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バトンリレー企画〜心に残るあのエピソード〜「友の朝顔」

この度、企画に参加させていただきました。
思いもよらぬ誘いでしたので、少し戸惑いながらも、書きたいこともあり参加させていただきました。

素敵な企画のバトンを渡してくださったのは、alohaさん。とても豊かな感性で、エッセイ、俳句を作っておられます。特に俳句では、僕の俳句道の先輩としていつもお世話になっています。

それでは、僕の話を少し。



「僕は花の中で、朝顔が一番好きだな」
そう言って、6年生のクラス全員が育てている朝顔のひとつひとつに水をやることを日課にしていた友がいた。

「しぶちゃん」
と呼んでいた。
しぶちゃんは足が速くて、運動神経抜群だった。勉強はちょっと苦手で、特に算数で四苦八苦するしぶちゃんは愛嬌に溢れていて、クラスの人気者で、学校中のアニキだった。

夏休みが、終わろうとしていた時だった。
「僕、引っ越すんだって」
プールで遊んでいると、しぶちゃんがぽつりと呟いた。そして、
「2学期からは東京に行くんだ。手術を受けるんだって」
さらに小さい声で、言った。

しぶちゃんは、心臓が悪かったらしい。とは、あとで親に聞いた。

僕は驚がくして、
「朝顔はどうするの?」
と聞いた。もっと聞くことはあったのに、小さな村の、小さな学校の大切な友人が、いきなり転校するなんて聞くと、何も考えられなかった。

「あゆちゃんにあげるよ」
しぶちゃんは、そう言って、プールから上がった後に、袋を渡してきた。中には朝顔の種が入っていた。
しぶちゃんは種を渡すとき、顔をくしゃくしゃにして泣くのを我慢しながら
「家で大きな鉢に2つ作ってるんだ。そこから取った種だから、僕の代わりに大切に育てて」
と言った。

僕は、うつむきながら頷き、受け取ることしか出来なかった。

それから、ほどなくして、クラスでしぶちゃんのお別れ会をした。みんなでケーキを作って食べて、SMAPの世界に一つだけの花を歌って、しぶちゃんとさよならをした。しぶちゃんは嬉しそうにケーキを頬張りながら、
「必ず帰ってくるけん、待ってて。次会う時はめっちゃデカくなって、頭も良くなってるから」
しぶちゃんは、とびきりの笑顔だった。

あれから20年が、経った。
しぶちゃんとはいまだに会えていない。手術は成功した、と6年生の終わりに先生は言っていた。僕たちは、すぐに帰ってくるものだと思っていた。親同士も携帯の連絡先は知らなかったから、追えなかった。

僕は、しぶちゃんの大好きだった朝顔を受け継いだ。あれから毎年、しぶちゃん家にあったような大きな鉢で大切に育て、開花を楽しんでいる。

今年もよく、咲いた。

「しぶちゃん。今年も咲いたよ。早く見に来いよ。お前が育ててた朝顔だぞ。なぁ、綺麗だろ、一番好きなんだろ」
僕と朝顔は、今年も主人の帰りを待っている。

拙いエッセイ、最後まで読んでいただきありがとうございました。少しでも読んでいただけた方と心を通わせられたら嬉しいです。

さて、次バトンをお願いしたいのはもつにこみさんです!
もつにこみさんは平熱のエッセイストとして毎日、等身大の飾らないエッセイを書き続けておられます。それらを読ませていただくだけでも、満足なのですが、今回はもつにこみさんの心に残っているエピソードを読んでみたいのです!
何卒よろしくお願いします。


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