見出し画像

地域資源を生かした取組で「御殿場」を広めたい ーリージョンポート合同会社 代表社員/富士山ツーリズム御殿場実行委員会事務局長 田近 義博(たぢか よしひろ)さんー


はじめに

東部地域局では、東部地域で活躍されている方を取材し、その方の視点から見た地域の魅力を紹介しています。今回は、富士山御殿場口 新五合目のコミュニティースペース・マウントフジトレイルステーションの設置を提案・推進されたほか、御殿場市でのイベント開催の企画運営に携わり、地域の振興に尽力されている、田近義博(たぢかよしひろ)さんにお話を伺いましたので、御紹介します。

マウントフジトレイルステーションの設置について

■マウントフジトレイルステーションとは
通称トレステ。御殿場口新五合目の情報発信基地として、またコミュニティスペースとして富士登山期間のみ開設。富士山ツーリズム御殿場実行委員会が主催し、御殿場市や御殿場市観光協会が共催、さらに民間企業など協力のもと運営されています。2013年のプレオープンから年々内容を充実させ、情報発信・登山者への安全の啓発・環境保全・自然教育という4つの運営目的にあわせたイベントやセミナーも開催。高まる海外での富士山人気に応えるために、英語のできるスタッフを常駐。英語のマップや案内表示なども用意し、富士山や御殿場の魅力を伝えるとともに、安全で楽しい登山をサポートしています。

ートレステの設置を提案したきっかけや経緯について教えてください。

東日本大震災発災と30歳になったことを機に東京の旅行会社や広告代理店を辞め、地元・御殿場市に戻ってきました。その際に、御殿場の魅力を十分に活用しきれていないと感じました。そのような課題を感じながら御殿場市のスポーツや観光の事業に携わる中で、夏場に何か富士山でできることはないか、と考えました。ちょうど今から10年前の富士山が世界文化遺産に登録されたタイミングもあり、富士山御殿場口の五合目にお盆の時期にテントを張り、情報発信を行ったり、休憩できる場所を作りました。終わった後に、このようなステーションが今後もあれば良い、といった意見があり、本格的に形にしていくことを検討しました。そして、御殿場市協力のもと地元の若手事業者を中心に声をかけ、実行委員会の設立に至りました。

― トレステの運営にあたり、心掛けている点を教えてください。

今年は登山以外の目的で来た観光客などに、少しでも山に入ってもらい、登山を体験してもらうことに繫がる取組を行いました。山登りは、山頂に到達することだけではなく、楽しみ方がたくさんあります。山登りの楽しさを体験していただくために、歩いて15分程度でスポットに到達できるスタンプラリーを行ったり、休養林のガイドツアーを開催しました。

トレステの運営にあたり、観光や登山案内という目的のほか、人材育成という視点も重視しています。1年目から関わっている人たちが今でも来てくれているので、少しずつ訪問者を増やし、関係人口を増やしていきたいです。また、今後は自分の代わりに担ってくれる若い世代を育て、委ねることも考えています。

― 安全登山の啓発という視点で、工夫されている点があれば教えてください。

まず、装備品は継続して展示しています。観光で来られた方も含め山に入る方で、普通の靴で来たり、簡易的な雨合羽で来る方がいます。そのような方に、本来安全のために必要な装備品を確認したり再認識する場を提供しています。

また、登山者とコミュニケーションをとることも安全啓発の一環として大切にしており、我々が登山で経験したエピソード等もお伝えしています。楽しい体験だけでなく、危険と判断し5分で引き返した経験等の怖い体験も伝え、危険な場合や体調が優れない場合は勇気を持って戻りましょうと伝えています。また、5合目と山頂では天候が大きく異なる場合もあるため、山頂の天候もお伝えしています。富士登山は素晴らしい経験ができる反面、危険と隣り合わせでもあるという、両面を理解していただいた上で登山してもらいたいです。


