あだち充先生の『みゆき』は想い出の中で生きている

 新型コロナウイルスで自宅待機している学生さん達のためなのか、サンデーうぇぶりで『うえきの法則」』や『らんま2分の1』など一昔前の名作漫画が無料公開されていた。その無料公開中の作品の中にあだち充先生の『みゆき』も公開されていた。

 あだち充先生といえば『タッチ』『H2』『クロスゲーム』『MIX』などなど数多くのヒット作を生み出してきた。その中で『みゆき』は初期の部類に属しており、主人公「若松真人」と妹の「若松みゆき」、そして真人の同級生の「鹿島みゆき」の三者が絡むラブコメディになる。WIKIによるとやはり『みゆき』も大ヒットしたようで小学館漫画賞を受賞したほか、テレビアニメ化、テレビドラマ化、映画化もされたようである。筆者はあだち充作品のファンであり、さっそく無料公開中の『みゆき』を読んでみた。

 絵柄が好みだからなのか、昭和50年代の作品であるにもかかわらず古臭さは全く感じさせない。個人的には、ダブルヒロインの鹿島みゆきと若松みゆきのどちらも主人公に一途であり、打てば響くというか、真人のお願いをなんでも聞いてくれそうな信頼感があるところがグッとくるところである。

 もっとも、登場人物はこの三者だけでなく、むしろ『みゆき』の魅力を高めているのはその他の登場人物にあるといえるかもしれない。特に、「若松みゆき」に惚れている同級生の「間崎竜一」、教師の「中田虎夫」、そして刑事の「鹿島安次郎」はインパクトが強かった。

 間崎竜一は妹のみゆきの同級生といっても高校浪人・留年をしているので、年齢は真人の1つ上で髭にリーゼントという高校生らしからぬ風貌である。この間崎竜一と教師の中田虎夫が若松みゆきを巡ってライバル関係にあり、さらに刑事の鹿島安次郎(鹿島みゆきの父親でもある。)がこれに加わるので事態はさらに錯綜する‥‥ように思える。

 1人の女子生徒を巡って生徒と教師、さらには地元の刑事かつ主人公の交際相手の父親もこれを争うという構図であり、冷静に考えるととんでもなくカオスな状況である。ある者は若松みゆきのため留年し、またある者はお見合いが破断になり、ある者は妻子がいながら娘の同級生にちょっかいをかけているなど、仮にこれが昼ドラだったならば抜き差しならないもめ事に発展し、場合によっては殺傷沙汰が生じていてもおかしくない。しかし、そこはあだち充先生の『みゆき』であるため、そこまで深刻になることもなく笑って過ごしていくのである。

 そんな『みゆき』の登場人物であるが、作品終盤になるとある人物の行動により真人と妹のみゆきの関係が大きく影響を受けシリアス展開となる。周囲の目も気にせず大声で電話をするなど真人の行動にも余裕がなくなる。そうして迎えたラストはヒロインの1人にとって辛い結末であるが、トラウマでひきこもったりすることはなく、傷心旅行に出かけ、そこで新たな出発をすることが示唆されている。ここで作品内ではH2Oの『想い出がいっぱい』が流れるのであるが、同じ曲でも一方のヒロインは真人との関係を過去のものにしつつ、もう一方のヒロインは過去の想い出がそのまま現在に続いていくようで対照的なラストである。

 最終回には間崎竜一、中田虎夫、鹿島安次郎も登場するが、やはり感情を爆発させたりすることはない。なんだかんだいってみな大人なのである。ただ、一方で、登場人物たちが錯乱するどろどろ青春白書的な『みゆき』もほんの少しだけ見てみたいと思うのであった。

 

 


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