なぜ女性議員が少ないのか? 女性の政治参加を阻むハラスメントの実態

初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021.07.06 17:00

2021年3月に公表された「ジェンダーギャップ指数」によると、日本の順位は156カ国中120位。特に経済、そして政治の分野で遅れをとっている。

 女性議員の割合は衆議院で9.9%、参議院で22.9%であり、衆議院議員の割合にいたっては世界190カ国中163位(※下院または一院制議会の順位)と、世界と比較しても女性議員の割合は少ない。

 海外に目を向ければ、フランスには「パリテ法」(各政党に対し男女半数ずつの候補者擁立を義務づけている)がある。「クォータ制」(平等実現のためにあらかじめ男女比を決めておく)を導入している国も多い。しかし、日本では「議員になりたい女性が少ないのだから不要だ」といった意見が根強い。

 なぜ多くの女性は議員になりたいと思えないのか。女性だけが立候補したいと思えない環境に問題があるのではないか。

 女性が立候補する際の壁や当選後の困難について、お茶の水女子大学ジェンダー研究所で女性議員へのハラスメントを研究し、女性議員・候補者のサポートプロジェクト「Stand by Women」の代表でもある濵田真里さんに話を聞いた。

濵田真里(はまだ まり)
お茶の水女子大学ジェンダー研究所 東アジアにおける政治とジェンダー研究チーム 共同研究者。専門分野は女性議員に対するハラスメント。政治分野における女性比率が少ないことに問題意識を持ち、研究内容を元にStand by Womenを設立。

女性の立候補者に立ちはだかる壁


——なぜ、多くの女性が「議員になりたい」と思えない状況が続いているのでしょうか。

濵田真里さん(以下、濵田):IPU(列国議会同盟)の調査によると、女性の立候補の壁となっているものとして①家庭内責任、②性別役割(女性のステレオタイプ)、③家族の支援不足が上位に挙げられています。一方、男性は選挙区からの支援、資金不足、政党の支援の不足といったものが上位で、男女で違いがあることがわかります。

 また、2018年に内閣府男女共同参画局が出した調査報告書では、女性議員の増加を阻む課題として①政治は男性のものという意識(固定的性別役割分担意識)があること、②議員活動と家庭生活の両立環境が整備されていないこと、③経済的な負担が大きいことが明らかにされました。

 その他の先行研究でも、家庭的な責任が女性にだけ重くのしかかっており、そもそものスタートラインから男女で差があると指摘されています。

——「政治は男性がなるもの」という潜在意識が、女性が立候補する際の問題として指摘されていますが、そのようなステレオタイプは実際にどう影響していますか。

濵田:まず、今までの基準に沿って政治家に相応しい人物像を考えると、女性がなかなか当てはまらなくなってしまいます。特にステレオタイプとして顕著なのが“働き方”です。議員は日中の活動だけでなく、夜の会合や休日の地域行事にも参加するいわゆる「24時間体制」が求められますが、家事・子育て・介護など、家庭的な責任を担わされることの多い女性に同じような働き方は難しい。

 「子育て中なので、夜の会合は出席できません」とまわりに伝えて活動している女性議員もいますが、議員が24時間体制で動くことを当然と考えている人は少なくないため、その前提から外れる人は選挙で不利になる可能性もあります。

 次に、有権者やメディアのバイアスも女性が政治家として活動しようとする時に大きく影響してきます。特に、年配の有権者には男女問わず「子育ては女性がすべき」という考え方の人も多く、お子さんのいる女性議員には「お母さんなのに仕事をしていて子どもがかわいそう」「子育てが終わってから立候補すべき」といった言葉が投げかけられることもあります。

 メディアの報じ方も、「美人すぎる議員」といった表現を用いて政治家ではなくタレントのような取り上げ方をしたり、プライベートを不必要な部分まで晒したりするといったことが起こりがちです。

 また、男性が力強い演説をすると、「信用できる」「かっこいい」と評価されますが、女性が同様のことをすると「主張が攻撃的すぎる」などとマイナスに捉えられるという、ダブルスタンダードに直面します。女性が何か強く主張したときに「激しい言葉遣い」「感情的」といったジェンダーバイアスに基づいた報道をすることも、女性が政治家として活動する際の壁となっています。

女性をコントロールしたい、という女性蔑視が招くハラスメント


——最近では、女性議員へのハラスメントの実態についても、明らかになってきていますよね。

濵田:私が行った女性議員に対するハラスメント調査でわかったことは、若手、未婚、無所属や野党、といった特徴を持つ女性は、より被害に遭いやすいということです。具体的には、有権者から「かわいいね」「ご飯に行こう」「君と仲良くしたい」といったメールやSNSでのメッセージが何通も届いたり、街頭演説をしていたら体を触られたり、突然自宅を訪問されたり、といったことに悩まされています。

 有権者からの「票ハラ」自体は、男性議員も受けることはありますが、女性議員の方が、活用できる資源が少ないため、より積極的に有権者との関わりを作ろうとします。そのため、有権者との接点が多くなり、ハラスメント被害に遭う確率が高まると考えられます。

 また、昔は議員と連絡をとるには、電話や手紙といった手段が一般的でしたが、今はより気軽に使えるSNSというツールがあります。女性議員を「無料で会いに行けるアイドル」のような感覚で見ている人もおり、議員からすれば有権者を無下に扱うことはなかなか難しく、プライベートの部分まで踏み込んで来ようとする相手も多いと聞きます。

 その他、女性議員が街頭演説をしていたら説教をしてきたり、上から目線で接したりする人もいます。票を暗示することで「女性議員をコントロールしたい」という女性蔑視的な考えも根底にあるのだと思います。

