ドラマ『カラフラブル』で描かれた、ジェンダーや多様性と向き合う登場人物たち

初出:wezzy(株式会社サイゾー)2021.06.07 17:15

『逃げるが恥だが役に立つ』(TBS系)を始め、多様性やジェンダーに関するメッセージや問題提起の含まれたテレビドラマが増えている。

 2021年4月期のドラマでも、メッセージ性のあるドラマはいくつか放送されているが、6月3日に最終回を迎えた『カラフラブル〜ジェンダーレス男子に愛されています。〜』(日本テレビ系)は、ラブコメの楽しい世界観を表現しつつ、毎回印象に残るシーンがある作品だった。

 なお、「ジェンダーレス」という言葉は、いわゆる“男っぽくない男子”“女っぽくない女子”であることを想像させる。しかし、性差がない、もしくはなくそうとしている人に対して使われていることや、それに「男子」「女子」という言葉をつけ、カテゴライズすることには疑問の声もあがっている。

 そんなこともあり、正直、最初からメッセージ性に期待していたわけでなく、なんとなく見始めた作品の一つだったのだが、第一話から良い意味で裏切られ、毎回何かしら考えるきっかけを与えてくれるものだった。

「自分は本当は何をしたいのか」に向き合う登場人物たち


 同作は『FEEL YOUNG』(祥伝社)で連載中の、ためこう作『ジェンダーレス男子に愛されています。』が原作で、吉川愛と板垣李光人のW主演作品だ。

 吉川演じる町田和子(わこ)は自分自身を着飾ることにはあまり興味がないが、美しい人やモノに目がない仕事熱心な漫画編集者。

 板垣が演じる相馬周(めぐる)は古着屋で働きながら、天上天下唯我独尊のワガママ有名モデル・キラ(桐山漣)のスタイリストを務める。中性的な美しい容姿で、女性に間違われることも珍しくない。自分でもそんな自分の外見が気に入っており、性別に捉われないファッションやメイクを楽しんでいる。

 そのほか、和子が所属する編集部の編集長・鉄本あさひを水野美紀、あさひと同期で女性漫画誌のデスクを務めるシングルファーザーの境正美をおいでやす小田、周をライバル視する子ども番組のお兄さん・ゆうたんを永田崇人が演じる。

 『カラフラブル』が最初から最後まで一貫して伝えていたメッセージは「自分らしく、好きな自分でいること」であり、登場人物たちが「自分は本当は何をしたいのか、どうしたいのか」に向き合う姿が魅力的であった。印象的だったシーンをいくつか紹介する。

「男らしさ」「女らしさ」よりも「自分らしさ」


※以下、ネタバレが含まれます。

 第一話では、従来の「男らしさ」「女らしさ」よりも「自分らしさ」を大切にするメッセージが込められていた。

 和子と周が出会ったのは高校時代、“女子っぽい”容姿であるのを理由に周がいじめられているところを、和子が助けたことがきっかけであった。周のかわいさに衝撃を受けた和子は「最高にかわいい!」と声をかける。和子に「周くんは周くんらしくしてていいんだよ」と言われたことで、周は自分らしさを大切にするように。周はこの頃から和子に思いを寄せていた。

 時は流れ5年後、和子が勤める出版社で周がスタイリストを務めるモデル・キラの撮影があり、そこで偶然二人は再会する。周はストレートに和子への思いを伝えるものの、和子は戸惑った様子。というのも、周のことは「かわいい」「美しい」と思いつつも、突然の告白であったうえ、また、「どうでもいい」と言いつつも、周がカフェで奥に座ったり、周との身長差がないといった「恋愛あるある」に当てはまらないことに縛られていたからだ。

 ある日、撮影に使うキラの衣装が破れてしまい、和子が縫って直すことに。手こずっているところ、周が助けに来て手際よく直していく。そんな周を見て、和子は料理や掃除も苦手で「女子力が低い」と自己否定する。

 それに対し周は<女子力ってなんだろうね>と返し、続けて<和子ちゃんは和子ちゃん、僕は僕、それだけじゃだめなのかな>と投げかける。高校時代、周は自分に自信が持てなかったが、和子が「自分らしくしていい」と言ってくれたおかげで自分のことを好きになれた。周にとって和子はヒーローであり、困ってる誰かのために戦える、そんな和子の姿に惹かれたのであった。

 周の影響を受け、他者から期待される「らしさ」や、社会で当たり前とされていることに捉われる必要はないと自信が持てるようになった和子。「美しい容姿が好き」だけではなく、周のことがもっと知りたいと感じるようになり、二人のお試し交際が始まるのであった。

一人ひとり違ってわからないからこそ“話す”

