米国特許訴訟判決で認定される損害賠償額_“smallest salable unit”と“Entire-Market-Value(EMV) Rule(全市場価値規則)”

(1)米国特許法における損害賠償(284条)

①米国特許法上、以下の2つの方法での損害賠償額の認定が可能:

1)「失われた利益」に基づく損害賠償額

2)「合理的な実施料」に基づく損害賠償額


②一般的に、失われた利益は、合理的な実施料に基づく賠償額よりも高額だが、因果関係(=侵害がなかったなら特許権者が販売を行っていたであろうこと)の立証が難しい。それ故、「合理的な実施料」に基づく損害賠償が認定される場合が多い。


(2)“smallest salable unit (smallest salable patent pricing unit (SSPPU))”と“Entire-Market-Value(EMV) Rule(全市場価値規則)”:

上記いずれで賠償額を算出するにしろ、算出の基礎が対象特許に係る部分(部品)に限定されるのか、それとも、その部品が搭載された製品全体に及ぶのかが問題となる。
この問題に関わるのが、“smallest salable unit”という概念とEntire-Market-Value(EMV) Rule(全市場価値規則)である。

①“smallest salable unit”とは、特許発明が実施されている販売可能な最小単位の部品(unit)をいう。
特許権者は、当該特許の侵害からの損害賠償を得ることができるだけであって、侵害製品のその他の特徴部分から損害賠償を得ることはできないため、特許権者は、原則として、“smallest salable unit”を基礎として算出された損害賠償を得ることができるにすぎない。

ただし、これには、“Entire-Market-Value(EMV) Rule(全市場価値規則)”による例外がある。

②EMVルールとは、特許が製品全体の一部にのみ係る場合に、権利者による一定の要件の立証が認められれば、製品全体を基礎とした損害賠償(例えば、逸失利益方式による損害賠償を請求する場合は、製品全体の販売に対する逸失利益の賠償)が認められるルールをいう。

*一定の要件 = 特許部分の特徴が製品全体の顧客需要の基礎となっていること(=特許部分の特徴が完成品の需要を創出している場合)

③上記「一定の要件」の適用の厳格さは、時代により変遷している。

「一定の要件」の適用を厳格に解した裁判例には、以下のようなものがある。

例えば、2012年8月30日Laserdynamics事件CAFC判決は、以下のように判示する:
「全市場価値規則の適用は、LaserDynamicsはこの特許方法(CD/DVD自動判別方法)がラップトップコンピュータの需要を増大せしめたと挙証していないので、許されない。CD/DVD自動判別方法がラップトップコンピュータの使用に価値ある重要なあるいは不可欠とさえいえる機能であると考えられると示すだけでは不十分である。特許の方法を実施する光学ディスクドライブがないラップトップコンピュータが取引上あり得ないと挙証しても不十分である。これが充分であるとすれば、ラップトップコンピュータの多くの付加的機能が、製品全体の需要を増大せしめると看做せるということになる。たとえば、高解像度ディスプレー、応答キーボード、高速ネットワーク受信機、長寿命バッテリーは、すべて、ラップトップコンピュータのある意味重要な不可欠な特徴である。しかし、消費者がそのような特徴がないラップトップを欲しないとの証拠は、これらの特徴のどれか一つでもラップトップの市場を増大せしめるとの証拠にはならない。自動CD/DVD識別があるものとないラップトップで選択する場合、自動識別付きのラップトップを選択するとしても、その機能があることがラップトップを購入するように動機であったかは無関係である。」

また、Brocade Communications Systems事件(C 10-3428 PSG <N.D. Cal. May 15, 2013>)のカリフォルニア州地方裁判所判決は、以下のように判示する:
「EMVルールの採用にあたっては、原告(特許権者)は、まず第一に、侵害の特徴(特許部分の特徴)が顧客が当該製品を購入する主たる理由(primary reason)であることを証明しなければならない;侵害の特徴(特許部分の特徴)が当該製品に必要とされることだけでは不十分である」。

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