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黒文字やにて④

アイスが溶けて底に溜まりだした。聞くのに夢中になって、知らず知らずのうちに手が止まっていたようだ。ワッフルに付けて食べて、白玉を付けて食べてもいいな、としばしパフェを堪能した。ランチを食べ終えた男性客が、また一本たばこを取り出した。また吸うのだろうか、せっかく美味しいパフェを食べているのにたばこの風味になっちゃうではないか。そう思っていたら、男性客が店員を呼び止めて言った。「抹茶パフェをください。」取り出したたばこを箱へしまう。
 美味しい状態で食べなければとアイスが溶けていくパフェに向き合いつつも、ご夫人たちが気になって仕方ない。また、違う話が聞こえてきた。

ハルメク
「宮崎には時々帰るよ。やっぱり田舎って良くなってくるね。いいとこよ、本当に。帰る度に田舎があってよかったなって思うもの。自然もいっぱいあって、食べ物もおいしいしね。孫たちとこの前行ったかな。好きなのよ、うちの子ども達も。あ、孫はね、この前かわいかったわ。父の日に”パパへ。いつも愛してるよ。”ってカード送ったりしてたの。」

アディダス
「え、愛してるって?その年でそんなこと言うの?あらー。子どもが言うとなんかかわいくていいわね。微笑ましいじゃない。」

ハルメク
「そうよ。そんなのが幸せって感じよね。この前もうちの人と話してたのよ。”小さいけど家があって、夫婦二人健康で、美味しい物食べられて、少し楽しいこと、旅行とかして、これ以上の幸せってないわよね。これが幸せよね”って。」

なんだろう、さっきからのこのゆるくもかわいらしい感じは。話しが繋がっているようで違う気がして。だけど、なんか滑らかに繋がっている感じは。当たらずも遠からず話題が進んでいるようにも聞こえ、でも何か急カーブな気もするし。話し方のせいだろうか。それとも、至極当たり前のように、どちらも止めたりせず進んでいるからか。とにかく、ハルメクのご夫人は、幸せを話しの落としどころにする癖があるみたいである。

アディダス
「え?旦那さんがそうおっしゃるの?」

ハルメク
「そうよ。うちは普通に言うわよ。」

アディダス
「あら、いいわね。うちは通夜みたいに黙って何も言わないわよ。寝る時だって背を向けてる。」

ハルメク
「いいのよ、別にそんな。夫婦それぞれ色んな形があるのだから。うちのはおしゃべりなのよ、元から。○○さんは働いてらっしゃるでしょ、素晴らしいじゃない。」

アディダス
「まあ、そうかしらね。」

ハルメク
「何か、娘さんだっけ?岩手とか言ってなかった?良いとこだって。」

話がまた変わった。ちょっとネガティブな感じとか謙遜がでると、どうもすかさずどちらかが肯定してフォローするというリズムが生まれとるようだ。話し変えるのはそういうサインか。

アディダス
「そうなの。娘の夫がね、最近岩手に家を建てたの。東北って私達からしたら未知でしょう。それで遠いし、田舎だし、なんでそんな?、本当にいいの?と何回も確認したんだけど、立地もよくて、こんな良い条件でこの価格はなかなかないですよって言われたらしくて。確かに良かったのよね。それで、資産にもなるしねってことで買ったのよ。」

アディダスのご夫人、息を吹き返したように話し始めた!ハルメクのご夫人のトークテーマ替え、当たり!

ハルメク
「はあ。いいじゃない。良いところなんでしょ?」

アディダス
「そうなの!良いところなのよ。行ってみると、旅に良いところで。なんかね、宮沢賢治が詩を書ける意味が分かるっていうか、そういうような良いところなの。なんか、イギリスに行った時の風景を、彷彿とさせるような、そんな雰囲気があって。今度行くのよ。」

アディダスのご夫人が興奮している。すごく楽しそうだ。ハルメクのご夫人、狙ってかどうか分からんけど、話をさせてあげてる感じがするぞ!

ハルメク
「それは、良かったじゃない。1か月くらい行くとか言ってなかった?」

アディダス
「いえ、2週間。本当は1ヶ月行きたいんだけど(笑)、今回は2週間。ほら、バラが心配だから。長く放って置くとちょっとどうなるか。帰らないと。」

お、ここでバラが出てくるのか。繋がってた、のか?


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