 和子と周は言葉によるコミュニケーションを大切にしていることも特徴的である。それが象徴的だったのは第二話だ。

 第二話では、和子がPMS(月経前症候群)や生理に苦しめられる様子が描かれる。いつもと様子が違う和子を心配する周だが、和子は「周は男の子だから話せない」という理由で誤魔化す。

 仕事中、顔色が悪く、よろけてしまうほど辛そうな和子に周は「病院に行こう」「救急車を呼ぼう」と言うが、和子は「ただの生理だから!」と止める。反応に困ってしまう周。だがその後、薬局で店員に勧められたものを買い和子の家へ。周は体感的に生理の辛さを知ってるわけではない。だが、知ろうとする周の行動に和子は心を打たれ、涙を流しながら次のように打ち明けるのであった。

<生理ってね、人によって痛みも感じ方も違うんだ。すごい重たい人もいれば、軽くて気付いたら終わっちゃってる人もいるし。でも、それぞれ違う悩みがあって……分かってくれる人なんていないと思ってた>

 これに対し周は<だから話そう>と言葉を返す。

 今の大人の多くは小学生の頃、生理の説明があったときに、女子だけ集められ、男子は何も説明を受けなかっただろう。そうして生理は「男性には話していけないもの」とタブー視されてきた。生理休暇の制度があっても男性の上司には正直に言える雰囲気ではなかったり、女性同士でも人によって辛さが違うゆえに理解されないこともある。

 だが、PMSも生理痛も重い人にとっては、月の半分の期間は何かしら不調を抱えており、それが毎月毎月続いている。「生理痛が辛いなら一度産婦人科に行ったほうがいい」という知識は広まりつつあるが、まだまだ産婦人科へ行くハードルが高いという声も少なくない。

 生理に関して、誰にでもオープンにすればいい、というものでもないが(例えば、筆者も親しくない男性に急に生理について聞かれたらびっくりしてしまうと思う)、まず、身近な関係でタブー視することなく話せるようになったらいい。周の「だから話そう」という言葉には、生理に限らず一人ひとり違っており、言わないとわからないこともあるのだから、「話して理解し合うことが大切」というメッセージが込められているように感じた。

多様性を認めないことも多様性?


 近年、「多様性を尊重」という考え方が広まる一方で、「多様性を認めない多様性も認められるべき」という主張も見られるようになった。『カラフラブル』ではそのことについても取り上げており、周の生き方に対し、疑問を投げる人物が登場する。

 第三話では、キラと、子ども向け番組のお兄さん・ゆうたんが共演することに。ゆうたんは不思議系のかわいらしいキャラで売っているのだが、エゴサをして「最近劣化している」「27歳であのキャラ」といった意見を見て傷つくことも。

 ゆうたんの番組にキラがゲスト出演する予定だったが、キラが上手く子どもとかかわれず、急遽、周がキラの代役を務めることになる。監督から評価され、子どもをも惹きつける周にゆうたんは嫉妬心を抑えきれず、周をロッカーに閉じ込めてしまう。

 無事、周は収録に合流できるのだが、遅れた理由についてはゆうたんを庇って本当のことを話さなかった。自分に対して敵意を抱いているゆうたんだが、周はゆうたんが抱える辛さを感じ取り、ゆうたんとの対話を望んでいた。

 ゆうたんは高校生のとき、仲良くしていた女友達からアウティングをされていた。アウティングした女友達は<ゆうたんのためだよ。ずっと隠してるなんてしんどいでしょ。大丈夫、みんなわかってくれるよ>と言ったものの、アウティングをきっかけに、ゆうたんは学校で無視やいじめを受けるようになり、ゆうたん自身もロッカーに閉じ込められる経験をしていた。キャラとしてのゆうたんは「世界はカラフル」と言いつつも、そうでない現実を突きつけられた経験から、自分らしく伸び伸びと生きる周を受け入れられなかったのだ。

 対話によって、周にも辛い過去があったことを理解するゆうたんだが、<君と僕とでは所属する世界が違うんだろうけれど>と境界線を引く。それに対し、周は<そんなカテゴライズ必要?>と問いかける。

 だが、逆にゆうたんは次のように周に投げかけるのであった。

<多様性を認める、カラフルな世界を認めるってことはさ、僕たちを嫌いっていう思いも受け止めるってことじゃないの。だから世界がカラフルなんて安易に教えないほうがいい>

 その後、周はキラのマネージャーからの勧誘をきっかけに芸能活動を始める。そして第7話ではゆうたんと再会、周とユニット「ユニコーンボーイズ」を組んだささめ(草川拓弥)と3人でトークイベントを行うことに。

 相変わらず周に強く当たるゆうたん。「傷つくことを言われても、意見として受け入れる覚悟でやっている」と話すゆうたんに周は、<傷つくって声をあげることも大事だと思わない?>と問いかける。これに対しゆうたんは<そういうことしてると面倒くさい奴だって思われるんだから>と声をあげることを拒否するが、周は<でも笑顔になる人がいるなら僕は頑張る>と返す。

