Continental 対 Avanci米国特許訴訟(第一審)の概要

提訴日:2019年5月10日

原告: Continental Automotive Systems, Inc(自動車部品メーカー)
被告: Avanci, LLC(4G必須特許のパテントプール)、Nokia Corporation(4G必須特許の特許権者)、等

【Continentalの主張】

1. Breach of Contract

被告は、2G、3G、4G規格に関して関連の規格策定団体等に対して行った契約的コミットメント(contractual commitments)を締結し、あるいは、これによって拘束されている。関連の規格策定団体のIPRポリシーを遵守するためには、被告は、規格策定団体等に対する拘束力のあるcommitmentにより、被告が保有する必須特許によってカバーされる携帯電話規格のユーザーに対して、FRAND条件で、取消不能のライセンスを許諾するように義務付けられている。
IPRポリシーに従ってなされた宣言は、被告がFRAND条件で保有特許をライセンスするという合意を含め、規格策定団体およびそのメンバーとの明示または黙示の契約を生み出した。ETSI、TIA、ATISのIPRポリシーは、そのメンバーに対して、FRAND条件でライセンスを取得する権利を制限していない。メンバーではない第三者も、FRAND条件でライセンスを許諾される権利を有する。規格策定団体によって発行された2G、3G、4G規格を実施する製品を持つ当事者は、Continental、そのサプライヤー、その顧客を含め、被告のcontractual commitmentsに利害関係を有する第三者である。
しかし、被告は、Continentalに対するライセンスを拒絶している。
したがって、被告は、規格策定団体に対する彼らの義務に違反している。
被告の契約上の義務違反の結果として、Continentalは、損害を被っている。
そこで、Continentalは、①被告はContinentalに対してFRAND条件でライセンスの申出をせよとの裁判所決定、および、②当該ライセンスのためのFRAND条件の裁定、を求める。


2. Promissory Estoppel

被告は、関連の規格策定団体に対するcommitmentsまたは彼らのpublic statementsを通じて、2G、3G、4G規格の潜在的なユーザーに対して、必須特許をFRAND条件でライセンスするという、明確な約束をした。
被告の約束の本来の目的は、これらの約束への信頼を生じさせ、Continentalのような企業が、関連の規格に準拠する製品の設計製造に投資を振り向けるようにさせることであった。被告は、Continentalのような企業が、そのような信頼をするであろうことを知っていたし、また知るべきであった。
Continentalは、被告の約束を信頼して、製品/サービスを開発し販売した。
被告は、promissory estoppelの法理により、これらの約束を反故にすることを禁じられる。
Continentalは、被告の約束を信頼したことにより、損害を被っている。

3. Declaratory Judgment

被告は、2G、3G、4Gの必須特許を、FRAND条件でライセンスする契約上の義務を負っている。Continentalと被告との間には、以下に関する明確な、現実の、実質的な司法上の論争が存在する。(1)Continental及びその他のサプライヤーは、FRAND条件での直接のライセンスを受ける資格を有するかどうか、(2)被告が保有する必須特許についてのFRAND条件とは、どのようなものか。
Continentalは、以下についてdeclaratory judgmentを求める資格を有する。(1)Continentalおよびその他のサプライヤーは、FRAND条件で直接のライセンスを取得する権利を有すること、(2)被告は、Continentalに対して、FRAND条件での直接のライセンスの申出をしていないことの確認、(3)本件でのFRAND条件の内容の確認、(4)FRAND条件は、smallest salable patent practicing unit ruleに合致したものでなければならないことの確認。

