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SAAIの会員紹介 第7弾

今回の「SAAIの会員紹介」では、深井厚志氏にインタビューを行いました。

プロフィール

深井 厚志 (ふかい・あつし) 氏
編集者・コンサルタント/一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパン/株式会社井上ビジネスコンサルタンツ
1985年生まれ。英国立レディング大学美術史&建築史学科卒業。美術専門誌『月刊ギャラリー』、『美術手帖』編集部、公益財団法人現代芸術振興財団を経て、現在は株式会社井上ビジネスコンサルタンツに所属し、アート関連のコンサルティングに従事。産官学×文化芸術のプラットフォーム、一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパンでの活動ほか、アートと社会経済をつなぐ仕事を手がける。コロナ禍に立ち上がったアーティストのネットワークart for allや、都市を写真と映像表現で切り取るアーティスト・コレクティブTokyo Photographic Researchにも運営メンバーとして参加する。




アートの仕事に携わる中で抱く意思

--これまでのキャリアについて教えてください。

大学卒業後、7年ほどアート雑誌の編集者として働いていました。
アート雑誌の編集者はアートと読者をつなげる仕事なので、編集者として情報を整理してアーティストや作品と、アートに興味を持つ人たちをどうつなげるかを考える仕事です。しかし、そんな中で出版不況にぶつかりました。紙離れの影響もあって当時在籍していた会社は倒産し、民事再生が始まりました。それがきっかけで、紙という媒体から卒業してもう少しアクチュアルな仕事をしたいと考えるようになりました。自分自身、紙で伝えていくということに限界を感じてることはあって。例えばスマートフォン等のデバイスなら、読み手のレスポンスがはっきり返ってくるんですよね。

何人がどの記事を読んでいて、何秒で離脱してなどの諸々のデータを取ることができます。それと比べて紙の場合、何部売れたかというデータしか残りません。自分が発信している情報や読者に知ってほしいと思うことがどう受け止められているかが見えないんです。そこで、ハンズオンで読者とのやりとりを実感できる仕事をしたいと思うようになり、自分が扱うアートのコンテンツと、それを伝える先である読者やアートの市場の双方向を行き来できる仕事を求めていました。


--そこからはどのような仕事に携わったのでしょうか。

まずは現代芸術振興財団へ転職して、展覧会やアーティスト向けのアワード等の企画に携わりました。その場にはリアルな作品があって人が実際に来るという、いわゆる現場の仕事です。そこで数年働く中で、もう少しアートに関わる日本の社会の構造そのものにコミットしたいと思うようになって、そこから現在の井上ビジネスコンサルタンツとカルチャー・ビジョン・ジャパン(CVJ)の二足のわらじで仕事を始めました。

アートの世界には、アーティストもアートが好きな人も多く存在します。しかし文化芸術の社会的な構造自体は、昔のままを引きずっている状態です。そこに少し手を加えるだけで、アーティストもより良い環境で仕事ができて、日本の社会も文化的に豊かになることは多くあります。そうわかっていても、やはりその構造を変えようと動く人は少ないです。
これまでを通じて媒体の変化はありますが、私がやってきたことは一貫しています。私は仕事をする中で、アートをいかに伝えるのか、そしてアートを取り巻く環境をどうやって向上していくのかを考えてきました。


仕事をしていく中で実現させようとする
アートのあり方

--現在のお仕事について詳しく聞かせてください。

CVJ(一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパン)では産官学×文化芸術の共創のプラットフォームを作ることを目指しています。日本では文化芸術に関わるものは縦割り的な社会となっているんですよね。文化芸術の視点で見ると、日本では産官学の三者の連携が滞っています。これが日本の文化芸術の発展を遅らせているひとつの要因なのではないかと思うんです。文化芸術だけが良くなっていくのではなく、文化芸術に関わる産業の発展や、行政から見た文化芸術とアカデミックな意味でのアートが深まる必要もあります。そうやってwin-winな関係を作ることで日本の文化芸術が豊かになっていけばいいと思います。
私は事務局のメンバーとして働いていますが、本当になんでもやりますよ。パーティーの際には誘導係やロビイング、プロジェクトの立ち上げも何度も行いましたし、トークイベントもやまほど参加しました。文化芸術に関わっていて、かつ公益性を持つものであればどんなことでも汗をかくという感じですね。

