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SAAI会員紹介 第10弾 石田淡朗 氏

今回の「SAAI会員紹介」では、石田淡朗さんにお話を伺いました。


プロフィール

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石田淡朗(いしだ・たんろう)
1987年東京都生まれ。狂言師である父・石田幸雄氏と野村万作氏に師事し、3歳から能・狂言の舞台に立つ。国立能楽堂、歌舞伎座をはじめとする全国各地の劇場および、ニューヨーク・カーネギーホール、ロンドン・グローブ座などの海外公演にも参加。2003年、15歳で単身演劇修行のため渡英。エジンバラ演劇祭で一人芝居を公演し5つ星の劇評を受ける。その後、ギルドホール音楽演劇学校演劇学科を日本人として初めて卒業。在学中に、自身の劇団The Leaf Theatre / The Improsariosを設立。LAの映画制作会社Tessellate役員。主な映画出演作に『レイルウェイ―運命の旅路』。
2018年より再び人間国宝・野村万作氏、及び野村萬斎氏に師事し、国内外の狂言公演に参加。能楽協会会員。


コロナ禍で進化する狂言
~メタバースに通ずる想像力~

ーー 演劇や狂言など様々な分野でご活躍されていらっしゃいますが、現在はどのような形で活動されていますか?

 今は狂言のみにしていますが、四年間の狂言の修行を終え、そろそろ違うお仕事も再開しなくては、という転換期にいます。



ーー 狂言に集中すると決められたのは、新型コロナウイルスにより海外公演が簡単にできなくなってしまったからですか?

 実はコロナ流行の前から日本に戻ってきていました。「コロナ禍の狂言」という意味では、公演数がいったんすごく減りました。それでもまた昨年末頃からは公演していますし、中断していた分のしわ寄せのような意味で現在は公演数も増えています。また、コロナ禍で公演ができないときに「オンラインでどういった狂言の配信をやっていこうか」という話が挙がり、野村萬斎の「ござる乃座」というYoutubeチャンネルでは、すべて私が撮影・編集をしました。



ーー
 野村萬斎さんとは公演でもご一緒されていますが、Youtubeチャンネルでもご一緒なんですね。

 そうです。また360°動画に興味があるという話になり、NTT西日本さんと協力して「狂言DX」の推進という企画も手伝っていました。

※狂言DXとは 
「狂言・能公演に出演するグループ「万作の会」を、NTT西日本グループがICTでサポートし、日本特有の伝統芸能である「狂言」の普及・伝承そして活用をめざすプロジェクト」(原文ママ)。普及の面では、マルチアングルVR映像での鑑賞体験を、活用の面では、ICTでの解説や演出による教育現場での活用・分身ロボットを利用した体験ワークショップを、伝承の面では、狂言の演目を劣化の少ないデジタルでのアーカイブ化などを行っている。
(参照:https://www.ntt-west.co.jp/brand/newnormal/kyogen_dx/)


ーー 狂言DX推進について、話にあがったきっかけは何でしたか? またコロナ禍により、メタバース含む様々な技術の進歩で世の中が急激にDX化されていると感じますが、狂言は今後どのような形で関わるとお考えでしょうか?

 メタバースはぜひやりたいですね。やりたいと思ったきっかけはいろいろありますが、結局「狂言」は自分の想像力をすごく豊かにして観ないと楽しめない演劇なんです。逆の言い方をすれば、自分の想像力でいろんな情景、周りの物語やバックグラウンドなどを補って豊かにすることでどんどん楽しめるというものなので、その感覚は恐らくメタバースに沿うのではと思っています。
実は狂言で表現しているものは現実社会で目に見えるものだけじゃないんです。もっとファンタスティックな世界のものもあるので、その世界とメタバースが融合したら何か面白いことができるのではと漠然と考えています。


ーー では現在最も熱量を注いでいることは、Youtubeでの発信を通して現代の若者にも狂言を拡散していく活動でしょうか?

 最も熱量を注いでると言うと語弊がありますが、そういったことも大事だと思っています。狂言を観にいらっしゃる方は、金銭的・時間的制限もある若者よりも、年配の方が多いです。でも実は学生さんはチケットがすごく安く取れるし、比較的時間があると思うので、狂言を観に行こうと思えばふっと行けると思います。一方でバリバリ働いている、僕ら世代の方々は仕事があり時間的制限も多く、あまり狂言や能に気軽に行ける状況ではないと思います。そこでその問題を解決するとっかかりとしての、オンライン公演はありだと思っています。


さまざまな仮面を持つ役者としての社会貢献

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ーー SAAIの活動としては、文化として基盤のある大丸有という、幅広く教養を持たれている方がいらっしゃるエリアの文化を広げていくというところがあると思いますが、今後「大丸有」で何を一番されたいですか?また何が必要だと思いますか?