4. Violation of Section 1 of the Sherman Act, 15 U.S.A 1 – Concerted Action Unreasonably Restraining Trade

被告とその共謀者(co-conspirators)との間には、契約または共謀が存在する。その契約は、以下のような反競争的な合意を含む:(a) 中間の部品サプライヤーに対して、FRAND条件で直接ライセンスするための部品サプライヤーとの交渉を拒否する旨の合意、(b) 必須特許ライセンスの最低条件を定める旨の合意、(c) Avanciが、自動車完成品メーカーから、競争的な価格を超えるロイヤリティを取得することができるように、部品サプライヤーに対するFRAND条件での直接のライセンスを拒絶することによって、潜在的なライセンシーがAvanciからライセンスを取得するように仕向ける旨の合意、(d) FRAND条件を超える条件でライセンスするために、特許をプールする旨の合意、 (e) 必須特許に非-必須特許を混ぜて1つのパッケージとすることで、FRAND条件を超えるロイヤリティを正当化しようとする旨の合意、(f) 必須特許と非-必須特許とのバンドルをする旨の合意、(g) 必須特許のライセンス料の最低限を固定化する旨の合意。
被告と共謀者との間の合意は、以下の理由によって、商取引を不合理に制限している:(a) 代替技術を排除している、(b) 標準化技術を搭載するコストと消費者への価格を引き上げている、(c) サプライヤーの投資を減少させている、(d) baseband processor市場における競争を減少させている、(e) バンドルされている非-必須特許のライセンスにおける競争を減少させている。
上記の共謀行為によって、自動車完成品メーカーへの補償をしなければならないこと等によって、Continentalは損害を被っている。
Continentalは、共謀合意が不法であり、当該行為を止めること、具体的には、FRAND条件でContinentalにライセンスせよとの裁判所命令を求める。

5. Violation of Section 2 of the Sherman Act, 15 U.S.C. 2 – Unlawful Monopolization

関連のtechnology marketsは、有効な反トラスト市場(antitrust markets)である。
被告であるライセンサーは、故意に、関連のtechnology marketsにおいて独占的な地位を獲得し、維持している。
被告であるライセンサーは、関連の規格策定団体に対して、自社技術が携帯電話規格に採用されたなら、必須特許のライセンスを求める者に対して、FRAND条件で必須特許をライセンスする、との偽りの表明をした。
規格策定団体は、必須特許を規格に採用するに際し、上記のようなFRANDライセンスの表明に依拠した。被告であるライセンサーの技術は、規格に完全に組み込まれた。
当該技術が規格に完全に組み込まれた後、被告であるライセンサーは、必須特許をFRAND条件でのライセンス交渉を拒否してきた。
Continentalは、被告であるライセンサーの排他的な行為が違法であり、そのような行為を禁止する旨を宣言する裁判所命令を求める。

6. Violation of Section 2 of the Sherman Act, 15 U.S.C. 2 – Conspiracy to Monopolize

関連の市場は、有効な反トラスト市場である。
被告であるライセンサーおよびその共謀者は、彼らの専有技術の規格化の結果として、意図的に、関連のtechnology marketsにおいて独占的地位を獲得し、維持している。
被告とその共謀者は、自動車完成品メーカーに対してのみ、非-FRAND条件で必須特許を共同でライセンスすべく、Avanciの設立を共謀した。被告は、他の共謀者と、Avanciを、規格の実施者とのライセンス交渉で圧力をかけるための道具として利用する旨の合意をした。
被告およびその共謀者は、Avanciが、上記のような共謀のスキームを実行することに合意した。
被告およびその共謀者の排他的な行為は、自動車業界のあらゆるレベルでの競争を阻害している。
Continentalは、このような排他的で共謀的な合意が違法であり、このような違法な行為を止めるよう宣言する裁判所命令を求める。


【2020年9月10日付け裁判所命令(Northern District of Texas, Dallas Division)】

1. Antitrust Standing (競争法の論点を提起できる当事者適格の有無)

(1)当事者適格を有するといえるためには、以下の条件を満たす必要がある。
① injury-in-fact, an injury to the plaintiff proximately caused by the defendants’ conduct;
② antitrust injury;
③ proper plaintiff status, which assures that other parties are not better situated to bring suit.”