 イベント当日、ゆうたんに一通のメッセージが。アウティングした同級生から、トークイベントに来ることと、ご飯の誘いの連絡が届いた。その同級生と顔を合わせたくないし、何事もなかったように接することができないと苦しい心情を吐露するゆうたんだが、周は<ゆうたんは優しすぎるんだよ。もっと自分の心に素直でいいんじゃないかな>と言葉をかける。

 一方、周はゆうたんからの「多様性を認めるということは自分たちのような人間を嫌いという気持ちも受け止めるべきでは」という問いに、イベントでは次のように自分の思いを語った。

<僕はメイクしたりネイルしてる自分が好きなんです。だからそれで時代を変えようとか、そういうのはあまりなくて……。ただ、僕たちみたいに色々な子もいるってことをみなさんに知ってもらえたら嬉しいです。そして僕たちはSNSの中だけに存在するユニコーンみたいな架空の存在じゃなくて、みなさんと同じ世界に生きてて、みなさんと同じように喜んだり悲しんだりするんです>

 現実世界においても、SNS上での誹謗中傷が社会問題になっていることは周知の事実だ。マイノリティとされる人や、芸能人といった、一見自分とは違う世界に生きていると思ってしまう人でも「同じ世界に生きてて、みなさんと同じように喜んだり悲しんだりする」ということが当然のように理解されれば、「嫌い」と思うこと自体は自由でも、アウティングしたり、いじめたり、傷つける言葉をぶつけたりといった、相手を傷つける言動をする自由まで認められているものではないことはわかるだろう。

 第7話の見どころはここだけではない。イベント終了後、同級生から話しかけられたゆうたん。同級生は自分のせいでゆうたんを傷つけたことを自覚していなかった。複雑そうな表情を浮かべながらゆうたんは次のように告げた。

<もうさ、「全然気にしないで。お店しまっちゃうからご飯行く?」って言えればいいんだけどさ……僕も君を忘れたことなかったよ。ばいばい>

 「自分が何に傷ついたのか」理解していることを同級生に期待していたが、その期待は裏切られた。同じ苦しみを知る周には涙を見せ<辛いときは辛いって声をあげるの大事だね、ちょっと時間が動いた気分>と心を開いたのであった。

 「謝られたら許すべき」という風潮があるが、許すか許さないかは謝られた側に選択肢がある。「相手が反省しているんだから許してあげるべき」「時間が経ってるのだから忘れるべき」といった抑圧があるが、ゆうたんのように「許さない」という選択をしてもいいことを示してくれた。

“女性活躍”における課題や、働き方の見直しも


  和子の編集部の編集長・鉄本あさひを通じては、女性が直面する偏見や課題についてが表現されていた。

 特に印象的だったのは第9話。あさひに対して関連子会社の代表取締役への人事異動の通達があるのだが、「なぜ自分なのか」と問うと、人事担当者は彼女の実績を認めつつも(実際に数字としても結果を残している)、「今の時代に重要ポストを任された女性がいないのは、社外的に良くないのではという意見があった」と、女性が会社のパフォーマンスに使われる様子を描いた。

 さらに、異動先は売上的には“お荷物状態”で、「改革をお願いしたい」と言われ、危機的な状況で女性がリーダー的ポジションを任されやすい、まさに「ガラスの崖」。おまけに人事担当者は<女性としての目線、期待しているよ>と言い残した上に、異動先には女性社員すらいないという「女性一人に女性を代表させてしまう」という問題まで描かれた。現実社会に存在する課題を明確に描写しており、作り手の問題意識が感じられたシーンであった。

 本作は「多様性」がメインテーマのドラマであるため、従来の「男らしさ」「女らしさ」が否定されているのでは? と想像する人もいるかもしれないが、そうではない。

 周とユニットを組んだささめは、事務所の意向でかわいらしい格好をさせられているけれども、本当はいわゆる“男っぽい”男性に憧れている。そんなささめに周は<ささめくんは、ささめくんのかっこよさを目指せばいいよ>と声をかけるシーンもあり、『カラフラブル』が従来の「男らしい」「女らしい」好みを否定するものではなく、「自分らしく生きること」を大切にしている作品だということが伝わってくる。

 他にも“おじさん”と“イマドキの若者”の世代間ギャップや、シングルファーザーの悩み、働き方など、この作品に込められたメッセージは多岐にわたる。

 筆者は三周したが、毎回新たに発見する気づきやメッセージがある。人それぞれ、自分の環境や置かれている立場によって心に響くポイントが異なり、自分なりに受け取って解釈・吸収して楽しむことができるだろう。

 『カラフラブル』は「Hulu」で全話配信されているほか、11月5日にはDVD-BOXの発売が予定されている。