 現在は狂言をしていますが、私はもともと芝居をしていた人間です。演劇、狂言、ロンドンでは映画制作、脚本やプロデュース、そうすると映画や芝居は、ファンがつきにくくなかなか経営的に難しいんです。このままいくと、演劇業界などは滅びるかもしれないと思いますし、映画業界もNetflixなどがあると厳しい面もあるのではと思います。では「どうやって役者が生き抜いていくか」と考えたときに、演劇以外の企業の人たちとどこまでコラボできるか、企業的価値観にどこまで入っていけるか、といったところが重要だと思っています。


ーー 演劇以外でのコラボとは、具体的にはどういったことでしょうか?

 たとえば、役者は訓練を積んでいるので、人前できちんと説得力のあるように話すことができる人たちなんです。それは、脚本があればハッタリでももっともらしく言うことができる、ということです。そして、その技術はおそらく普通の会社員の人たちにもあったら得をする技術だと思うんです。会社のプレゼンでその技術があったらすごく得するじゃないですか。だから、そういったときに「役者からこれを学んでみたい」と思ってもらえるような社会ができたら面白いんじゃないかなとちょっと思っています。



ーー 狂言のプレイヤーを増やすということですか?

 別の言い方をすると、ひとつの目標には福利厚生としての演劇や狂言が入ってきたらいいなと思っています。イギリスの役者は、長時間かけていろんな役になるための訓練を受けるんです。自分というものを持ちつつ、その役にもなりきるというのが非常に重要なポイントなんですが、そうすると、自分自身で「どれが演じている自分か」というのが瞬時にわかるようになるんです。
 現代のみなさんも最近はあちらこちらで演じていますよね。家庭、会社、友達の前の自分とはみんな違う。特に会社での自分が大変だと、精神病や鬱病につながることもあるわけですね。そこで、「これは本当の自分ではなく、会社のための顔」といったことを少しでも意識して区別がつくようになったら良いのでは、と思います。そういったことにも役者の訓練は活用できるので、活用方法に僕はすごく興味を持っています。文化的であってほしいプラス、文化をどういう風に自分たちの生活に取り込んでいくかといったところのお手伝いが出来たら面白いと思います。



ーー なぜそういった役者の性質に着眼されたのですか?

 イギリスでは、役者の社会的な立ち位置がちょっと特殊なんです。「何か大変なことがあったら役者に相談するのが良い」ということをよく言われています。なぜかというと、役者はそれを毎晩ちゃんと経験して、また立ち直っている人たちだから。
「大変」というのはたとえば父親を亡くしたり、大失恋をしたり、人生最大の敵みたいなことがあったときです。



ーー 役者が毎晩経験して立ち直る、とはどういうことですか?

 演劇になるストーリーって、みんな大変なストーリーですよね。人生で一回か二回程度しか経験しないような場面を、役作りとして役者は毎晩毎晩経験しているわけです。そこは価値のあることだと思います。だからこそ、そこに社会的に貢献できるヒントがあるんじゃないかなっていう気はすごいしています。



ーー 役者の皆さま全体としては、すでにそういった方向を向いているんですか?

 鋭いこと言いますね。そこが正直難しいところなんです。イギリスの役者はだいたい3年間通して、きちんとそういう訓練を受ける役者がほとんどなので、そういう感覚は一応出来ていると思います。一方で日本の場合、役者の誕生の仕方がちょっと違うのでどうなのかなというところは正直ありますが、そういう感覚を持っている人も多いとは思いますが、まだまだ困難な道のりですね。

※「仕事の仮面」の記事https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO2843262022032018000000?channel=DF220320




人から始まるロンドンのクラブと、
コミュニティスペースSAAI

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ーー SAAIに関わるにあたって、どのようなところに共感していただけたのでしょうか?

 僕はロンドンに15年間住んでいたのですが、ロンドンにはSAAIのような空間が結構あるんですよ。「ジェントルマンズクラブ」と言われています。ジェントルマンとありますが、女性も普通に入ります。だいたい早朝から深夜まで空いていて、業界ごとに分かれて人が集う会員制のクラブです。たとえば、役者が多いクラブ、映画関係者が多いクラブと演劇関係者が多いクラブというように。
 またパソコンで仕事できるスペースやカフェがあり、小腹が空いたら食事も出してくれます。仕事に煮詰まったり、少し落ち着いたりすれば、お酒を飲みながら仕事もできる。仕事が終わると、顔馴染みと一緒にお酒を飲みはじめてパーティーになる、という毎日入り浸って良いようなクラブがロンドンには多いです。



ーー そのクラブは昔からありましたか?

