路肩に寄せてバイクを停める。

見たままに切り取れるよう
写真を何枚か撮る。


この感動を写真で伝えるのは難しい。

ただ真っ直ぐな道に
ここまで心掴まれる人は
どれだけいるんだろう。




やっと来られた。


事故の翌週
行こうとしていたんだ。ここに。

季節は一巡りし
一年越しの願いが叶ったんだ。



車が何台も通り過ぎた…はず。

けれど
それに気づかないほど

やっと来られた嬉しさを
バイクで来たかったこの場所に
ようやく来られた喜びを

見えるもの全てに伝えたい!

そんな思いで
ただただ目の前の道を見つめていた。




どうして
道に魅せられてしまうんだろう。




そんなことを思いながら
視線を上に向ける。


雲に圧倒される。

この迫力は何だろう。


圧倒的な存在感で
空にある雲。

それはもはや
浮かんでいるのではなく

終わっていないことを
象徴するかのように
わたしに夏を突きつけていた。








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