(2)antitrust injury要件を満たさない:

被告は自動車完成メーカーに対して標準必須特許のライセンスのオファーをしているから、ContinentalはBaseband processorを組み込んだ部品を自動車完成メーカーのために製造することを継続することができる。
被告がFRAND条件で自動車完成メーカーにライセンスしなかった場合、Continentalはコスト増の損害を被る可能性があるが、Continentalはコスト増加分が自社に転嫁されるであろうことを十分に説明していない。

(3)たとえ自動車完成メーカーのantitrust injuryがContinentalに転嫁させるとしても、Continentalは競争法上の争点を提起するbest plaintiffとはいえない:

Continentalがantitrust injuryを被るかどうかは自動車完成メーカーがロイヤリティ負担をContinentalに転嫁するかどうかにかかるから、Continentalは間接的な犠牲者にすぎない。

2. Section 1 of the Sherman Act

仮にContinentalがAntitrust Standingを有するとしても、Avanciとそのメンバーとの契約は、メンバーが必須特許を個別にライセンスすることを禁じておらず、被告は、特定市場における商取引を制限する共謀を行っていないから、Section 1 of the Sherman Actの違反はない。

3. Section 2 of the Sherman Act

仮にContinentalがAntitrust Standingを有するとしても、被告は、違法な独占や独占の共謀は存在しないから、Section 2 of the Sherman Actの違反はない。
なぜなら:
被告の市場独占は、その反競争的な行為によって獲得されたものではない。
特許権者は、特許権をライセンスする合法的な独占権を持つ。
標準規格の策定自体は、競争的プロセスを害するものではないし、従って、消費者を害するものではない。

独占性の獲得が不法であるというためには、それが違法な反競争的な行為によって獲得されたものといえなければならない。必須特許の特許権者がFRAND義務に違反することは、反競争的とはいえない。

合法的な独占者が独占的な価格を請求することは、不法でないばかりでなく、自由市場システムの重要な要素である。

特許権者は、特許価値を最大化させるために価格差別(price discrimination)を用いることができるし、そうしても競争法に違反することにはならない。
必須特許の特許権者はFRAND義務を負担することによって必須特許をライセンスする権利を契約的に制限するという選択をすることができるが、しかし、このような契約上の義務の違反は競争法上の違反行為ではない。

いくつかの裁判例では、必須特許の特許権者が標準化団体に対して反競争的な不正行為および詐欺的な行為によって独占性を獲得した場合には違法な独占性を獲得したといえる、との判断をしている。
しかし、当裁判所は、このような見解には同意しない。
より高い価格を得るために騙しのテクニックを用いることは、競合他社を排除する行為として典型的なものではなく、したがって競争を減少させる典型的な行為ではない。
たとえそのような騙しによって競合他社の技術が規格に盛り込まれることから排除されたとしても、そのような競合他社の損害は、競争プロセスに対する損害ではなく、反競争的なものではない。
このことを踏まえ、そのような行為を行うことの合意は、独占の共謀を構成するとはいえない。

4. Declaratory Judgment Claims

FRAND条件でのライセンスの議論の解決を求めるdeclaratory judgment actionは特許侵害に関するfederal questionを生じさせる可能性がある。
しかし、Continentalは、被告がContinentalは必須特許を侵害していると考えていることを示唆するいかなる事実も明らかにしていない。
それどころか、議論は被告の契約上のFRAND義務に関連し、それはfederal questionを生じさせない。
したがって、当裁判所は、Continentalのdeclaratory judgment claimsについてfederal question jurisdictionを持たない。
さらに、Continentalのfederal claimsのすべてが却下されることを踏まえ、当裁判所はContinentalのdeclaratory judgment claimsについてsupplemental jurisdictionを行使することを拒否する。
したがって、declaratory judgment claimsは事物管轄(subject matter jurisdiction)の欠如により却下される。

5. Contract, Promissory Estoppel

当裁判所は、これらの論点についてfederal question jurisdictionを有さない。
また、declaratory judgment claimsの場合と同様、当裁判所は、これらについてsupplemental jurisdictionを行使することを拒否する。
したがって、これらの請求は事物管轄の欠如により却下されるべきである。

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