 昔からですね。僕は会員だったので、毎日通っていました。当時脚本を書いていたこともあり、長いときは丸一日過ごしていました。朝はコーヒーを頼んでクロワッサンを食べながらメールや脚本をチェックしたり、稽古をする。お昼にはちょっと環境を変えようと出かけて、16時ぐらいになったらそろそろいいかなと戻ってビールを飲んだり。ミーティングでは、「このクラブに来てください」と伝えて来てもらったり。そういう風に使う空間です。そしてSAAIはそのような雰囲気にすごく似ていると思います。



ーー それほど長く滞在したくなるということは、ロンドンのクラブには居心地がいい何かがあったのでしょうか。

 まず内装が重要ですよね。SAAIはすごく内装が恰好良く、変化に富んでいていいですよね。あと、毎日行っていると知り合いができるわけですよ。しょっちゅう見る人たちが出てきて、「君何してるの?」という話になる。そこから、新しい仕事が生まれるかもしれないし、生まれないかもしれない、という緩いスタートが切れる。ロンドンの感覚だとそれがすごく大事だと感じます。
 何か事業をやってみようというときに、ヨーロッパ的感覚であれば「君ちょっと面白いね!何か一緒にやってみたいね」から始まり、「じゃあこれをやってみようか」の次に「予算どうする?」という順番が一般的です。アメリカもそちらに近いと思いますが、日本はまず予算ということが多い気がします。私にとって「まずは人」という環境に慣れていたので、SAAIであればそれができそうなところが面白いと思います。



ーー 現在日本でもコワーキングスペースが増えていますが、ロンドンと似た「人から始まるコミュニケーションやビジネス」は根付くと思いますか?

 ありえると思います。ただ一番の問題は、日本は多くが年間予算の組み立て方がすでにしっかりしているところ。そういうやり方をイギリスはあまりしないので、日本だとその習慣が変わらないと難しそうだとは思います。逆に予算組みの問題をクリアして、人と人との出会いにより「まずはやってみよう」といった感覚が養われたら面白そうだと思います。
そのような意味でコワーキングスペースは、ロンドンのクラブのイメージと少し違いますが、SAAIはそちらに近いと思っています。
 恐らく「Bar変態」が一番その違いを左右する重要なポイントなんです。Barによってオンとオフが同居する空間になるじゃないですか。コワーキングスペースはどちらかと言えば、オンになるための空間。自分の家では仕事ができないから、そこで仕事モードになる。でもSAAIの場合、ふらっと夜飲みに来る人や、昼間も営業の合間にちょっと寄る人がいたりコワーキングと言うよりコミュニティースペースである、そこが魅力だと思います。



ーー オンとオフの切り替えのオフになれる要素は、「Bar変態」以外にもありますか?

 もちろんあります。空間が分かれているでしょう?お座敷、テーブルや炊飯器の照明があったり。空間がそれぞれ違うのは大事だと思いますし、ちゃんと気分を変えやすい設計になっていますよね。煮詰まったから、気分を変えてこっちでやってみようみたいなことができる空間は、すごく大事だと思います。僕が行ってたロンドンのクラブもルーフトップバーがあり、それが好きで通っていました。ちょっと気分を変えるのに青空がちゃんと見えるのはすごくよかったです。そういった意味で、オンとオフに限らず、気分を変えるための仕掛けがSAAIにはたくさんあると感じています。



ーー SAAIはインスピレーションのきっかけになりましたか?

 ロンドンを思い出す落ちついた空間ではありますが、インスピレーションはまだ経験していないです。ただ、有楽町駅前のすごく便利なところにあって、長時間空いているところはすごく大事だと思います。あと、僕がSAAIに関わることになった大きな理由のひとつは、大丸有に文化をもう少し持ち込むという点で、お手伝いをしたいと思ったことです。
 文化というと横行ですが、仕事のできる方は文化を大切にできる方が多いですよね。趣味を持っていて、未来のことをちゃんと考えていて理解していたりとか絵も分かったり。遊びも仕事も大事にしているでしょう。文化を知るということは、自分の伸びしろを広げてくれるのでそういった意味でもSAAIを「文化も教養として知っているビジネスパーソンになること」を後押しできるような施設にしていきたいなと、作り手のみなさんは考えてると思うんです。大丸有には、すでに宝塚や東宝などの文化的要素は十二分にあるので、しっかり文化的なことに親しむことができる空間にして行きたいと思っています。

※1927年発表の高浜虚子著『丸の内』より
「...丸ビルのルーフなどは広大な場所が空しく空いている。そこに能舞台を作って、俳句会と同様の時間位で能楽を催すという事は、事務所のひけ後(※)、夕飯までの時間を利用する一つの娯楽機関となるであろう。...今こんなことをいうと一つの空想談のように聞こえるが、必ずしも空想談ではあるまいと思う。... 遠からずこの三菱村のどの建物にも必ず存在する事になるかも知れぬ。...時の流れは不思議なものをも不思議で無くしてしまう。丸ビルのルーフに能舞台が出来たところでやがては少しも突飛なことでなくなる。」

※引け後 (ひけあと)
取引所での立会が終わった後のこと。



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【SAAI HP】 https://yurakucho-saai.com/

記事執筆者:上野七生(うえのななみ)

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