アカデミックにも産業でも行政の論理でも、それぞれ文化芸術を突き詰めている人がいます。そのバラバラとなったもの同士をつなぐことが私たちの役目のようなものだと思っています。井上ビジネスコンサルタンツの事業は、主にM&Aや事業再生が中心ですが、文化芸術の相談が多く寄せられるようになったためにそれに対応するために私自身の経験を活かすことはできないかと、アート関連のプロジェクトをメインでさせていただいています。本当になんでも屋なので展覧会のプロデュースやアートの構造に関わる仕事もします。その中でも一番大きいものは三菱地所さんとの有楽町再開発に関わるお仕事です。有楽町を再構築していく上でアートが大きな軸となっていくということで、その戦略づくりやアドバイスなどをしてお手伝いさせていただいております。

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--深井さんにとってアートとはどんなものなのでしょうか。

この質問には色んな答えがあるし、私の中でも多くの答えをもっています。前提として、アートは一つのジャンルであると捉えることができますよね。よくモノとして考えた時に引き合いに出されるのが車です。例えば、100万円の車であればリーズナブルだと感じるかもしれないし、500万円の車であれば高級車だと感じる人が多い。時計だったりジュエリーだったり、ファンションも同じようなことが言えると思うんですけど、そういう話題にアートは出てきにくいんです。会社員が「ちょっとボーナスが出たから作品を買ったんだ」ってあまりならないですよね。ですが、アートも価格帯としては同じですし、当然のように生活にあって良いはずのものです。そういう意味でモノとしてのアートは、服や車などと何ら変わらない生活を豊かにするものと言えると考えています。
しかし、特に戦後からはアートが置き去りになっているように感じます。高度経済成長期の資本主義社会の中で、大量生産がしにくく、かつクオリティコントロールの難しい一点物のアートはあまり適さなかったようです。仕事をしていく中でも、そのアートの素晴らしさを再認識してもらいたいと思うようになりました。自分自身、アートは特別なものとしては思っていないので、気に入ったものがあれば気負わずに手にして欲しいですね。
また現代アートと言うと、例えば展覧会でよく「わからないです」と言われてしまうんですね。そうじゃなくても少し苦手という人や解説が欲しい人がいたりと、アートに対して敷居の高さを感じている人は多いです。正直、自分もアートの正しい読み方なんてわかりません。しかし、そもそもアートには無数の読み方が存在して、形も決まっていないのです。作者も必ず最初から決まった意味をもって作品を作っているぶわけではありませんし、ある日突然社会の状況が変わった時に読み方が変わる作品もあります。そういう意味では、アートは意味不明ともいえますが、その分無限大の可能性を持っているとも思います。アンビバレントなことを言いますが、だからこそ、アートが長い歴史の中でずっと特別な地位を持ち続けてきたんだと思います。
最近よく思うことが、アーティストが持っている視点を社会に実装していくことで社会の見方や深さが変わるんじゃないかと思うんです。アートに触れていく内に、自分の視野が少しずつ変わっていきます。それによって、例えばこれまで通っていた道路の見え方が変わって、なぜこの道路を真っ直ぐ歩かなければいけないのか、なんて疑問が生まれるかもしれません。そうしてそこに新しい獣道が生まれたりするかもしれません。
こういった作用はアートのある種の役割だと思います。合理的で最適化され尽くされた社会の一つの到達点を迎えていて、それがコロナ禍で揺り動かされてすべての前提が壊れそうになっています。

現代社会の行き詰まりの中で、アート作品そのものより、アートから学ぶことができる見方が処世術のように社会に浸透していくことでこの状況を切り抜けるんじゃないかと思っています。アートはこういった多面的な要素を持つものだと考えています。


