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あの日 あのとき あの場所で(運命と必然と偶然の話)

「あのときのあの出来事が、ここにきてこうなるのか!」
「あのひとは、このためにわたしの前にあらわれたのか!」

と、あとから伏線を一気に回収するような瞬間がだいすきで、それを「伊坂幸太郎メソッド」と呼び、人生におけるとても大きなお楽しみ要素だと思っている。


仕事でも、何年かたってから、全くジャンルのちがう場面で、思わぬ経験が役に立つことがある。


わたしが前職の某チョコレートショップで働いていたとき、仕事の9割が自主的なおせっかいで、社長に役割や仕事を与えられたことがなかったのだけど、先日、ひとつだけ社長に頼まれてやった仕事があったことを思い出した。

それは、バレンタインデーに向けて1年間通してつくるチョコレートを、製造からお客さんの手に渡るまで、全ての商品の製造ロット(いつ、どこで、誰がつくったものか)がわかるようにしたい。という依頼だった。

万が一商品に不備があった場合、ロットを把握してすばやく回収するためのリスク管理が目的だった。

「うん、わかった」と引き受けた。

たとえば、ボンボンショコラという、30種類以上のフレーバーの一粒サイズのチョコレートを、1回の仕込みで1種類 2000粒製造したら、その行き先は、一度まとめて冷凍保管した後、6店舗でそれぞれ単品(バラ売り)販売をする。また、同じ商品を、バレンタインに向けて、4個入りボックス詰め・10個入りボックス詰め・15個入りボックス詰め、にセットアップし、箱に入った状態で保管し、それを全国の80カ所の売り場で販売する。

その際に、製造した2000粒全ての行き先がわかるようにした。

製造からお客さまの手に渡るまでに、その商品に触れるすべてのポイントで、記号と日付でチェックする仕組みをつくった。

製造したとき、店舗に振り分けたとき、受けとったとき、ボックスに詰めたとき、その記号を確認して入力する。

ボックスに詰めて商品化した際に、商品ごとの製造番号が振り分けられ、10個入りならば10種類すべての製造番号が、入れ子式にわかるようにした。

さらに、それがどこの売り場に納品したかわかるように、出荷時にも記号で追えるようにし、売り場での販売ロットまで管理した。

年間で何十万粒もつくるすべての製品を、一粒単位で製造ロットを追えるようにするのに、現場の手間をいかに少なくして(めんどくさいとやらなくなるから)、かつ作業のもれにすぐ気がつくような(入力漏れがあると1年間のデータがムダになるから)仕組みをつくった。

しかも、エクセルだけでひとりでチマチマと。

これが、結果的にリスク管理のためだけではなく、年間の製造数と製造スピードや必要な人数、売り先までが正確にわかり、一目で在庫もわかり、なんだかとてもいいものができちゃったのだ。

わたしは頭が良くないけれど、製造から販売までのすべての仕事に携わったことがあったし、作業の想像ができたので、この仕事ができたのだと思う。

バーコードをつかったロット管理などもできることは知っていたが、費用がかかるし、自分ひとりではできない。

気軽に引き受けて、ひとりでゼロからこの仕組みをつくるのは、宇宙と戦っているようなつらさがあったけれど、「この作業は今までしてきた仕事の集大成だし、今後もきっとどこかでなにかの役に立つはず」と言い聞かせてがんばった。


そして、仕組みができあがって、社内でその説明をする会議の日に、なぜか、どういうわけか、わたしが社会人1年目で働いた会社のS社長が、その会議を見学に来ていた。

その会社で、当時のわたしは相当なヘタレで、とにかくたくさん迷惑をかけ、何ひとついいことがなかったまま身体をこわして辞めたので、数年ぶりに顔を合わせるのも気まずかったし、なんでいるの、と冷や汗をかいた。

会議が終わったとき、S社長は「おまえ、こんなことできたのかよ。うちにいるときはなんだったんだよ。本当に同一人物かよ」とわたしの頭をはたいて笑った。

ああ、これか。

と、その仕事をした意味はここにあったのか、と思った。

あのときの、ダメでなにもできなかった自分を、なかったことにするのではなくて、その先に、ここにつなげるために、この超めんどくさい仕事があったんだな、と。


だいたいのことは、その最中にいると、わからない。


だからこそ面白いのだけど、ただ、すべてのことはとぎれとぎれではなく地続きだな、ということはわかってきた。

ダメダメなことも、なかったことにして消すことはできない。

先につなげるためにできることは、得を期待せずに、目の前のことやひとをよく見て、大事にすることしかないんだと思う。

今日も明日も「あのときのあれ」になるから、「伊坂待ち」で、全力でいくよ。



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