積みゲーになった話

朝、目覚めたら積みゲーになっていた。
昨日は布団の上で寝たはずなのに、気がついてみるとなんだか固いものの上に寝かされていて、身動きが取れない。取れないというか、体が箱になっている。
さらに、昨晩かぶって寝たはずの柔らかい羽毛布団が四角四面の重たい箱になっている。それもひとつではない。複数の箱が積み重なっている。
その上、まわりを見回すと四方八方を箱でみっしりと埋め尽くされている。圧迫感がすごい。
そうやってあたりをうかがっていると、扉が開いて出社準備をした僕が部屋に鞄を取りに入ってきた。
「え??なんで??」
「おはよう。君は積みゲーになったんだよ。僕が神様にお願いして、君と入れ替わらせてもらったんだ。君はそうやって積まれながら、ただひたすら取り出されるのを待つだけの運命になったんだよ!」
「そんな……!」
「とりあえず僕は会社に行ってくるよ。稼いだお金でもっとボードゲームをポチるんだ。キミの上にどんどん新作を積んであげるね!」
「ちょっと待って!」
「今日からは僕がスタPさ!!」
よくわからないフレーズを残して、僕が僕を置きざりにして会社に行ってしまった。
追いかけようにも積みゲーなので動けない。
積まれたまんまだ。
することがない。
ボードゲームが日焼けするのが嫌でカーテンを閉め切っているので、窓の外を見ることもできない。
あまりにもすることがないので、隣の箱に描かれたおっさんの皺を数え始めた。
32本あるというのを10回確認したところでまた部屋の扉が開き、僕が帰ってきた。
「帰ってくるの早くない?」
「キミの記憶を頼りに会社に行って席に着いたら、仕事の書類が山盛りに積み上がってるじゃないか!せっかく積みゲーから解放されたと思ったのに、あんなに山積みのお仕事をこなさなきゃいけないのかと考えたらうんざりしてきて、とっとと帰ってきた。僕は元の積みゲーに戻るから、キミ仕事してきて。」
「え。いいの?」
「そのかわりちゃんと積みゲーで遊んでくれ。キミも懲りたろ?」
「いや、意外と悪くなかったかな。」
「そんなんだから積むんだよ。変わろう。」
「断る。」
「え。」
「何にもしなくても困らないし。」
「待って。」
「キミならちゃんと遊んでくれそうだし。」
「いや、その、あれだ。戻る時に特殊能力つけてあげるから。」
「そんなこと出来るの。どんなの?」
「えーと、常にスタP条件に当てはまれる人生を送れる能力」
「その人生、波瀾万丈すぎん?いいよ能力なくても。戻るよ。」
「ほんと?ありがとう!じゃ早速!」
次の瞬間、あっけなく元に戻っていた。

「という訳で、今、改めて出社したんです。」
「なんでその言い訳が通ると思ったの。」
「本当なんです。」
「わかった。わかったから、今日は帰って寝ろ。な?」
「あ。ゲーム崩さずに体調崩したと思ってますね。」
「早く帰りなさい。」

命令に従って家に戻り、玄関先にあった置き配を取り、中身のボードゲームを積み上げると、その積みゲーたちのスキマに体を横たえ、僕は静かに目を閉じた。

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