ACO CHiLL CAMP(アコチルキャンプ)について

■ACO CHiLL CAMP(アコチルキャンプ)とは
静岡県御殿場市にある富士山樹空の森をメイン会場とする音楽フェス。2015年にスタート。“3世代がファミリーで楽しめるフェス”をテーマに、音楽やスポーツ、お笑いなどのステージ、各種ワークショップ、アスレチック、飲食コーナーを展開。

― アコチルキャンプがスタートした経緯について教えてください。

都内で御殿場に関するアンケート調査を実施しましたが、御殿場市に富士山があることを知らない人や、そもそも「御殿場」自体知らない人が多数いました。また、御殿場市に富士山があることを知っていても、登山道があることは知らない人がほとんどでした。このアンケート結果から、御殿場という名前が思っている以上に認識があいまいと実感し、まずは御殿場という名前を知ってもらうことが必要だと感じ、イベントを軸に体験してもらえるファミリー向けの野外音楽フェスを始めました。

― 「3世代がファミリーで楽しめるフェス」をテーマにした理由を教えてください。

小さい子どもには様々な体験をしてもらいたいという思いがあります。以前、幼少期にキャンプを経験することで、将来の社会性に影響を与えるという論文を読んだことがあり、幼少期からアウトドアを体験してもらいたいという思いがあります。また、寝袋で寝る経験は、災害時にも役立つと思います。

プロの音楽家やスポーツ選手に直接教わる体験を通じて、子どもにとって彼らのようになることが将来の夢となり、実現したときに「御殿場で経験したことがきっかけでプロになりました」と言ってくれる人が出れば、それでまた御殿場という名前が広がっていくと思います。何かをチャレンジしてもらうきっかけ作りの場として提供できれば良いと思っています。そのために、出展者には、必ず参加者が「体験」できるものを提供してもらうことを出展の条件としています。

― イベントの運営にあたり、環境の面でこだわっている点などがあれば教えてください。

1年目で使用した装飾物などの資材を、現在も再利用していたり、リメイクして転用しています。そのため大きなゴミが発生することが少ないことに加え、イベントに係るコストを抑えられることができています。

― 今年は10周年と伺いましたが、10周年の節目の年を迎えるにあたり、力を入れている部分はありますか?

イベントとして何か大きく変えるということはありませんが、より多くの方に参加してもらうために、中学生まで無料で参加できるようにしました。立ち上げ当初、未就学児や小学生の時に参加してくれた子どもたちが、現在中学生となっていますが、またイベントに参加してほしいという思いからそうしました。高校生や大学生などについてもできる限り参加料を抑えています。

また、今年は静岡県内への告知プロモーションの強化を図っていきたいです。地元の人が地元の魅力を発信することが一番説得力があるため、静岡県内の人が、静岡の魅力を実感し、それを自発的に発信することが、結果として一番のPRに繋がると思います。自分たちの地域の魅力を自分たちが知ることを最優先するために、県内の方により多く参加していただきたいです。

ただし、10周年だからといって特別なことを行うのではなく、継続性の方を重視して、今まで通り初心を忘れずに開催していきたいです。


― 最後に、田近さんが思う御殿場市の魅力について教えてください。

静岡県のお住まいの方であれば当然かもしれませんが、富士山の景色は何よりも魅力です。また、わさびや水など、御殿場ではまだまだ知られていない一級品があります。美味しい水があることにより、ウイスキー、日本酒、ビール、ワイン、焼酎などのお酒が御殿場市ではつくられています。多種類のお酒がひとつのまちでつくられていることも魅力のひとつだと思います。県内だけに留まらず県外の方に向けて魅力の発信を行うことが重要だと思います。

おわりに

今回の取材では、主にマウントフジトレイルステーションとアコチルキャンプについてお伺いしましたが、田近さんは他にも様々なイベント等の事業を実施されています。詳細はHPやSNS等で御覧ください。


■関連する静岡県の取組紹介
県では、安全・快適な富士登山の実現に向けた取組を行っており、富士登山者の遭難を防止する目的で、初心者や外国人登山者をターゲットに、富士登山の前に必要な準備や、富士山特有の気象条件などに関する知識について分かりやすく解説した動画を制作し、YouTube にて配信しています。

                          (担当:中野)