SAAI会員紹介 第9弾
今回の「SAAI会員紹介」では、新色顕一郎さんにお話を伺いました。
プロフィール
新色 顕一郎(にいろ・けんいちろう)
クレジットエンジン株式会社 取締役COO
三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)に入社し、中小・大企業向け融資営業、ストラクチャードファイナンス、営業企画業務等に従事。その後、London Business SchoolにてMBA取得。卒業後、戦略コンサルティングファームのBain and Companyに参画し、製造業を中心とした全社戦略立案を支援。2020年クレジットエンジン入社、事業開発及びファイナンス業務等を担当し、同社取締役COO就任。
副業にて京都市の企業連携営業アドバイザーに就任。企業誘致の戦略立案と営業支援に従事。
スタートアップに出会うまで
ーー 新色さんはこれまでどのようなキャリアを歩んできたんですか?
大学では国際政治、金融、情報工学など、一つに的を絞らずに幅広く学んでいました。その流れで、就活でも一つの業種にとらわれず、様々なビジネスや経営が学べる銀行員を選びました。実際、20代で色々な業種の経営者と接点を持てたり、財務中心ではありますが多くの企業の経営を見れたりしたことは、今でも良い経験だったと思っています。
銀行では最初に都心部の法人拠点に配属されました。支店業務では、その土地ごとに特徴的な企業が存在しています。私の初任店は出版の街で、古本屋や印刷会社が多く、どちらかというとマーケット自体が縮小傾向にあり、金融としてもあまり貸し借りが頻繁なほうではありませんでした。それに加えて、入社した4カ月後にリーマンショックが発生し、以降は後ろ向きな話が多くなってきました。それはそれで、企業経営の難しい側面を垣間見たことで、世の中の仕組みを知れたとも捉えています。
3年ほどして、次は本店で大企業向け取引の部署に異動し、約5年間は不動産会社の担当をしていました。当時は2年ぐらいかけてリーマンショックで崩れた後の経済が回復しだし、不動産会社や投資ファンドが市場にお金を投資し始めました。今では都心部は新しいビルばかりになっていますが、当時はその建て替えの案件が多く来ていたので、複数の銀行と共同で百億円規模のお金を融資したりしていました。
今振り返ると、大企業でしかできないダイナミックな経験をさせてもらっていたと思います。その一方で、「ファイナンスも面白いけれど、やはり自分は経営者になりたい」という気持ちが強くなってきました。加えて、大学時代の短期留学での経験もあり、海外のビジネススクールに行きたいなと思いはじめたのです。それで、まずは英語の予備校に通い始めました。今思えば20代後半の週末は、ほぼ留学のための勉強をしに行っていました。[1] TOEFLもしんどかったですが、特にGMATは英語ネイティブな人達が受ける試験なので、2~3年ほど死ぬ気で受験勉強をして、なんとか欧州のビジネススクールに合格することができました。
留学後は大企業に戻って働こうと思っていたので、在学中は全く異なる世界を見てこようと考えました。そこで現地のスタートアップでインターンをしたり、同級生・学校のOBの経営者と積極的に1 on 1のミーティングをするなりしていました。そうしてスタートアップの世界に顔を突っ込んでいるうちに、だんだんとそのダイナミックさに魅了されていきました。
2つの職場経験から見出した自分の方向性
ーー そこからはどのような選択を取られたのですか。
留学2年目、非常に悩みました。数多くの先輩や上司と相談した結果、やはり「大企業の外に出たい」と考えるようになりました。とはいえ、今まで営業しかやったことなかったので、いきなりスタートアップに参加するのも違うなとも。そこでご縁を頂いた戦略コンサルの会社で約二年半、様々な業種の経営コンサルティングを経験しました。
戦略コンサルでの経験は非常に刺激的で学ぶことがたくさんありました。「アンラーニング」という言葉がよく使われますが、大企業とは全く別の思考やアプローチ方法が求められることも多かったです。例えば、以前は「若いうちは考えるより先に手を動かせ」という文化がありましたが、ここでは「考え切るまで手を動かすな」と教えられました。また、融資の稟議では、設定された質問に満遍なく細かく答えきることが求められますが、逆に「本当に必要な論点だけに集中して答えを出せ。まず答えを出せ」と言われます。入社した会社が業界の中でも徹底してロジカルシンキングを叩き込む先でしたので、正直自分は全く優秀なコンサルタントではなかったですが、今の業務で大変役にたっています。
2社目の入社時に「2年経ったらもう一度キャリアを考えよう」と考えていましたが、実際入社して2年ほど経った頃もう一度キャリア見つめ直す機会がありました。「2回目の自分探し」も非常に悩みました。
まずモチベーションの源泉として、銀行時代は「自分は営業より分析業務の方が得意だ」と考えていました。コンサル時代には「自分は分析をするよりも、人とコミュニケーションを取って仕事するほうが好きだ」と、全く逆の趣向に気づきました。そういった経験から、次のキャリアでは事業側(=コミュニケーション)と経営企画(=考える業務)と、両面に関わることのできる職場でキャリアを築いていきたいと思うようになりました。
次に領域について、自分が取り組みたいキャリアの領域を二軸・四象限で捉えた場合に、横軸をイノベーション領域(スタートアップ領域)と、伝統的領域(例えば大企業の既存事業)と分けて、縦軸を投資家側と事業者側とそれぞれ二項対立に区切って考えました。これまでのキャリアでは、伝統的領域に携わってきたので、今度はイノベーション領域を経験したいと考えました。縦軸は、キャリアとして両方経験したいのですが、まずは事業側でやってみようかなと考えました。そういった問題意識を持って色々な方とお話している中でご縁を頂き、今はFinTech領域のスタートアップで活動しています。