アートと社会の関係性

--アートと街、ビジネスとの関係性はどのようにお考えですか。

三菱地所さんと有楽町再開発の仕事に携わる中で、一つの方向性が見えてきました。それはアーティストに学べることがまだまだあるのではないか、ということです。有楽町を再構築していく中で、美術館やギャラリーがあることは一つの形かもしれません。しかし、必ずしもそうする必要はないと思っています。例えば、仕事の合間に休憩で入ったカフェに、隣の席でアーティストが打ち合わせをしているとしましょう。そこで横から、ビジネスの世界とは全く違うジャンルである、アーティスト独特の考え方や発想が聞こえてきますよね。それによって発想が思いっきり変わることがあるかもしれない。この作用が大きいんじゃないかと思うんです。
比喩として言うのであれば、この街に血管みたいなものが張り巡らされているとして、その血管の中にアーティストを送り込む。そうすると今あるものを変えなくてもすべてがいきいきとしてくる。今まで価値がないと思われていたものが価値を持ち始めると思います。皆が今まで当然のように「良い」と考えてきた世界に、その価値観を揺り動かす人が入り込むだけで良いんです。アーティストは、既存の価値観に縛られずに自分の価値観で生きている人が多いです。その姿から刺激を受けて触発される、ということは大いに有り得ると思います。これを文章にすると「アートで街がいきいきとします」と表現されがちですが、これはあくまで行き着いた結果なんですね。例えばビジネスマンがプロジェクトを展開しているとして、それをアートに取って代えようとは思わない。あくまでビジネスが前提であることが当然で、その開発のプロセスの中で寄り道を増やして欲しいんです。
全く違う視点でもう一度同じプランを考え直してみたりすると、それ以降のプロジェクトの終着点は同じにしか見えないかもしれませんが、それが集合すれば毎日何万というビジネスが生まれているこの街のアウトプットは大きく変わりうると思います。

それが、街が現代社会に持ちうる大きなダイナミズムだと考えます。均一化された世界観でこの街のダイナミズムを使っても予定調和しか生まれません。もっと異分子が入り込むことで、水の波紋のようにその思考が影響を及ぼして、とても大きなインパクトが生まれるんじゃないかと思います。

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--アートを通じて何かこの社会に伝えたいメッセージはございますか。

私はどちらかというと裏方の仕事をしているので、自分が伝えたいメッセージというものはありません。それよりもアーティストたちが伝えようとしているメッセージに耳を傾けて欲しいです。アーティストは、必ずしも遠い世界の変わった人というわけでありません。アートがもっと自然で、身近なところに存在してくれるだけで良いと思います。多様性が最初から認められている世界がアートだと思います。そこに目を向けてくれるだけで、普段ではなかなか出会わない発想や価値観に触れることができると思います。
今までアートに触れたことがない人ほど、アートに触れたときに得られるものは大きく、その後に生み出してくれるインパクトも大きいはずです。最近、アートとビジネスを積極的に繋げようとする動きがあります。ビジネスパーソンこそ既に社会における実践的なスキルを本業で身につけており、アートに触れた時に社会的影響力を出しやすいと考えています。そこにアートのエッセンスを加えてあげれば、もっと大きなものを生み出すことができるかもしれません。


SAAIで感じる多様な繋がり

--SAAIを実際に利用されて感じたことを教えてください。

SAAIには新しいことをやりたいという人が多く集まっていますね。もっと良くしよう、新たなものにチャレンジしよう、という空気がSAAIには溢れています。私はアートという立場からここに入っていますが、ここにあるものや周囲の人が携わっているプロジェクトを片隅からみていて単純に楽しい場所です。多様な接点があって、多くの人が色んなことを色んなところで取り組んでいます。それらが緩やかに繋がりを持っています。アートは一つの媒体でしかないので、アート以外のどんなものでもそのテーマになりうるし、接続することが可能だと思います。それらと関われる場所で働かせもらっているということは自分にとっては凄く新鮮です。
アートに限らず、SAAIという特殊な場所がこの有楽町に入り込むからこそ生まれるものは大きいと考えます。私はそれを見ていたいと思うし、それにご協力したいと思っています。いつかもっとアートとのコラボレーションが生まれたら良いですね。




記事執筆者:記事執筆者:吉村龍二(よしむらりゅうじ)

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