——有権者からだけでなく、職場(同僚議員)からのハラスメントもあるのでしょうか。

濵田:国際調査及び国内の複数の調査では、同僚議員からのハラスメントが最も多いというデータが出ています。議会の中の会議室で詰め寄られたり、直接性的な言動をされたり、それに抵抗を示すと必要な書類を出してもらえないなど、一般的な職場で起きるハラスメントと類似しています。「子どもが小さいのに仕事に来ていいの?」といったマタハラに分類されるやり取りもよく聞きますね。

 また、自治体職員によるハラスメント被害報告もあります。例えば、市政について話をしたいのに、「○○ちゃん、お茶しに行こう」といった扱いをされ、仕事の話をしてもらえなかったという話を聞いたこともあります。

——女性はハラスメントにも気を張らなくてはならず、議員活動に集中できる時間や労力の点で不平等に感じます。

濵田:ハラスメント対応に時間を割かれるせいで、本来の業務以外の部分に労力が取られてしまうことが悔しい、といった声を頻繁に聞きます。また、インタビュー調査の中で印象的だったのが、「選挙公報用の写真はあえて綺麗に写っていないものを使う」という方がいたことです。というのも、綺麗に写っている写真を使うと、有権者からのセクハラが増えるからとのことでした。女性議員たちは様々な場面で自衛せざるを得ないのだなと、衝撃を受けました。

「公人だから我慢すべき」という抑圧


——議員へのハラスメントには、一般社会では犯罪とみなされそうなこともありますが、なぜあまり問題になってこなかったのでしょうか。

濵田:「公人であること」が、大きな足枷になっているのだと思います。周囲からは「公人だからこれくらい我慢しなよ」「話題になるだけいいじゃん」「人気がある証拠だよ」と問題が矮小化されたり、女性議員自身も、同様の認識を持っていたりする場合があります。

 たとえば、当選後に有権者から数年間に渡って、好意を伝えるメールを送られ続けている議員に「警察に相談しないのですか」と聞いたことがあるのですが、「メールをもらっているだけなので、警察も対応してくれないと思う」という回答でした。また、声をあげることで、「この議員は何かあったらすぐ騒ぐ」と有権者から見られるリスクも懸念されているようでした。

 皆さんのお話をうかがっていると、議員がハラスメント被害に遭っても、今の社会の空気感ではなかなか安心して声をあげられないように思います。「公人だから議員はハラスメントくらい我慢すべき」といった人権を無視した風潮が、議員へのハラスメントを温存しているひとつの要因ではないでしょうか。

——そもそも、議員がハラスメント被害に遭った場合、相談先はあるのでしょうか。

濵田:ハフポストによる各政党へのアンケート調査によると立憲民主党は<ハラスメント防止対策委員会を設置している>、共産党は<相談・対応できるように秘書・候補者担当者を配置している>、N党(現・嵐の党)は<女性候補者1人での選挙運動・政治運動は避けるなど>と回答しています。ただ、対策がされていない政党の方が多く、政党内に相談窓口があっても、地方議会では無所属の方も多く、取り残されてしまっているという現状があります。

 今年6月に「改正候補者男女均等法」が成立し、議会に対してセクハラ・マタハラ対策が義務化されました(政党には努力義務)。対策を行うためには実態を知る必要があるのですが、これまでに実施された調査はごく僅かですので、今後さらなる調査が行われることが期待されます。

——法改正によってどのような変化が期待されますか。

濵田: 内閣府の調査では、ハラスメント対策の有効策として、研修や倫理規定の整備を希望する議員が多いという結果が出ました。こういったものが整備されている議会は少ないので、すでに行われている事例を参考にして、ぜひ実施してほしいです。

 議会におけるセクハラ・マタハラ対策に関しては、法改正によってようやくスタートラインに立ったところです。義務化となったので、何らかの取り組みはされると思いますが、取り組み方は議会によって異なりますし、取り組みの達成度をどう測定するのかも気になります。

——内閣府の調査では議員活動を行う上での課題として「プライバシーが確保されないこと」も女性からの回答で上位に入っていました。議員名簿で自宅住所が公開されている自治体も多いですよね。

濵田:そうですね。そういう状態だと、議員に立候補することを躊躇される方もいますし、住所公開に対する強い不安を抱いている女性議員は多いです。男性議員からも、「自分がいない期間を狙って、誰かが家に来ないか不安」といった声があがっています。

 メールやSNSが普及していなかった時代は、有権者が議員の自宅に直接行って相談することも珍しくなく、住所公開が必要だとされてきたのだと思います。しかし、ネットを通じて誰でも住所を知れてしまうような状況は、プライバシーや安全の観点から考えると、リスクも非常に大きいです。

——人権もプライバシーも守られず、そのうえセクハラも絶えないのであれば、議員になりたい女性は増えませんよね。

濵田:地域によっては、議員のなり手不足の問題が生じていますが、議員になったら様々な理不尽を強いられると知りながら立候補することは、ハードルが高いです。「公人だから我慢しろ・受け入れろ」と様々なことが抑圧されがちですが、議員も人間です。

 「政治家=男性」のイメージは根強く、未だに「女性なのに政治家をやっている」といった偏見を抱かれることもあります。「政治家になりたくない理由」を女性たちに聞いた調査では、「向いていない」と回答している女性が最も多く、それは政治家像が「24時間体制で活動できる」「セクハラを受けても受け流せる」など、男性モデルであることが影響していると感じます。政治家像を変えなければ、政治家になりたい人は増えないのではないでしょうか。

 また、立候補・当選する女性がいても、1期で辞めている女性議員がたくさんいるのですが、この状況では、穴の空いたコップに水を入れているようなもの。性別に関係なく誰もが「議員になりたい」と思える状況にすることと、議員の活動環境を改善にすることを両輪で進める必要があると思います。