四象限の話は、一つのキャリアでまんべんなく経験することは難しいので、今後も引退するまではずっと考え続けていくと思います。
本業と副業に共通したモチベーションの源泉
ーー 今のお仕事について詳しく教えてください。
今は本業では金融系のスタートアップで、COOとして働いています。入社してから最初の半年程は、主に資金調達周りの職務を経験しました。その後は主に事業側の責任者をしつつ少数精鋭の会社ということもあり、自分自身も営業に携わりながら「自社が売上を伸ばすためにどういうアプローチ・戦術が必要か」といった、経営企画的な仕事も兼務しています。
また、副業では京都市の企業誘致に携わっています。ミッションとしては、京都に東京の会社の誘致を目指し、そのために必要な企業側のニーズの実態把握や、誘致のための仕組・戦略作りに携わっています。
ーー 今一番熱量を入れていたり、やりがいのあったりすることは何ですか。
難しい質問ですが、本業・副業ともに共通点がある気はします。それは新しい人に会うことだったり、ご提案・説得して「いいね」をもらうことだったり、共通したパーツがあるように感じます。その中で、本業は基本的には「世の中にまだ無いサービスや仕組みを広げていく」取zり組みなので、提案自体が楽しいですね。提案が刺さったときのクライアントの驚く表情や納得感を得られたときの達成感というか。これは営業自体の醍醐味だとも言えますが。
副業では少し違った醍醐味があり、本来は中々会えなかった方に「ミッションを持って」お会いできるので楽しいです。京都自体には今までも観光や出張で訪れることはあったのですが、今回はより「腰を据えて」と言いますか、「良いところを知ってもらって、企業を誘致する。現地のコミュニティに繋ぎこむ」という明確な役割があるので、その点もモチベーションに繋がっている気がします。
キャリアにおける転職とは
ーー 新色さんは業種をまたぐ転職を何度か経験されていますが、転職することは怖くなかったんでしょうか。また、転職についてどう考えられますか。
最初の転職は、半年以上悩みました。けれど、一回会社の外に出てしまうと二回目、三回目はもう自信もつくし、怖くなくなりました。多分一番怖いのは、外に出て自分は通用するのかと不安になる最初の一歩です。よく考えてみると、大企業にいても定期的に人事異動はあるので、今となっては本質的な違いは実はそんなに無いと感じています。大きな差は個人がどのくらい自分のキャリアをハンドリングしたいか、キャリアにおいて何をしたいかによると思います。大企業の中だとなかなか自分でキャリアをコントロールはできないけれども、逆に大企業の中でしか出来ないこともあるので。
ーー もう一度新卒に戻って就活をするとしたら、どのような選択を取られますか。
うーん。結果論ですが、今携わっている仕事は本業、副業ともに最初から狙ったキャリアというよりは、たまたま自分の中の経験の点と点が結びついているところが大きいです。例えば、新卒で銀行に入社しなかったら今のFinTechに関わっていないでしょうし、副業の仕事もコンサル時代の経験が大きく活きています。とはいえ、どちらも今を想定してキャリアを始めた訳ではないんですね。そういう意味では、もう一度再現することも悪くはないかな、とは思います。仮に、最初から外資コンサルでキャリアを始めたかったか?と聞かれると、それはそれで大企業・大組織の文化、論理が理解できなかった気もしますし、一概に決められないですね。
逆に、新卒時代に戻って思い切り振り切るなら、日本ではなくまず海外で働いてみる、という選択肢も面白いかもしれません・・・相当大変だと思いますが。
SAAIとの出会い
ーー SAAIはいつお知りになられたんでしょうか。また、SAAIで出会って驚いた業種はありますか。
今働いている会社では、元々フルリモートに近い働き方をしていました。事業側の職務が主ですが、コロナ以降は、対面が多かった顧客側もリモートになったのがきっかけです。家にいても少し鬱屈としてしまうので、どこか仕事できる場所を探していました。そんな中、自宅と会社の中間地点である有楽町のあたりをマップで探していたら、たまたまSAAIを見つけたんです。調べてみたら、HPもセンス良いし利用費も安かったので、とりあえず見学に行ってみました。有楽町線から雨に濡れずに行けるのもポイントが高かったです。
内覧に行ってみると、SAAIは単なるコワーキングスペースではなく、人と人が知り合うコミュニティスペースであることを聞きました。最初はあまりそこに拘りなかったのですが、よく考えてみたら自分自身も営業寄りの仕事です。「知らない人と知り合えるほうが楽しそうだな」と考え、利用することにしたんです。コワーキングスペースとしての利用だけではなくて、実際に副業の絡みでSAAIコミュニティマネージャーの方にイベントに出てもらったこともありました。
SAAIではフリーランスだったり、起業家だったり多様な人が多いなとは感じます。また、大企業のイノベーション系の人も結構いるので、普段あまり接しない人と繋がってビジネスが仕立てられるといいなと考えています。
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【SAAI HP】 https://yurakucho-saai.com/
記事執筆者:上野七生(うえのななみ)